コンサルティングの現場から

流れ

奥山 典昭 [カウンサル・ジャパン]

第一線で活躍する現役キャリアコンサルタントの筆者が、転職市場・企業の動向から活動アドバイス・キャリア形成のヒントを紹介。採用現場の最前線から、これから時代の転職、求められる働き方・キャリアに迫ります

流れ

人材派遣という雇用形態があります。もうわが国でもすっかり有名になったシステムであり、これを事業のひとつと位置づける私たちも「派遣」を世間に周知する立場にあります。ここ長野県でも、派遣の引き合いや問い合わせをよくいただきますが、そんな時、私たちは必ず「なぜ派遣なのですか」と問い返します。

「派遣を使う」という言葉には合理性や効率性の匂いがあるのでしょうか? 派遣を使う必然性なく「派遣を使っている会社」の仲間入りをしようとする経営者が増えています。派遣雇用システムを採用してメリットが生まれるケースは、世の経営者が考えているよりずっと限定的であるにもかかわらず、です。

高度専門技術を社外の人から借りるという起源的な活用動機が逆にレアケースとなった今、本当に派遣を使う意味があると思われるのは、大手企業が社内の人事制度に組み込んで大量の派遣労働者を動員する場合か、あるいは、必要期間が限定的な短期雇用や需要の継続が不確定な場合など安定的な常用雇用を見込めない場合などに限られています。

それ以外の場合、派遣会社に払う労務管理費を含んだ派遣コストを払う意味が見出しにくくなるという事実があります。安易に「軽い採用」を志向した結果、様々な要因によって社内の士気が下がることも少なくありません。そして何より、派遣という就業形態を第一希望とする労働者など世間で喧伝されているほど多くはないという事実は、もう少し周知されるべきものだと思います。

派遣雇用導入の結果、コストや派遣労働者のモラール面など様々な面で直接雇用と比較してデメリットが発生する場合も多いことは、意外なほど企業人事に理解されていません。派遣を使うと面倒くさいことを省けるからという意識が、経営者の脳裏をかすめることが派遣活用動機の端緒なのでしょうが、実際のデメリットの大きさをその目で確認することができたとしたら、さすがにいくら面倒くさくてもそこで再考を促されることになるでしょう。

話は変わりますが、私たちがある東京の会社の採用支援を行ったときのことです。人材獲得の手段のひとつとしてある中途採用ポータルサイトを利用しました。その顧客企業が小規模でありながら、市場を勝ち抜いていけるだけの経営資源を持つ求職者にとって魅力的なフィールドだったこともあって、そのサイトから10名を超える応募者が集まりました。

私たちは採用支援を行う場合、私たちが募った求職者を集めて採用アセスメント(職務遂行及びマネジメントの能力診断)を行います。サイトから応募のあった求職者にも連絡をしてアセスメントへの参加を呼びかけましたが、結果としてその中での参加者はゼロでした。当日のキャンセルが2件ありました。なかにはその会社に応募したことなどまったく覚えていない人もいました。結局、新聞広告を見て応募した方でアセスメントを行い、履歴書を文字で一杯に埋めて速達で送ってきた素朴な若者が採用されました。

先日も新聞に新卒採用のサイトの普及度の高さと、企業や学生のそこへの依存度の大きさ、そして問題点を述べた記事が大きく載っていました。このようなシステムに参加をしないと学生は採れないという企業の声や、これを利用していない学生は周囲にはいないという学生の話が紹介されていましたが、一方では学生の意識の質が低下していることへの懸念や、そのシステムだけを頼りすぎての機会損失のリスクなどへの言及もありました。

就職という人生の一大事に立ち向かう学生のために、そして企業の将来を左右するであろう新卒採用を控えた企業のために、このような超有効手段が生み出されたことは、本当に素晴らしいことだと思います。ただ、「他が使っているからこれなしには考えられない」という企業の姿勢には何か情けないものを感じます。「うちは昔からのやり方でポストに願いを込めて応募書類を投函する人間をとるんだ」という気概のある大企業がもう少したくさんあってもいいのに、と思います。

派遣にしろ、採用ポータルサイトにしろ、それ自体は社会にとってとても意義あるもので、すでにこの世になくてはならないものとしての地位を確立していることに意義を唱える人はいないでしょう。しかし、便利なものがこの世に登場する時、それによって何か大切なものが表舞台を追われるのも世の常です。

どうもこの国の人には、新しいもの、合理的に見えるものが主流になりかかると、その流れに競い合って乗ろうとし、乗ってしまうとそこで安心してしまい、メリットとデメリットの検証が疎かになるという傾向があるようです。これはとても不幸なことだと思います。与えられたものを妄信的に享受することからは何の進歩も改良も生まれません。利用者である企業の高い見識から生まれる厳しい批判や提言なしには、新しいサービスを提供する事業者の成長も望めません。

雇用や採用など、人に関わる部分で安易に楽をしようとすると必ず手痛いしっぺ返しを受けることになります。合理的なサービスでカバーできる部分とそうでない部分を切り分けて、本当の意味での効果性の検証を行うことの必要を今強く感じます。経営者や企業人事が汗をかくことを厭わなくなり、リスクテイクを当然の仕事として捉えたとき、初めて人事関連サービスと企業とのパートナーシップのあるべき姿が見えてくるのだと思います。

奥山 典昭 (おくやま のりあき)
1960年東京生まれ。大学卒業後入社した商社にて、1986年から1991年まで香港現地法人に駐在。大手メーカー海外マーケティングマネージャー、人事系コンサルティングファームコンサルタントなどを経験した後、1999年11月、長野県諏訪市のミスズ工業グループの出資を受けて、カウンサル・ジャパン株式会社を設立。同社取締役に就任。人事戦略コンサルタント。
高校入学以来23年間続けているラグビーが唯一最大の趣味。現在も国内最強のオーバー40ラグビーチーム「不惑」でプレーするため、特急「あずさ」の回数券を買い込み、毎週、諏訪⇔東京を往復する。
2003.11.18 update

[ この記事のバックナンバー ]