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格差考

経営コンサルタント 佐藤 修一

統計分析によると、日本で世帯間の格差が広がっている最大の原因は、高齢化や単身世帯の増加からです。所得格差を示す代表的指標であるジニ係数(イタリアの統計学者コンラッド・ジニが考案した国民の所得格差の程度を示す指数。全世帯が同じ所得なら0で、1に近づくほど所得格差が大きい)の拡大は9割近くがこれで説明されます。
今回は、“格差考”についてお伝えしたいと思います。

所得格差が大きい高齢層はもとより、若年層でもジニ係数は拡大しています。仕事が気に入らないとすぐに転職したり、フリーターになる若者が増えており、こういう行動を取れるのは日本が豊かになった証拠とも考えられますが、必要な技能や勤労意欲がないと見なされるため、上場企業を対象とした調査では、8割以上の企業が、「フリーターを雇わない」と回答しています。

フリーターを続ければ、生涯賃金は正社員の半分以下になり、結婚もしにくくなります。社会保険に入っていない人が多いため、中高年になった時に貧困になる恐れが強くなり、将来相当な制約を背負うことになる可能性があります。

一方、バブル崩壊後の長期の景気低迷で、企業が人件費を抑制するために、非正社員を多用したことも格差拡大の原因となりますが、すべてではないと思われます。

社員は一生懸命働いても、所得が増えなければ、労働に対する意欲は高まらないことから、努力して能力や成果が上がったことに対して報いることは必要です。高齢化や仕事の高度化を考えると、企業は職務の明確化や公平な査定基準を導入し、成果主義を進めざるを得ないでしょう。

日本では、欧州とは異なり、「同じ職種でも雇用主が違えば給料が違うのは当たり前」という感覚が根強く、格差が縮まらない原因となっています。

また、企業が社員の能力開発を担ってきましたが、対象は正社員にとどまりがちです。非正社員やフリーターに能力開発の機会が与えられることを可能にするため、国は経済的な支援のほか、職業資格制度を準備するなどの支援策も検討課題となります。

少子化に目を向けると、背後に格差が潜んでいることが感じられます。少子化とは、合計特殊出生率が長期にわたり人口置換水準(一般的に約2.1)に満たない状況をさします。2005年、日本の全体人口は減少に転じ、最近公表された「人口動態統計」によると2005年合計特殊出生率は1.26となっています。

この出生率の低下の原因として、大きく二つのことが考えられます。一つは若年層を中心とした未婚化であり、もう一つは既婚カップルの出生率の低下です。だれが結婚し、だれが何人の子供を持つか。実はこれらに「格差」が絡んでいると思われます。

ここで重要な点は、一家の稼ぎ手としての夫の役割と、家事・子育てを担う妻の役割が、未婚化の流れの中で確固として存在していることです。どうして結婚したくないのか、あるいは結婚願望と現実とのミスマッチが未婚化の原因なのか、厳密なところはわかりません。しかし、だれが未婚になりやすいかに、学歴差や収入差があります。まさに結婚行動における階層差です。ちなみに、学歴差は精神的健康に、収入差は身体的健康に影響を与えるとされています。次に、既婚カップルがどれだけの子供を持つかという、完結子供数をみると、高所得層ほど子供数は少なくなっています。経済的に豊かだからといって子供が多いわけではなく、子供一人に費やす投資額は高所得層ほど高くなっています。

だれが結婚し、だれが子供を生んで、どう育てるか。そこに先ほどの階層差があり、それが子世代の階層性へと受け継がれていきます。このメカニズムこそが機会の不平等であり、不条理な格差として子供にのしかかることになります。

出産・子育てについては、一生を通した柔軟な働き方が一つの鍵となります。少子化について大切なことは、様々な生き方の選択幅を社会が受け入れることだと思われます。少子化は格差を伴って進行していますが、格差は特定のライフステージにいる一握りの者にとってだけの問題ではありません。

総じて、格差是正に向けて企業は、働き方や仕事の進め方、内容を見直し、労働者の私的生活を充実させるとともに、仕事の付加価値も同時に高めていくことが必要となります。この結果として、人材の確保や自己啓発により、業績も向上する「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)が実現できます。

この実現のためには、企業にとって厳しい方策が必要となります。現実には、ホワイトカラー部門の長期的労働や恒常的残業は非効率な働き方の結果ともいえ、それが是正できれば問題は解決するでしょう。高い目標は、むしろ企業の創意工夫を促して生産性向上に貢献し、労使にとってプラスとなり、労働ビッグバン(労働市場の制度改革を通じて、活力ある経済と働きやすい社会の構築を目指した動き)の理念に一致すると思われます。

佐藤 修一(さとう しゅういち)/経営コンサルタント・シニアカウンセラー

住友ビジネスコンサルティング(現 日本総合研究所)にて人事戦略コンサルティングに従事。経営人事に注視し組織欲求と個人欲求の統合を目指す。
※組織変革、人事労務管理、トータル人事システムの構築、能力開発等。
[ アウトプレースメント会社 ]人事コンサルティング事業の構築、求職へのキャリアマッチング、社内カウンセラーの能力開発、スーパーバイザーを担当/
[ 行政機関・大学 ]キャリアカウンセリング、キャリアデザイン、キャリアディベロップメントの講義

[ 資格 ]経営士、経営情報診断士、帳票管理士、監督士、シニアカウンセラー、販売士養成講師、 余暇生活開発士、余暇生活相談員、心理相談員、東京都中高年齢者福祉推進員、東京都アドバイザリースタッフ等
[ 大学/学会等 ]中小企業大学校、千葉工業大学、千葉商科大学、上武大学各講師 国際TA (交流分析)協会名誉会員、日本産業精神保健学会 認定専門職
  • 探究心旺盛なことから、日本でただ一人いる、フロイトの孫弟子に師事し臨床経験からカウンセリング、カルテ、薬等様々に学ぶ
  • 官公庁及び電力会社など公的企業、大手企業を中心にコンサルテーションを実施する
2007.4.2 update

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