正しいコンサルタントの選び方

応答〜心の眼を養うこと〜

経営コンサルタント 佐藤 修一

呼ばれても返事をしない人が多くなってきたのは、いつごろからでしょうか?口をきかなくても目的を達し得る自動化の蔓延がいわゆる「社会的失語症状」の人を増やす一因になっているのかも知れません。今回は、“応答―心の眼を養うこと”についてお伝えしたいと思います。

良好な人間関係を保つには会話は最も大事であり、その第一歩は呼ばれたら返事をすることから始まります。

ある医者によると、病院でも看護師が大きな声で呼んでいるのに、返事をしない患者がいるそうです。診察者が直接呼ぶとたいてい返事をするのですが、姿は見えなくとも、仕切りの陰で待つ患者の返事の仕方、声の調子、呼んでから返事までの間のあき方などから、その日の体調、経過が良くなったか、思わしくないかなど、瞬時にして感じとることができるのだそうです。このように患者の返事は、医学的に参考となる情報を与えてくれるのでしょう。

これに関して、医の四診、漢方の診察法で、望診・聴診・問診・切診の四つがあります。

望診 顔色・舌の色・肌のつや・肉付きなどを目で見て診察する方法
聴診 患者の体内で発生する音を聴き取り、診断すること
問診 本人や家族の病歴、現在の病気の経過・状況などを尋ねること
切診 手や指で患者の身体に触って診断すること

ですが、この考え方は、部下を持つ管理者にも当てはまると思われます。
とりわけ、

望診 元気の良さ、表情等からやる気をはかる
聴診 部下の報告、悩み事等を聴く
問診 管理者として必要な、聞かなければならないことを尋ねる
切診 上記三診を踏まえ、実際の指導(指示・命令)をする

となるでしょう。

仕事柄、管理者の方々に部下指導・育成の心得として、「診断眼」、「観察眼」をもって望まれることの大事さをお伝えしていますが、やはり、経験豊富な管理者は、常日頃、部下の職場でのやり取り、つまり行動・態度・発言、返事をする声の様子等から、部下の心の様子、仕事の進み具合を本人に聞かずとも把握され、かつ、部下が自分のところへ報告に来る際に、何の件の報告か会話をせずとも予知できるとされています。反面、部下からも、「今日は、機嫌が良い、悪い、今はタイミングが悪い」等いつも見られていることを忘れてはなりません。

「診断眼」、「観察眼」について脳の老化との関連から考えると、注意深くよく見て、思考する「眼」を養うことは、人間にとって大事なことになります。老年になると、新聞やテレビにしても、ただ漫然と見がちになります。そうではなくて、何かを得ようと注意しながら一生懸命見るように心がけたいものです。そして疑問に思うことがあれば、積極的に調べてみる習慣をつけるとよいでしょう。また、ある事柄に興味を持って注意を払うのを関心といい、特に未知のこと、珍しいことに対して強い関心を示す場合を「好奇心」といいますが、好奇心があってこそ人間の進歩があるわけで、幼い時からこれを養い、老いてもその心を失わないようにすることが大事なことと思われます。脳の老化を防ぐには、好奇心というほどではなくとも「はてな」「なぜだろう」と思う心をいくつになっても持ち続け常に何かに関心を抱き、思いめぐらす(頭を使う)習慣をつけることが望ましく、これらは行動や考え方が、固定的・画一的であり、新鮮味のない、いわゆるステレオタイプ的思考を防ぐことにもつながります。

さらに、このステレオタイプ的思考について適応力と老人の面から考えたいと思います。心理学では老人の特徴として、一般的に「適応力がない」とされていますが、適応力のない人が80歳や90歳まで生きるでしょうか?私たちは、老人を自分の言いたいことだけ言って人の言うことは聞かない「自己中心的」といっています。地位や権威のある人ならそれを許容し、むしろそれに適応しようとさえするのに、老人にはそれをしようとしません。子供のパーソナリティー特徴で、「遊んでばかりで働かない」「人生の深みを知らない」とは言わないでしょう。子供には子供の世界があるのだから、大人の基準で一方的に判断したりはしていません。老人にも老人の世界があります。「活動性の減退」と言われても、ゆっくりした生活が老いた体にはちょうど合っているのだから、若い人と比べるのはおかしいと思われます。これらのことから、私たちは老いへの適応力が低下しており、その結果「自世代中心のステレオタイプ主義」に陥ってしまっているのではないでしょうか。「心(思いやり)の眼」をもって対応することの大切さが求められています。

呼ばれたら「ハイ」と返事をする。どんな些細なことでも、人に何かをしてもらったなら必ず「ありがとう」と言う。そして「おはよう」「おやすみ」など日常の挨拶を習慣づけるといった三つのことを、幼い時から当然の躾として家庭で教え込み、また学校教育の一貫として徹底させたならば、環境は変わると思われます。

つまり人間としての謙虚さ、感謝の気持ち、思いやりの心を、自然なかたちで物心ついたときから養うことがきわめて重要となります。そうすれば、“いじめ”もなくなるのではないでしょうか。それにはまず大人が手本を示さなければなりません。

佐藤 修一(さとう しゅういち)/経営コンサルタント・シニアカウンセラー

住友ビジネスコンサルティング(現 日本総合研究所)にて人事戦略コンサルティングに従事。経営人事に注視し組織欲求と個人欲求の統合を目指す。
※組織変革、人事労務管理、トータル人事システムの構築、能力開発等。
[ アウトプレースメント会社 ]人事コンサルティング事業の構築、求職へのキャリアマッチング、社内カウンセラーの能力開発、スーパーバイザーを担当/
[ 行政機関・大学 ]キャリアカウンセリング、キャリアデザイン、キャリアディベロップメントの講義

[ 資格 ]経営士、経営情報診断士、帳票管理士、監督士、シニアカウンセラー、販売士養成講師、 余暇生活開発士、余暇生活相談員、心理相談員、東京都中高年齢者福祉推進員、東京都アドバイザリースタッフ等
[ 大学/学会等 ]中小企業大学校、千葉工業大学、千葉商科大学、上武大学各講師 国際TA (交流分析)協会名誉会員、日本産業精神保健学会 認定専門職
  • 探究心旺盛なことから、日本でただ一人いる、フロイトの孫弟子に師事し臨床経験からカウンセリング、カルテ、薬等様々に学ぶ
  • 官公庁及び電力会社など公的企業、大手企業を中心にコンサルテーションを実施する
2007.2.1 update