あの本を書いたあの人が教えるキャリアの極意
転職のタイミングと会社の見極め方
講師:山崎元氏
「失敗転職」なんて、したくない 入社前にチェックすべきことは何?
「この転職、失敗だった!」との後悔の原因は、入社前のチェックの甘さにあった。次にどんな仕事をしたいのかと転職のテーマを決めること、「入社後にどんな仕事をすることになるのか」を納得いくまでしっかり聞き出すことが、とても大切なのだった。
「この転職は失敗だった!」と後悔するのは
やりたい仕事ができなかったときだ
―― 山崎さんから「転職のある人生も悪くない」と聞き、僕、前向きに転職を考えてみることにしました。でも、できれば失敗転職はしたくない。成功のコツってあるのでしょうか?
そうですねぇ。「この転職、失敗だった」と後悔するときって、だいたい最初の詰めが甘いことが多いですね。
―― 最初の詰め……ですか?
「この転職、失敗だったな」と思うときって、自分が思い描いていた仕事ができなかったときなんですよ。逆にいうと、人間関係や給料に多少の不満があっても、やりたい仕事ができていれば、たいがいは自分の中で折合いがつくものです。だから仕事内容——「自分がなすべき仕事は何で、権限が何か」を入社前に確認しておくことが重要です。「会社側は、採用しようとしている人間に対して、どんな仕事をさせようと考えているのか」を直属の上司になる人との間でしっかりチェックするわけです。
どんな会社でも入社後にギャップを感じることはありますが、それを最小限にするためにも、入社前にきちんと話し合っておくべきですね。
ほかにも、自分の上司が誰で、本社の権限とどうつながっているのかといった意思決定の流れや、入社後にどんな成果を挙げることを期待しているのか、自分の働きはどんな指標で評価されるのかなどについても確認しておくといいですよ。あ、それから、仕事に必要なリソースも入社前に確保しておくといい。―― 仕事に必要なリソース?
たとえば、スタッフやアシスタントの採用可能人数とその権限とか、システムやデータに必要な予算とか……。
―― ず、ずいぶんたくさんあるんですね、入社前に確認しておくべきことって……。面接でそんなに強気に交渉できるものなのかなあ。
大丈夫ですよ。だって、応募者の立場がいちばん強いのは、相手が自分を採用したいと思っているとき、つまり入社前なんですから。入社してから決めようとすると、曖昧なまま時間が過ぎていってしまうもの。だから面接や入社条件の確認時に交渉することは少しもおかしいことではない。逆に、こちらの質問や要求に対して「それは、入ってからだんだんと決めていこうと思っている」など納得のいく答えが出てこないなら、「採用する人間に対して、その程度の意識しかない会社なんだな」と思えばいいんですよ。
今回の転職で手に入れたいものは?
転職するときはテーマを決めよう
もうひとつ、大切なことがあります。ちょっと質問しますが、ズバリ、鈴木さんの今回の転職のテーマは何ですか?
―― テ、テーマですか? テーマといわれても……。
転職にはテーマが必要です。鈴木さんが今回の転職で、いちばん手に入れたいものは何ですか? お金ですか? 経験やスキルですか? それとも発言や時間の自由度ですか?
―― えーっと……エンジニアとしてのスキルを高めたいです。具体的には、プロジェクトや部下のマネジメント経験をもっと積みたい。そのためなら拘束時間が長くても構わない。お給料はアップするに越したことはないけれど、絶対条件ではないですね。何よりもまず、現場のマネジメントを任せて欲しい!
ほら! ちゃんと鈴木さんなりのテーマが出てきた。今回の転職では、マネジメントの力を付けたい。だから、プロジェクトやスタッフのマネジメントをどんどん任せてもらえる裁量権、つまり「自由」がほしい。その代わり、「時間」(勤務時間)や「お金」(給料)に関しては譲歩してもいいと考えている。今回の鈴木さんの転職のテーマは、自己裁量という「自由」を手に入れることなんです。このように、実は「時間」と「お金」と「自由」は、ビジネスパーソンとしての人生戦略を考える上で交換可能なんですよ。
―― 交換可能? 「時間」と「お金」と「自由」がですか? いまひとつよくわからないんですけど。
私の例で説明してみましょうか。12社目のUFJ総研に転職したときの私のテーマは「自由」でした。何よりも時間の使い方(完全フレックス制)と、自分のいいたいことをいえる発言内容の「自由」が欲しかったから、それを確保できるシンクタンクに転職したんです。「自由」を手に入れた分、会社からもらえる給料は半減しました。でも、減った分は自由な時間に原稿を書いたり講演をしたりして、そのギャランティで補えると考えた。 実際、トータルで年収3割増くらいになりましたよ。
とはいえ、UFJ総研が理想的な会社だったかといえば、そうでもない。「社の戦略として、もっとこうした方がいいのに」など気になることはいろいろあった。でも、「自由に働きたい」と考えていた当時の私の価値観にはフィットしていたから満足でした。
すべてに満足できる職場なんて、そうそうない。だからこそ、「今回の転職で手に入れたいものは、何か」をしっかりと自覚して、適宜「時間」「自由」「お金」のバランスを調整しながら、自分の満足度を高めていけばいいんだと思いますよ。
超ワンマン社長だって、気が合えば楽しい!
ダメな会社かどうかは、自分と会社の関係次第
―― 12回転職した山崎さんでさえ、100%満足できる職場にはめぐり合えないのか。となると、ダメな会社を見極める方法なんてものは、存在しない?
12回転職してわかったことは、どんな会社にも、いいところもあれば、悪いところもあるということ。ダメな会社かどうかは、あくまでも自分との関係性で決まってくるんです。たとえば、社長が超ワンマンな会社は、一般的にはとても働きにくそうですが、自分と社長の気が合いさえすれば、大きな仕事を任せてもらえたりもする。だから、万人に共通する「こんな会社はダメ」というルールは存在しないわけです。そんなものがあれば私が教えてほしいくらい(笑)。
だから、会社がダメかどうかを考えるのではなく、自分の価値観に合うか合わないかを考える方がいいですね。先のワンマン社長の場合と同じで、世間的に評価が高いといわれる会社でも、合う、合わないは人によりあるのです。その会社の社風が超体育会系のイケイケドンドンだとします。すごくハマって活躍する人がいる一方で、一向に馴染めない人も出てくるわけです。
自分がどんなタイプで、どんな環境ならしっくりハマるのかを考えて転職先を選ぶことは、ビジネスパーソンとして最高のパフォーマンスを発揮するためにも重要だと思います。やっぱり、価値観に合わない会社で働き続けるのはキツいですからね。
―― た、たしかに。僕は、イケイケドンドンの会社じゃあ絶対に長続きしないと思います。ダメな会社かどうかを考えるのではなく、会社と自分の関係をはっきりさせて、自分の価値観に合った会社を選ぶ。うーん、だんだんわかってきました。
会社と自分の関係でいえば、私は転職先を「取引先」だと考えるようにしています。
―― 転職先が取引先?
自分のことを、「自分の仕事」を商品として販売する会社だと考えるのです。私だったら山崎商店、鈴木さんなら鈴木商店というわけです。すると勤務先は、商品を買ってくれる主たる取引先になりますよね? そう考えると、会社を特別視しなくなる。
会社に過剰な期待を寄せたり、「ウチの会社」という台詞が出てきてしまうほど会社と自分が「一体化」してしまうと、思い通りにいかなかったときの絶望の度合いも大きくなってしまうものです。
商売にあたっては、取引先が常に好ましい状態にあるとは限らないでしょう? 給料が安い、経営状態が不安、人間関係がうまくいかないなど、入社後にさまざまな問題に直面したとき、勤務先を取引先と考えておくと冷静に対処できますよ。
―― なるほど。会社との間にほどよい距離感を持った方がいいと。
もしかしたら私は、12回の転職をする過程で、会社のことを「ウチ」と感じる自分を捨てたのかもしれません。会社で仕事をするとは、自分のスキルや労働力を売ることなんだと意識の転換をしたのだと思います。それを「寂しいこと」とする考え方もある。でも、私はその分、自由を手に入れました。より好ましいと思う仕事の仕方を選ぶ自由、自分が「正しい」「伝えたい」と思うことを発言する自由。
転職12回というのは、率先して勧められる類のものではないし、転職回数は少なく済むなら、その方がいいに決まっている。でも、チャレンジしたいことがこの会社ではできないとか、突然異動になったとか、心境も環境も変化することがある。そのときの選択肢として転職を選んだ私は、この12回の転職人生、けっこう気に入っているんですよ。
山崎元氏から学んだ、胸に刻んでおきたい3つのこと
1.仕事内容は、入社する前の確認・チェックが大切
2.転職にはテーマが必要。「今回、得たいものは何か?」をはっきりさせる
3.100%満足の転職なんて、なかなかない。「時間」と「お金」と「自由」のバランスを考えよう