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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第19回(後編) 澤田果歩さん(仮名)32歳/事務職
この会社にいてもは自分もダメになる キャリア不足と年齢の壁を突破し 希望の仕事に転職成功!
広告会社の営業から事務職に活路を見出した澤田果歩さん。しかし、その会社も、社長のワンマンを許し、改善の意欲も持たないどうしようもない職場だった。澤田さんは考える。30歳を過ぎ、事務職のキャリアはわずか1年程度での転職。できるか……。「いたずらに悩んでいてもしょうがない。うん、やれるっ!」。決断は素早かった。だが、現実は厳しかった──。
ストレスに耐えて働き続けるのは
自分にも会社にもマイナス
 

 高校を卒業してからアルバイトや契約社員の仕事はしている。人と協力しあい、責任を持って職務をこなすことには、自分なりに経験を積んでいるという自負はある。いつの間にか、自分に課された仕事だけでなく、後進の指導や社内行事の采配など、別の仕事も頼まれ、うまくこなしてきた。それが自分の中で実績になっているとも感じていた。

 しかし、今の建設会社の総務課に就いてからわずか1年余りであり、特にそれ以前に職務経歴書に書いて目を引くような資格や肩書きがあるわけでもない。もちろん、専門的に何かを学んできたというものもない。年齢も、もう30歳を超えている。これが澤田果歩さんの現状だった。

 

 転職するにはあまりに不利な条件が多すぎやしないか、我慢して会社に留まるという選択肢をもっとじっくり検討する必要があるのでは……。そう考えて躊躇する人は決して少なくないだろう。しかし、澤田さんは違っていた。

「次に希望していた職種も事務職だったのですが、年齢、キャリアともに厳しいということは重々承知でした。しかし、この現状はどうしようもないですよね。どうにも変えられない事実を不安に思ってうじうじ悩むよりも、それをしっかり受け止めた上で行動するべきでしょう?」

 そして社内に留まるのも限界が見えていた。

「社内がよくない環境だと思ったら、まず改善を図る。効率の悪い作業環境であれば、自分ができる範囲で改善する。自分だけではどうしようもないことであれば、職場の仲間と相談する。上司に提案し、検討してもらう。それでもダメなら、私が去るしかない。悪い環境の中でストレスを貯めこんで、耐えて耐えて働き続けることは、自分のためにならないし、社員が一様にそんな様子だったら会社も発展していかないですよね」

 澤田さんの勤めている会社は、一族会社ということもあり、どんな不満があっても社長の言うことに「NO」という社員はいなかった。そんな中で、ボーナスの一律カット、社員のリストラなどが行われ、先が明るいようには見えなかった。この状況でも、気が付いたことは、積極的に提案もし、改善策も図ったつもりだが、新人に近い澤田さん一人が、会社全体の意欲を高め、効率のよい作業環境を整えることはしょせん無理な相談だったのだ。

 それならば、自分が出るしかない。澤田さんにとっては単純な結論だった。

キャリアの浅さを指摘され
"一刀両断"だった面接
 

  入社して約1年が過ぎ、本気で転職を考えていた頃、ほとんど偶然に近い形で、澤田さんは【人材バンクネット】の存在を知った。

「ネットを見ている中で、たまたま【人材バンクネット】のPRを見たのです。多数の人材バンクと提携して、情報のやりとりをしている。私はまず、これはいけるかも、と期待を持ちました。また、人材バンクは、私達のような求職者と企業の間に入り、転職を成功させることで報酬を得ているわけですから、コンサルタントは本気で転職者の面倒を見てくれるはず(※1)だと思ったわけです」

 希望は、人事や総務などの事務職。業種については不問。現在の年収を上回ること。これが澤田さんの考えていた条件。そして、【人材バンクネット】にキャリアシートを登録したところ、すぐさま10社からスカウトメールが届いた。(※2)このなかには、「ともかく会ってみましょう」というものから、まずその会社のフォーマットに沿って改めて登録用紙を書いて送付するように指示されたものまで、さまざまな内容だった。

 

「まずは面談してくれるスカウトメールにだけ、返信を出すことにしました。せっかく届いたスカウトメールの半分ほどは無視することになってしまいますが、直感的に直接会って、私を知ってもらう以外にアピールできる方法はないと思ったのです。キャリアシートはいわば、挨拶文。名刺のようなもの。そこから〈私〉という素材を引き出してもらわなければ、自分を活かすことはできないと思ったわけです」

 確かに、澤田さんの場合、キャリアシートをそのまま読めば、『事務職のキャリアはないようなものです』『わずか1年程度で転職したいと考えています』ということになってしまう。もちろんそれは事実なのだから、積極的に採用したいと思う会社は多くはないだろう。よって、キャリアシートに現れていること以外の何かに期待してくれる会社にしか、活路を見出せないのではないか。それが澤田さんの考えだった。そこで、会ってみようと言ってくれた企業に直接電話して、面談の日取りを決めることにした。(※3)

「でも、面談を甘く見ていました。最初に行った人材バンクでは、ほとんど露骨な言い方で『あなたに適した仕事は当社にはありませんね』と告げられました」

 それでも別の人材バンクで何社か紹介してもらえた。しかし面接で、やはり澤田さんのキャリアの浅さが問題にされてしまう。

面接官:この局面で、わからないことがあったらどうしますか?
澤田さん:まずどなたかご存じの方におうかがいします
面接官:その人の貴重な時間を割いて教えてもらって、その分の代償をあなたはどう補うつもりなのですか?

 確かにキャリア採用の場合、企業が求めるのは「即戦力」。ひとつひとつかみ砕いて教えてもらう余裕はないだろう。澤田さんは、理屈が通っていると思うとそれにこだわらない。すっぱりとあきらめることができた。

「ダメだとわかっても、それで暗くなるということはありませんでした。あの会社とは、単純に合わなかった、相性が悪かったんだ。(※4)そう思っていました。あれこれ悩むのだったらひとつでも多く面接をするべきでしょう。企業の方も1人雇うだけでも大きな投資ですから、それこそ必死のはず。たくさんの人の中から、本当に会社の発展に貢献する優秀な人材を捜し出さなければならないのですから、簡単に採用するはずがありません。何社か落ちるのは、むしろ当たり前のことだと考えていました」

「人と人をつなぐ窓口のような
仕事はどうですか?」
 

 企業の対応もまちまちだった。中には仕事が忙しい最中に、わざわざ時間を割いて面接してやっているというような、どことなく横柄な雰囲気のところもあった。初めて耳にする業界用語で話され、相手が何を質問しているのかということすら理解できなかったところもあった。

「どんな場合でも、面接で無理をしてアピールするようなことはしませんでした。そうやって仮に入社できたとしても、仕事に就いてから苦しい思いをするでしょうし、会社にしても大きな迷惑でしょう。だから、あくまでも自然体。等身大の自分を知ってもらうようにしました」

 そんな肩ひじを張らない、自然体な澤田さんの姿勢に目を留める人たちがいた。まずそこに着目したのは、人材バンク・株式会社MS-Japanのコンサルタント・柳橋貴之氏だった。

 柳橋コンサルタントらの分析では、社交的で明るい性格やポジティブなものの考え方は、澤田さんの「持ち味」であり、効果的に仕事に活かせる能力だというのである。澤田さんにしてみれば、そういう性格は、努力して得たものではないので、それが「武器」になるといわれるのは、むしろ意外だった。しかし、柳橋コンサルタントの「そういう人を求めている企業もあるのですよ」という言葉に、興味を引かれた。

 もともと、澤田さんは、柳橋コンサルタントら日本MSセンターのスタッフには信頼を寄せていた。相談はていねいに聞いてくれるし、対応が細やかで迅速(※5)なのだ。澤田さんのキャリアシートを見て、経験の浅さだけに注目して、すぐに答えを出そうとするコンサルタントが多い中、柳橋コンサルタントは、経験、キャリア以上に、求職者が何を考えてどういう態度で仕事をしてきたか、つまりその人の言動や人柄をきめ細かく聞き出し、分析しているとも感じていたのだ。そこで、柳橋氏の勧める求人案件には、思わず身を乗り出した。

初対面の面接で
いきなりの仮契約書
 

 数日後、とある鉄材の加工を扱う企業に、柳橋コンサルタント同席のもと、面接に出掛けた。部屋に通されると、そこには人事部長のほか、社長自身が座っていた。面接は驚きの連続だった。

「一次面接からいきなり社長がいらしたことにまず驚きましたが、その社長ご自身が会社の概要を熱心に説明された、その様子にも驚きました。そして、さらに驚いたことに、面接の最後に、仮契約書を出してきたのです。まさか、初めての面接でトントン拍子で内定が出るとは予想もしておらず、柳橋さんと目を見開いてしまいました」

 澤田さんは、面接でうかがえる社長の人柄に好感を抱いていた。

 

「社長は、入社したらこんな仕事をやってもらいたい、とおっしゃいました。私は『経験がありません』と素直に言ったところ、ではこれから覚えてくださいと、にこにこしながら話されました。そんな社長と話をしていく中で、少し不器用な方かもしれないと思わせるほど実直な様子に好感を持ちました。そして、これからやる仕事が明確になっていること、何より私に大きな期待を持っていただいていることに感謝しましたね」

 面接の帰り、柳橋コンサルタントは、社長とはもともとよく知っている仲であること、以前から求める人材として真っ先に「人柄」を挙げていたこと、そして、社長の求める人物像に、澤田さんがぴったり当てはまることから、社長に澤田さんのキャラクターを伝え、この会社を紹介したのだと話してくれた。仮契約書までスムーズすぎるくらいスムーズにことが運んだのは、そういうやりとりがすでにあったからだった。

 これから忙しくなるでしょうね、覚えなければならないこともたくさんあるかもしれませんよ、という柳橋コンサルタントの言葉に、「それはむしろ楽しみなことです」と答えた澤田さんだった。

職務経歴書では表現できない
その人の総体が評価される
 

 澤田さんは、今回の転職活動をこう振り返る。

「転職活動は、長期間に及んだわけではありませんが、人材バンクの方々に出会って、いろいろなことを学んだ気がします。時間的、労力的な面でも自分だけではできないことが何倍も迅速にできましたし、何より第三者の目というのは、自分が知る部分とは案外かけ離れているものだということも知りました。また、人が持っている『武器』は、たった数行の文字だけで表現できるものばかりではない。その人全体に内包されているさまざまな要素。その総体なんだなということも気づかされましたね」

 

「ただ、生活するお金を稼ぐためだけに働こうと考えてしまうと、転職する意欲もなくなってしまうかもしれません。自己実現というと大げさな言葉のようですが、やりたい仕事を一生懸命がんばってやって、それでダメなら新しい場所で改めてがんばる。そういうパワーはこれからも失いたくないですね」

 転職してそろそろ約1カ月。しかしもうずいぶん前から会社にいるような存在感で仕事をこなしているだろう。持ち前の「人柄」と「ポジティブシンキング」で。

コンサルタントより
株式会社MS-Japan
 キャリアコンサルタント 柳橋貴之氏
柳橋貴之氏
  企業が望むものを
的確に把握することが
転職成功へのカギ
 
企業は、その規模や組織形態、社風によりさまざまな人材を求めています。その中で、キャリアを重視

し、それに叶わない方はその時点で切ってしまう企業もあれば、人柄、人間性といった部分の能力に注目する企業も存在します。

澤田果歩さんの場合、まずお会いして、お話をうかがったところ、
1.性格が明るく、社交的で協調性がある。
2.仕事に対するガッツもあり、対応がスピーディで効率的に行動しようという姿勢が感じられる
という人柄が見受けられました。さらに、
3.相手の話を理解して的確に話す、いわゆるコミュニケーション能力に優れている
という点でも、アピールできると判断しました。ちょうど、中規模ではありますが老舗の企業の、「特に周囲とのやりとりをスムーズにこなせる協調性のある人」という求人案件を扱っておりましたので、まさにうってつけだと思い紹介させていただいたのです。

実は、企業の採用担当者には、「この方を逃しては、ほかに適切な人は見つからないでしょう」と話をしていたのです。というのも、この企業とは最初から深い関係性を構築でき、どんな人材を欲しているかということを十分に理解していました。今回、澤田さんとお会いして、お話をうかがったところ、すぐにこの求人案件にふさわしい人材だと判断したのです。

面接には私も同席しました。会話の内容そのものはごくオーソドックスなものでしたが、面接開始から1分もたたないうちに、澤田さんの人柄が知れ、スムーズに会話が進む方向性が見えていたように思えました。

現在の転職市場は求職者にとって有利な状況のため、35歳未満の方であれば、経験が浅くても必要としている企業がたくさんあります。ですから、求職者としては、求められているものは即戦力なのか、それとも人柄なのかといった、書面上のやりとりではわかりにくい部分も含めて、よく理解して適切に行動すれば、希望がかなう可能性は高いと思います。そのよりよいマッチングのためには、企業が求めるものと、求職者が希望するもののそれぞれをよくリサーチして、双方に正しくニュアンスを伝えることができる「仲立ち」の存在は非常に有効です。そうしたコンサルタントを見つけるということも、転職活動中の人にとっては重要だと思います。

 
プロフィール
photo
高校卒業後、アルバイト、結婚、離婚を経て、広告会社の契約社員となる。広告会社の営業職は4年半ほど続けたが、契約切れを理由に退社させられ、次に建設会社の事務職に就く。しかし、そこも職場の雰囲気や経営状態に疑問を持ち退社。現在は金属加工の会社の総務に転職、新たな環境でさらに自分の可能性に挑戦している。千葉県在住。32歳。
澤田さんの経歴はこちら

コンサルタントは本気で転職者の面倒を見てくれるはず(※1)
「転職者を1人でも多く、企業に入れることが目的であり、成果であるとすれば、そのために成果主義に走り、企業に好まれそうな人ばかりを探し出し、その人達だけをうまく取りはからおうというスタッフもいるのかもしれませんが、就職希望者にとことん付き合って、育て上げて成功させようとする人もたくさんいらっしゃると感じました。要は、数を打ってヒットさせるか、じっくり球すじを読んで、これぞという一振りでヒットを出すかの違いなのでしょう」

 

すぐさま10社からスカウトメールが届いた。(※2)
澤田さんは、届いたスカウトメールについて、1企業ずつ大学ノート見開きに控えておき、メールの内容、返信したことがら、応対してくれた人の名前、面接などの日程、感想、メモなど、一切を書き込み、後になってもそのページを開けば全体が見渡せるようにしておいた。就職活動を開始した途端、こうした情報は膨大な量になる。手際よく就職活動をするためには、情報の整理が基本中の基本だ。

 

面接の日取りを決めることにした。(※3)
澤田さんは、自分で直接企業にコンタクトを取っているが、通常はコンサルタントを介して、十分戦略を練った上で企業と接触することが多い。一般的に、こうした澤田さんのような積極的なアプローチは、求職者の意気込みを企業に印象づけることができ、高評価につながる場合もあるし、また、コンサルタントのアドバイスを受けて、的確な行動を取ることでより確実に評価を得る方法もある。

 

相性が悪かったんだ。(※4)
自分には自分の立場があるように企業には企業の立場がある。そう考えると、面接で通らないのは、こちらの"相性"と相手の"相性"が合わなかっただけだ。ここがダメなら次に進めばいい。そう考える澤田さんは、トータルで7社ほどの面接を受けたが、2、3社受けた頃には、「企業が自分を査定しているのと同様、こちらからも面接官を通して、企業を見ているんだという余裕が出てきました。中には、さっさと面接を切り上げてくれないかな〜と思うシーンもありましたね」と話す。

 

対応が細やかで迅速(※5)
「とにかく就職活動は時間がない中で、バタバタ動くことが多いので、連絡のやりとりがルーズだと、結果として、時間も体力もムダにしてしまうことも多いのではないかと思います。その点で、日本MSセンターのスタッフは、メールを送れば、その数時間後、遅くても半日後に返信が来ました。頼りがいがあると感じましたね」

 
取材を終えて

 転職活動では、時には企業側に思いのほか低い評価を下されて、落ち込んでしまうことがあるものです。たった1枚の職歴書は、ある意味でその人の"これまで"を込めた物ですから、それを踏まえての評価は、あたかも自分の人格が社会全体に拒絶されたようなネガティブな思いに駆られることもあるかもしれません。しかし、澤田さんのように、それは単に、その企業と自分との相性が合わなかっただけの話で、別の場所に行けば、また大きく違った評価が下されることもあるでしょう。

 澤田さんのテキパキとした話し方には、常にご自身の中で問題がはっきりしているという印象がありました。よいものはよい、悪い物は悪いとはっきりものを見、それに沿って発言し、ためらわず行動する。その何につけてもポジティブな姿勢は、どのような職場でもある種の牽引力となって、目に見える形でも見えない形でも発揮されるのではないかと思いました。

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