施設を辞めたのは、介護という仕事が嫌になったってわけでは全然なくて、将来を考えてのことです。
ここが介護職という仕事の難しいところだと思うんですが、将来を考えたときに、男性の介護職ってキャリアアップがすごくしにくいんですよ。
問題点は3つあって、まずひとつは現場の介護職として女性には絶対かなわないと思ったんです。例えば女性介護職の場合は男性の利用者でも女性の利用者でもどちらでも介護できます。しかし、男性が女性を介護するのって、入浴とか排泄とかの問題があって、難しいんですよね。どうしても抵抗感を持たれてしまうので。
2つ目、介護職の専門性や地位が確立されてないってことも大きいです。現実問題として介護業界は医師・看護師などの医療職が絶対的上位にいて、介護職は医療職の指示に従って動いています。そういう上下関係があるので我々の発言は上にはなかなか通らない。つまり様々なアイデアはあっても実現することが難しいわけです。
3つ目は、現場の介護職は施設の管理・経営サイドになかなか上っていけないという点。施設長などには、事務職がステップアップしてなるケースが多いんです。もっとも、僕の場合は元々身体を動かすことが好きだから管理職になることよりも現場を離れたくなかったんですけどね。実は上司から、今後はケアマネージャーとしてやっていかないかと言われたこともあるんですが、ケアマネージャーって完全に事務方の仕事なんですよね。現場から離れちゃう。でもそれは嫌だった。
だけど介護の現場にこだわる限り、女性には勝てない、医療職には勝てない。百歩譲って管理運営側を考えてみても、事務職には勝てない。どこを向いても八方塞がりで、なかなか介護業界における自分自身の将来性が見出せなかった。じゃあ僕なりのキャリアアップって何なんだろうとすごく悩んだ時期があって。いろいろ考えたり、調べたりした結果、見えてきたのが「理学療法士(※1)」(だったんです。
リハビリ指導の専門職である理学療法士なら、現場でいつも利用者さんと接することができるし、今までの介護職としての経験を生かすことができる。さらに医療職として発言権も得ることができるので、理学療法士を目指すのがいいだろうと。
※1 理学療法士──医療資格(コ・メディカル)の一つ。医師の診察・判断を元に、患者の身体運動機能の回復のためのリハビリプログラムを作成し、指導、サポートしていく職業。就職先は病院などの医療機関のほかに、高齢者福祉施設、児童福祉施設、身体障害者福祉施設、教育機関、一般企業などがある。
高齢者福祉施設を辞めて理学療法士の資格を取るために、夜間の専門学校に通い始めた。生活費は、ヘルパー講座や福祉専門学校の講師の職を見つけて稼いだ。昼は講師、夜は学生という二束のわらじ生活を送っていた2004年3月、ふとしたきっかけである人物と出会う。この出会いで、岡田氏の人生はまたもや大きく変わっていった。
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