今後は子供たちのために、自分の経験を通して得たことを話していきたいと思ってます。例えば引退試合の後にも言ったんだけど、結果よりも過程が大事だってことなんかをね。
腰のヘルニアの手術をして入院したときに、同じ病院に当時中学生だったタッちゃんって子がいたんです。ブランクからの復帰後、初めて勝ったときに、彼に電話で報告したんですよ。そしたらその子のお母さんがすごく喜んでくれたんですよ、勝った勝ったって。でもタッちゃんはお母さんにこう言ったんです。「今回勝ったことよりも、ボクシングを続けたことをほめてあげなよ」って。
それを聞いて、まだ中学生だけど、ああ俺と同じなんだなあ、同じ土俵で戦ってるんだなあって思ったんだよね。
タッちゃんは中学一年までは普通の生活を送ってた。剣道が強くてね。佐賀県のチャンピオンにもなってた。だから将来は剣の道で、優れた武道家になるだろうって周囲からとても期待されてたんだけど、ある事故で頚椎に深刻なダメージを負ってしまった。当時は全身麻痺で、医者からは手術しても寝たきりの生活になるだろうと言われてた。でも手術したら奇跡的に感覚が戻った。だけど寝たきりの状態には変わりなかった。でも彼の魂はあきらめなかったね。そこからめちゃめちゃリハビリを頑張った。それで普通の高校に入っちゃったんだよね。
すごいヤツでしょ。入院当時から、その必死で頑張ってる姿を見て、なんてすげえやつなんだって感動して、友達になったんだ。今でもすごく頑張ってる。先日福岡で会ったんだけど、そのとき彼に「頑張ってんのはわかるから、頑張りすぎないようにな、少しは息を抜こうな」って言ったら、「いやいや、まだまだ足りない」って(笑)。
その土俵に上がって戦ってる人たちって、自分の生き様、結果じゃなくて過程をすごく大事にするんだよね。
年齢は関係ないよね。病院には80歳の人もいたんだけど、その人もその人の土俵で一生懸命戦ってた。そういう人たちを間近で見て、人間の底力のようなものを感じたんだよね。人間て本当に強いんだなって、この歳になって改めて思い知らされた。考えてみれば俺自身も6〜7歳のころから戦ってたんだよね。
そのときすぐに結果を出せなくても、自分がその過程で一生懸命やってればいつかは何かが返ってくる。一生懸命やって負けたからといって、そこで気持ちが萎えることはない。土俵から降りずに戦い続けてることで絶対、しっかり返ってくる。
自分に対してだけじゃなくて、人に対しても同じ。熱をもって接すれば熱をもって返ってくる。すぐには返ってこないかもしれないけど、いつか絶対自分に返ってくる。俺がこの15年間でボクシングを通して教えてもらったことはこういうことに尽きるね。だから、土俵から逃げずに、今を頑張ることが大事だと思うんだよね。 |