引退を決意したのは2006年の11月です。直接的なきっかけとなったのは、自分の身体が自分の身体ではないように感じるようになったってことです。そう感じ始めたのはちょうど1年前くらいでした。
例えば、以前と比べて一歩の踏み込みが、ゼロコンマ何秒かもしれないけれど、遅いんですよ。ボクシングには、そのゼロコンマってすごく大事で、それが一秒、二秒と遅れたら、相手にパンチは当たらないし、逆にパンチをもらってしまう。そうなるとダメージが蓄積されて、脳とかそういったところに影響が出てくる。現に、そういう兆候はあったんですよ。
そのころから身体がちょっとおかしいなと思い始めた……。熱があるようなないような、ぼーっとした感じ。でも、カゼじゃないし。それで、MRIとかCTとか脳の検査をやった。結果は影とかは認められなかったんですが、医師は脳にむくみがあるかもしれない、きっとそういった写真には写らないような異変だろうと。だからそういう症状があるうちは練習や試合もやっちゃいけませんって言われて。ほかにも尿蛋白値が高かったり白血球値が高かったり、そういう異常はあったんです。だからといって白血病とか腎臓病とかではなかった。長年のダメージで目には見えないいろんなところにガタがきていたんでしょうね。
でもボクシングは続けたかった。そこで、トレーニング方法を変えたんです。ボクシングのハードな練習だけではなくて、体幹の中、インナーマッスルを鍛え上げたんです。1年と4カ月かの間で。
その効果はもちろんありましたよ。去年の1月と6月に2試合やってどちらもKOで勝てたんですが、体調が悪い中でもここまで身体がスムーズに動けたのは、そのトレーニングのおかげかなと。
だけどそれでもやっぱり、世界を狙えるレベルにまでは回復できなかった。僕もこれまで世界タイトルマッチを4度経験してるので、試合までにどこまで身体のマックスを持っていかなきゃならないかを知っています。引退試合の前に、その世界タイトルマッチに挑戦するようなレベルのトレーニングをやったんです。でも、ついていけないんですよ、体が。 |