 9.11のアメリカ同時多発テロ、この前もテレビで特集をやってましたけど、観ていて非常に複雑な思いでしたね。勇気にも二種類あって、行けっていう勇気も必要だし、逃げろっていう勇気も必要。どっちをとるかは現場での自分の判断しかない。結果的には、退避の決断を下した方が生き残りましたが、かといって、ビル内に取り残された人を救助するために上階にどんどん進んでいったのが判断ミスだったかと言えば、そうとも言えないですね。
あの時は、消防隊に全員退避せよという指令が流れたと記憶してるんですが、ただ、それが届いたかどうか。建物の中ですから、無線が届かないところがあるんですよ。特に上階に行けば行くほど。今、建物はほとんどコンクリート製ですから、電波が遮断されちゃうことがあるんです。
消防士だけじゃなくて、一瞬にしてあれだけの人が亡くなったわけですよね。ニュースを見ながら、もし日本でああいうテロが発生したらどうなるんだろう、自分はどうするだろうって考えました。もちろん助けたいという気持ちが第一だから、行っちゃうと思いますが、隊員の安全も考えなきゃいけないですからね……。
地下鉄サリン事件のときに私も出動したのですが、もう最初は何が何だかわからないですよね。9.11のときも飛行機が突っ込んだビルが、自分の経験から考えて、まさか倒壊するとは思っていなかったですね。救助隊はみな、飛行機が激突した階から上の階にいる人を助けようとして行ってるんですから。誰も崩れるということは、たぶん頭にないんです。あの事件以来、建物の構造の違いや温度と鉄の関係から、あのようなビルでも崩れてしまう可能性があることを学びました。
こういう危険をともなう仕事で、家族は心配してるんじゃないかって? 私は妻と二人暮しなんですが、仕事のことを話すのは好きじゃないのでほとんど話さないですね。ただ機動部隊にいるので、災害があったら海外にも行く可能性は高いよ、ということは言ってあります。妻も心配はしてると思いますが、口に出すことは少ないですね。 |