でも1カ月後に契約解除されました。理由はロケに全く出なかったから。僕としてはまずオウムとは何か、どうしてこんな事件を起こしたのかというところを知りたかったんです。取材する前に被写体のことは可能な限り知っておきたいですからね。でもどんなに書籍や文献を読み漁っても、地下鉄にサリンを撒くというその理由がまったくわからない。そうこうしてるうちに契約解除。まあ当たり前かな。プロデューサーからは前代未聞だって言われました。そりゃそうだよね。ロケに一度も行かないんだから(笑)。
で、またフリーに戻ったのだけど、1カ月勉強しましたからね。やっぱりオウムをちゃんと撮影したいという気持ちが湧いてきた。でもテレビは制約が強すぎる。ラジオ・ドキュメントを考えて、脱会した信者に接触したんです。何度か会いました。でも脱会信者ではやっぱり物足りない。ならば現役信者にアプローチしてみようと思って、当時のオウムの広報担当の荒木浩さんに「オウムのドキュメンタリー番組を作りたいから撮影させてくれないか」って手紙を書いたんです。1回目は返事がなかったから、もう1回出して。そしたら返事が来て、青山本部(当時)で話して、基本的にはその場でOKもらったんです。
たぶん、他のマスコミからも同様のオファーは殺到しているだろうし、こんな個人のオファーを簡単には了承してもらえないだろうなと予想していたので、本当に驚きました。後でわかったのだけど、オウムの現役信者にドキュメンタリー取材の依頼をしたのは僕だけだったんです。
でも僕にとっては当たり前のことなんです。だってドキュメンタリーをやってる僕がオウムを撮る。じゃあ被写体は残ってる信者たち。その生活を撮る。当たり前のことですよね。それをみんなやってないことに、後でびっくりした。
だからよく、なぜあなただけがオウムの内側を撮れたのですか? って聞かれるんですが、ドキュメンタリーなのだから内側を撮ることは当たり前だし、何よりも僕は、ただ当たり前に取材を申し込んだだけなんですよね。つまりオウムが僕だけに撮影を許可したのではなく、依頼したのが僕だけだったということです。僕が特別だったのではなく、周囲が止まっていただけのことなんです。
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