そして季節は冬。渡辺コンサルタントから待ちに待った紹介の連絡が入った。提示されたのは国際宅配便を扱う運送会社A社と国際船舶での輸送を得意とする船会社B社。いずれも世界に拠点を持つ大手外資系企業の営業職での募集だった。年明けに面接を受けることが決まった。
最初にA社の面接に臨んだが、結果は不採用に終わった。原因は英語力の不足。吉田さん自身、決して英語が不得意というわけではない。英語圏での観光旅行程度なら、不自由なく過ごせるという。しかし、この会社が求めるのはネイティブレベルの英語力。しかも「必須」である。吉田さんの実力では難しいと判断されたのだ。
「業務経験やスキルに関しては申し分ないが、社内ではコミュニケーションが大事。吉田さんの英語力では、入社後に苦労することになってしまうと思います」。A社から伝えられた不採用の理由を聞いて、吉田さんは納得せざるを得なかった。
数日後、気を取り直してB社の面接へ向かった。1次面接は大阪で行われた。30分間にわたる人事担当者との予備面接を終えた後、航空輸送部門の責任者と海上輸送部門の責任者を前に1次面接がスタート。会話は「どんな仕事をどこまでできるか」といった実務的な内容に終始した。気がつけば1時間が経っていた。
後日、「1次面接にパスした」との連絡が、渡辺コンサルタントから入った。翌月、東京で2次面接が行われた(※4)。渡辺コンサルタントの激励を受けて、面接会場へ。部長クラスの面接官の向かいに座って間もなく、切り出された言葉に吉田さんは驚いた。
「あなたを採用したいと思っています」
面接官が語る内定の理由はこうだった。「当社は海運を得意としているが、航空輸送は発展途上。あなたのスキルと経験を生かして当社の航空輸送部門を伸ばしてほしい。吉田さんの力が必要なんです」
会社が課題とするところに配属されて業績を上げ、会社の成長とともに自分も成長していく。吉田さんの脳裏にそんな青写真が広がった。これこそ、望んでいた仕事。自分の力を評価し、期待してくれることが吉田さんにとっては、ことのほかうれしかった。
しかし、吉田さんにはどうしても引っかかることがあり、即座にイエスと答えるわけにはいかなかった。返事は少し待ってほしいと告げ、B社を後にした。
吉田さんが気になっていたのは、純粋な国内企業での経験しかない自分が、果たして外資系企業に向いているのか?ということだった。外資系企業といえば、「実力主義で結果がすべて」というドライなイメージ。A社で不採用になったこともあって、高い英語力が求められる外資系会社で働くには不安があり、100%乗り気にはなれなかったのだ。
冷静な判断が必要と考え、まずは渡辺コンサルタントに電話をした。B社の社風や渡辺コンサルタントがこれまでに同社に紹介した転職者の入社後の状況などを詳しく聴いた。さらに、同業他社の知人にもB社の評判を尋ねてみた。
しかし、どんなに話を聞いても、調べてみても「これだ!」という決め手に出合うことはなかった。いよいよ、決断を迫られたとき、吉田さんは渡辺コンサルタントの言葉を思い出した。
「外資系企業は成果も英語力も必要とされるのは確かです。しかし、あえてそういった環境に身をおいて、経験を積み、レベルアップしていくのもいいのではないでしょうか」
思い返せば20歳のときから今まで、さまざまな努力を重ね、経験を積んできた。そうして20年間、頑張ってきたのだ。未知の分野に飛び込んで力を発揮するのが自分のウリ。40歳になってもそれは変わらない。待遇や仕事内容が希望と一致しているならば、何を迷うことがあるだろう。不安のない転職なんてないだろうし、何よりも会社に望まれて入社できるのは幸せなことだ——吉田さんは決意した。
「よし、どこまでやれるか、ひとつやってみるか!」
2月の半ば、会社に出向き、正式な契約を交わした。
「3月から来てください。お待ちしています」
「はい。よろしくお願いします」
吉田さんはB社の担当者とがっちり握手をかわした。 |