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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第42回(後編) 吉田健二さん(仮名)40歳/営業
転職でやりがいのある仕事を獲得 老後の不安を解消 40歳からの新たなチャレンジ

吉田健二さん(仮名・40歳)は運輸会社の国際事業部に配属され、経理、通関部門を経て営業部門で活躍していた。しかし次第に社員の評価基準のあいまいさや上司から無理難題を押しつけられるなど、会社に対する不満が強くなっていた。退職金制度がないことへの不安も感じるように。入社して20年。これからは自分を必要としてくれるところで力を発揮したいと考え、40歳にして初めての転職活動を始めた。

インターネットで目にした
「スカウト」の文字に期待をかけて
 

 2007年の春。まずは情報収集をしようと吉田さんはインターネットで転職関連サイトを検索。あちこち見ているうちに、あるバナー広告が目についた。そこにあったのは「スカウト」の文字。クリックすると、【人材バンクネット】につながった。

「趣味で野球をしているせいか、『スカウト』っていうとプロ野球の世界みたいで、魅力を感じましたね。インパクトがあった。わけもなく期待感が湧きましたね(笑)」

 1、2週間かけてサイトをじっくり読んだ上で登録を決めた。キャリアシートを書くのは初めて。今までに転職したことがないので職務経歴書を作成したことなどなかったし、経験職種が多岐にわたっているので苦労したが、サンプルを参考になんとか完成にこぎつけた。

【人材バンクネット】の転職セミナーにも参加。それがきっかけで、ある人材バンク主催の業界経験者向け転職相談会にも応募(※1)したが、期待していたほどのメリットは得られなかった。年齢や経験に見合った転職先を見つけるためには、多少の苦労は必要だろうと覚悟していたが、行動しても手ごたえがないというのは、やはりむなしさがあった。

「焦っても仕方がない、慎重に事を運ぼう」。そう思い直し、国際輸送業界関連サイトの求人コーナーなどをチェックしながら過ごしていたある日、スカウトメールが届いた。季節はすでに夏になっていた。

「私に任せてください」——メールの差出人はアクロコンサルティングの渡辺義信氏。プロフィールを見て、外資系国際輸送会社での勤務経験があり、業界に精通していることを知った。吉田さんは大いに興味を持った(※2)

企業の紹介がないまま時が過ぎたが
全く不安を感じなかった
 

 吉田さんは大阪在住であり、コンサルタントの事務所は東京だったため、直接会う機会はなく、やりとりはすべて電話やメールだった。

 渡辺コンサルタントは吉田さんのキャリアシートに沿って、職務経歴と具体的な実務内容を質問。何をどこまでできるかをきちんと把握した上で、転職先についての希望を聞いてくれた。吉田さんとしては引き続き営業職に就く道と通関業務などの実務担当として活躍する道の二方面を考えていた。が、40歳の自分にどんな求人があるのかがまったく見当がつかなかった。

「国際輸送業界は業務分野別のスペシャリストが多い業界ですが、吉田さんはいろいろな経験を積んでいる。ですから、どんな切り口からでも紹介できますよ」とのコンサルタントの言葉に吉田さんはとても勇気づけられた。

 さらに時間をかけて、転職の方向性を二人で話し合った(※3)結果、職種は吉田さんの希望通り、営業を中心に通関業務なども視野に入れることとし、年収は現職の約1割アップ、640万円を目指すことに決定した。

「渡辺コンサルタントには、いろんな会社を見た上で、私の力を必要としてくれるところに入りたいと伝えました。私は根が体育会系ですからね、意気に感じて仕事をしたいんです」

 その後、他の人材バンクを通して数社の紹介があったが、年齢が高いせいで書類選考に通らなかったり、応募する気持ちがわかなかったりしたため、話は流れた。渡辺コンサルタントからの紹介はまだなかったが、それでもマメにメールや電話でやりとりしていたため、吉田さんは不安を感じることは全くなかった。

大手外資系企業にまさかの内定
「これでいいのか?」ふと立ち止まる
 

 そして季節は冬。渡辺コンサルタントから待ちに待った紹介の連絡が入った。提示されたのは国際宅配便を扱う運送会社A社と国際船舶での輸送を得意とする船会社B社。いずれも世界に拠点を持つ大手外資系企業の営業職での募集だった。年明けに面接を受けることが決まった。

 最初にA社の面接に臨んだが、結果は不採用に終わった。原因は英語力の不足。吉田さん自身、決して英語が不得意というわけではない。英語圏での観光旅行程度なら、不自由なく過ごせるという。しかし、この会社が求めるのはネイティブレベルの英語力。しかも「必須」である。吉田さんの実力では難しいと判断されたのだ。

「業務経験やスキルに関しては申し分ないが、社内ではコミュニケーションが大事。吉田さんの英語力では、入社後に苦労することになってしまうと思います」。A社から伝えられた不採用の理由を聞いて、吉田さんは納得せざるを得なかった。

 数日後、気を取り直してB社の面接へ向かった。1次面接は大阪で行われた。30分間にわたる人事担当者との予備面接を終えた後、航空輸送部門の責任者と海上輸送部門の責任者を前に1次面接がスタート。会話は「どんな仕事をどこまでできるか」といった実務的な内容に終始した。気がつけば1時間が経っていた。

 後日、「1次面接にパスした」との連絡が、渡辺コンサルタントから入った。翌月、東京で2次面接が行われた(※4)。渡辺コンサルタントの激励を受けて、面接会場へ。部長クラスの面接官の向かいに座って間もなく、切り出された言葉に吉田さんは驚いた。

「あなたを採用したいと思っています」

 面接官が語る内定の理由はこうだった。「当社は海運を得意としているが、航空輸送は発展途上。あなたのスキルと経験を生かして当社の航空輸送部門を伸ばしてほしい。吉田さんの力が必要なんです」

 会社が課題とするところに配属されて業績を上げ、会社の成長とともに自分も成長していく。吉田さんの脳裏にそんな青写真が広がった。これこそ、望んでいた仕事。自分の力を評価し、期待してくれることが吉田さんにとっては、ことのほかうれしかった。

 しかし、吉田さんにはどうしても引っかかることがあり、即座にイエスと答えるわけにはいかなかった。返事は少し待ってほしいと告げ、B社を後にした。

 吉田さんが気になっていたのは、純粋な国内企業での経験しかない自分が、果たして外資系企業に向いているのか?ということだった。外資系企業といえば、「実力主義で結果がすべて」というドライなイメージ。A社で不採用になったこともあって、高い英語力が求められる外資系会社で働くには不安があり、100%乗り気にはなれなかったのだ。

 冷静な判断が必要と考え、まずは渡辺コンサルタントに電話をした。B社の社風や渡辺コンサルタントがこれまでに同社に紹介した転職者の入社後の状況などを詳しく聴いた。さらに、同業他社の知人にもB社の評判を尋ねてみた。

 しかし、どんなに話を聞いても、調べてみても「これだ!」という決め手に出合うことはなかった。いよいよ、決断を迫られたとき、吉田さんは渡辺コンサルタントの言葉を思い出した。

「外資系企業は成果も英語力も必要とされるのは確かです。しかし、あえてそういった環境に身をおいて、経験を積み、レベルアップしていくのもいいのではないでしょうか」

 思い返せば20歳のときから今まで、さまざまな努力を重ね、経験を積んできた。そうして20年間、頑張ってきたのだ。未知の分野に飛び込んで力を発揮するのが自分のウリ。40歳になってもそれは変わらない。待遇や仕事内容が希望と一致しているならば、何を迷うことがあるだろう。不安のない転職なんてないだろうし、何よりも会社に望まれて入社できるのは幸せなことだ——吉田さんは決意した。

「よし、どこまでやれるか、ひとつやってみるか!」

 2月の半ば、会社に出向き、正式な契約を交わした。

「3月から来てください。お待ちしています」

「はい。よろしくお願いします」

 吉田さんはB社の担当者とがっちり握手をかわした。

密度の濃い仕事にやりがい
「責任を果たしたい」
 

 転職活動開始から内定までに10カ月ほどかかったが、それでも吉田さんは「思っていたよりも早く決まった」という印象を持っているという。入社後は営業部に配属され、関西を中心に西日本各地に足を伸ばし、新規顧客開拓に当たっている。想像通り、外資系企業での仕事はシビアな面も多い。

「前の会社と違って、社員の能力にばらつきはなく、社内はまさに実力者集団といった感じ。全体に『結果を出さないといけない』という空気が充満しているような気がしますね。周りの社員に刺激され、私自身も密度の濃い仕事をしています」

 外資系企業特有の雰囲気にとまどうこともある。たとえば、夜遅くまで仕事をしているからといって「頑張っている」とは見てもらえない。逆に「できないヤツ」という目で見られる(※5)のである。

 懸案の英語力も必死に磨きをかけているところだ。「英会話スクールに通い始めました。社内の公用語が英語でメールもすべて英文。なんとか意味をつかむことはできますけど、もっとスピードアップしないと死活問題です」

 さまざまな面で刺激を受ける中、将来は責任ある立場に就きたいと考えるようになった。

「年収は希望額通りになりましたし、営業ですからインセンティブも期待できる。転職によって『やりがいのある仕事の確保』と『老後の経済的な不安解消』という目標は達成できました。これからは航空輸送部門の成長に尽力し、さらに上を目指していきたいですね」

 目標を語りながら、吉田さんは瞳を光らせた。新しい環境は吉田さんの持ち前のチャレンジ精神に火をつけたようだ。

コンサルタントより
アクロコンサルティング
 渡辺義信氏
コンサルタント
  幅広い業務経験を生かして
顧客の立場に立った営業ができる点をアピール
 

 特定分野のスペシャリストであれば、職種を絞って経験を生かせる企業を探すということになりますが、吉田さんの場合は通関関係からはじまり、輸出入業務・オペーレーションから最後は各種提案型営業といろいろな仕事を経験されているので、どういう方向性で転職先を決めるかを最初に考えなければならないと思いました。

 私がお勧めしたのは、営業です。さまざまな仕事をこなしてきたからこそ、一面的な営業ではなく、顧客の立場に立って課題を解決する営業ができると判断したからです。

 吉田さんが大阪にお住いで、私どもの事務所が東京にあるため、最初の段階で面談することはできませんでしたが、キャリアシートを拝見したところ、吉田さんはやはり営業としてご紹介するのがいいのではないかと思いました。電話やメールでの会話から、礼儀正しさや人当たりの良さも感じていましたし、やはり営業職でキャリアを伸ばしていかれたほうがいいのではないかと思いました。

 国際輸送業界のキャリア採用は、30代半ばまでの求人が多いのが現状です。よって、チャンスが限られている上、企業の選び方も慎重にならなくてはなりません。40歳となると、これまでのキャリアを生かせるポジションが必要ですし、将来のことを考えれば、経営の安定した企業であることも重要です。
吉田さんにとって何が必要か、どういう方向に進むべきかを電話でずいぶん話し合い、お互いに忌憚なく意見を出し合うことができました。吉田さんは同じ国際輸送業界での勤務経験がある私の意見を非常に尊重してくださったので、企業側へのアピールにはとても力が入りました。

 面接を受ける前には、今回の採用について、企業側がどのようなポジションでどのような仕事を任せたいと思っているのか、どの点が吉田さんに合っているのか、などをじっくり打ち合わせしました。十分な理解があってこそ、自信を持って効果的なアピールができると考えるからです。

 今回、入社された企業は大阪での営業強化を課題としていました。特に国際航空貨物の営業経験があり、顧客に合わせてさまざまな提案ができる人材を求めていました。外資系企業なので英語力が必要なのは当然ですが、今回は営業力をより重視した採用だったと思います。だからこそ、経理や通関業務といった運輸の現場に詳しく、顧客の要望に合わせて臨機応変に対応できる吉田さんへの期待が大きかったのだと感じています。

 
プロフィール
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※写真はイメージです

大阪府在住の40歳。専門学校卒業後、運輸会社に入社。国際事業部に配属され経理を担当。独学で通関士の資格を取得し、入社5年目から通関業務に携わるようになる。35歳のとき、営業部に抜擢され顧客開拓のほか、若手の人材育成にも関わった。40歳を迎えるのを機に老後の人生設計を考えるようになり、転職することを決めた。

吉田さんの経歴はこちら
 

転職相談会にも応募(※1)
貿易及び国際輸送業界経験者を対象にした相談会だったので吉田さんの期待は大きかった。「最適な転職先を探し、後日連絡します」と言われて待っていたが、半年近く音沙汰なし。吉田さんから連絡するとメールで企業を紹介されたが、希望に合うものではなく、落胆した。

 

大いに興味を持った(※2)
国際輸送業界での勤務経験があることから、吉田さんが経験してきた業務内容やレベルについてよく理解した上で紹介してもらえることを期待した。明るい兆しがまったく見えなかった転職活動に光がさしたような気がしたという。

 

転職の方向性を二人で話し合った(※3)
渡辺コンサルタントが国際輸送業界に精通していたため、吉田さんは安心して相談できたという。「いいコンサルタントに出会えてよかった」と全幅の信頼を寄せて転職活動に挑んだ。

 

東京で2次面接が行われた(※4)
吉田さんと渡辺コンサルタントが顔を合わせたのはこのときが初めて。事前に、会社側が求める人材像、面接でのアピールポイントなどを確認、打ち合わせしてから面接に臨んだ。

 

「できないヤツ」という目で見られる(※5)
遅くまで仕事をしていると、「効率的に仕事をこなすことができない」とみなされるという。勤務時間内に仕事を終わらせ、早く引き揚げる社員が多い。

 
取材を終えて

吉田さんのお話を聞いていると、非常にチャレンジ精神が旺盛な方だと感じました。取材中に語ってくださった「知らなかったことを知るのは楽しい」「やったことのないことに挑戦するのはおもしろい」といった言葉が印象的でした。いろいろな仕事にチャレンジする中で困難を乗り越え、実力をつけてきたという自負もうかがえました。

20年勤めた会社を辞めるという決断は、想像以上にたいへんだったのではないかと思います。会社や上司への不満があったとはいえ、慣れ親しんだ環境でもあるし、自分を育ててくれた人たちに対する感謝の気持ちもあったでしょう。長年にわたって全力を傾けてきたフィールドを離れるのは、さぞかし勇気が必要だったと思います。

40歳での転職は今やめずらしくはないですが、希望通りの仕事内容、ポジション、収入を手にするのは難しいというのも現実。それを可能にしたのはやはり、吉田さんの旺盛なチャレンジ精神を企業側が見抜き、吉田さんも企業側の思いに応えようとしたからではないでしょうか。新しい会社での困難も、きっと持ち前のバイタリティーで乗り越えていくのだと思います。

 

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