新たな意欲を胸に入社した初日、菊池さんは、上司にいきなりこう切り出された。
「悪いんだけど、とりあえずは人材派遣のトレーナー管理をしてくれないか。トレーナーの給与計算や、出張手配なんだが……」
理由を聞くと、担当者が急に辞めてしまって、代わりがまだ見つからない。次が決まるまでの間だけでいいから、ということだった。
仕事内容は新規事業の人事コンサルテーションという話だったのに……。とっさにそう思ったが、入社したばかりだし、断るわけにもいかない。次の担当者が決まるまでなら、そんなに長い間でもないだろう。渋々引き受けた。しかし予想は見事に裏切られた。
「実のところ、言葉は悪いですが、キャリアが全くなくてもできそうな仕事ばかりで、内心、どうして自分が……と思っていました。おまけに、1カ月たち、2カ月たっても、まったく次の担当者が決まらないんです。どうなっているのか聞いても、『探しているんだけど、なかなか見つからなくて』という返事が返ってくるばかりで……」
次の担当者が決まるどころか、社員はどんどん辞めていく。おまけに、いつまでたっても、自分が配属されるはずの新規事業部門が立ち上げられるという話が伝わってこない。
どうもおかしい。日に日に疑惑と不安が強まっていった入社3カ月目。上司から、驚くような事実を知らされた。
「実は、派遣業務の方が忙しくなったので、新規事業部門設立はできなくなった」──。
「もう、耳を疑いましたよ。自分が入社した意味がなくなったわけですからね。この会社にいても仕方ないと思って、すぐに退職を決めました。3カ月足らずしかいませんでしたが、大量の退職者を出す(※4)会社の体質に疑問も感じていましたし」
9月、退職願いを提出。たった3カ月で、転職活動の再開を余儀なくされた。
だが今回の転職に際して菊池さんは、味わったばかりの苦い教訓を踏まえ、新たな決意を胸に臨んでいた。
「このときの転職では、最近CMなどをバンバン打ってる大手人材バンクから紹介してもらったのですが、転職前と後では、仕事内容が全然違っていた。これは後でわかったことなのですが、この人材バンクでは、企業担当と転職者担当が別の人間で、どうもその当人同士の間で情報の行き違いがあったようなんです。ですから、今回の転職では、企業担当と転職者担当が同じコンサルタント(※5)の人材バンクを選ぼうと思ったんです」
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