また、バトン以外のところ、芝居をしなければならない部分が増えつつあることも大変です。2008年の1月ころ、ショーの中で、私に関わるシーンで重要な変更があったんです。しかし、演出家から具体的に「こうしろ」という指示がなく、どうすればいいか何もわからない状態で舞台に立たなくてはならなくなりました。
何かをするときに、始まりから終わりまでの一連の流れがある程度イメージできれば、動きようもあります。でもそこにはストーリーがなく、始まりと終わりが決まっているだけで、その間のことが何も分からない状態で「舞台に立って、適当に何かやっておいて」と言われたんです。私には何のためにこの芝居が必要なのかがわからないまま適当に芝居をすることはできません。しかし、舞台に上がった以上何とかするしかないのです。これはつらかったですね。
何とか演技を終えた後、やっぱりそのシーンは気になるから、終了後、録画を見るんです。具体的な設定がなくてもちゃんと芝居で埋められていればいいのですが、やはりなかなかうまくできていないわけです。こういう状況にまだ慣れていないので、舞台での動きをどうしたらいいかという悩みが常に頭から離れず、精神的にもどうしていいかわからない状態になりました。
こういう状況でも、俳優さんだったらきっとうまく対処できるんだろうなと思ったりします。でも私は俳優としての経験もないので難しいところです。これまでのシーンやキャラクターはクリエーション時代からディレクターと一緒に作り上げてきたものだったので、あまり演じているという意識がなかったのですが、今要求されているのは「芝居をする力」なんです。まだ芝居ができるほどには自分の恥ずかしさの殻が破られていないのかもしれません。
そもそもあの大きな舞台で俳優でもない私が芝居をすることはお客様に対して失礼だと思うんです。バトンなら胸を張ってできるのですが……。でも今は何とかしていくしかないので、自分なりに試行錯誤していくしかないと思っています。ひと皮向けるか、このまま終わるか、ひとつの勝負どころなのかもしれません。
この世界は自己満足で終わってしまってはいけないと私は思っています。会社側が「その程度でいいよ」と言っても、自分が納得できなければダメなんですよね。自分の中だけで完結する競技バトンではなく、あくまでお客様あってのショーバトンなのですから。ちゃんと自分ができることを生かせる場所で仕事をしなきゃいけないと思っています。 |