仕事の喜びですか? 月並みかもしれませんが、やっぱり、ひとつの航海を無事に成就させて、お客様が喜んでくれたときには、ああ良かったなと、それは本当に実感しますね。航海士時代にも同じ思いはありましたが、責任が大きくなる分だけ、喜び、充実感、達成感も大きいですよ。
自分自身も、そうやってお客様と一緒に航海を楽しんで、滞在地で素晴らしい景色を見て、ともに楽しんで帰れる、そういうときは海に出てよかったなと思います。
特に外国に行ったときはそう感じますね。地中海、パナマ運河、スエズ運河、キール運河……ああいう歴史のある水路はいいですね。ヨーロッパあたりもすごい港がありますからね。中世の町がそっくりそのまま残っているような港町に船を着けるわけですよ。ふっと振り返ったら、すぐ後ろにお城がどーんとそびえていたりね。そんなところへ行くと、やっぱり、ああ、いいなあって思いますよね。
飛行機や電車やバスなどの旅の場合、こういうことは体験できないですから。飛行機に乗っても、着くのは飛行場でしょ。そこから電車やバスを乗り継いで観光に行くってことはできますけど、こういう船で行くのとは、やっぱり全然違うと思うんです。船の場合はもう着いた場所がその土地の名所ですから。
また自然もいいですよ。アラスカの氷河や北欧のフィヨルド、時には皆既日食や満天の星空に無数の流れ星など。そういうクルーズならではの感動的な大自然に仕事をしながら出会えますからね。
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太平洋のど真ん中に突然姿を現す奇岩など、客船の旅でしか味わえない風景に感動できるのも大きな魅力のひとつ。写真は鳥島の南方約76kmの海上に屹立する孀婦岩(そうふがん) |
だから今は、子どもの頃の夢がかなってる状態といえるかもしれないですね。だからいくら航海を重ねても飽きることはありません。飽きるどころか、常にいろんなことが起こりますから。いいことばっかりじゃなくて、たいへんなこともあるので、笑ってばかりもいられませんけど。でもたいへんなことがあったって、それをなんとか無事に乗り越えたときの充実感っていうのは、やっぱり、なにものにも代えがたいですからね。
特に世界一周航海などはたいへんですよ。とにかく準備から膨大な時間と労力を費やしますから。航海の安全を保つために、事前に心配なところに下見に行ったりするわけですよ。この港、この海域に来たときにはどうするか、などということは事前にちゃんと入念に計画を立てるんです。私だけじゃなく会社全体で入念に企画立案し、懸命に下準備をする。
もちろん安全面だけではなく、いかにお客様に航海を楽しんでもらえるかという意味での準備にも気を配ります。客船の場合は、単に人を乗せて運ぶんじゃなくて、乗ってくれたお客様にどれだけ楽しんでもらえるか、乗ってよかったって思ってもらえるかが重要ですから。
だからこそ100日間、大きなトラブルなく終わったときの充実感というのは格別です。お客様が喜んでくれて、本当によかったって。そのために頑張っているようなものですからね。
それは世界一周だろうが、3泊4日のショートクルーズだろうが基本的には同じですけどね。
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乗船時にすべての乗客にお礼の挨拶をする由良船長。そんな人柄を慕う「由良ファン」は多い |
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