そうやってインドの大学でソーシャルワークを学ぶうちに、「世の中を変えるんだ!」みたいな気持ちになっちゃったんですよ。元々自分の動機としてそういうものがあったわけではないんですが、刷り込まれちゃったんですね。インドは社会問題の宝庫なんですよ。そもそもカースト制度っていう身分制度と差別がある。あと農村の問題。農村なんかに行ったら、まだ原始時代のような生活をしてるし、スラムとかもたくさんあるしね。
社会問題があるところには住民運動が起こるじゃないですか。でやっぱりそれに巻き込まれちゃったわけです(笑)。大学は一年で中退して、人口40万人のアジア最大のスラム住民組織を支援するNGOに転がり込んだんです。結局インドには4年間いたんですけど、あとの2年間は実践活動をしてました。
そのスラム街で生活しつつ、住民運動を指揮してたんですが、その現場で、学んだ学問を実践できたんです。ほんとに20万、30万人単位で住民を動かせちゃうんですよ。これはすごい力ですよ。警察当局とか宗教団体に子供たちを中心に、数万人のデモをかけるとか。ヒューマン・チェーンとかで抗議行動の輪を作って、ブルドーザーが来たって女性や子どもが前に立ちはだかったりね。それを僕を中心とした住民とかソーシャルワーカーが組織するわけです。そういうときはやはり、すごいダイナミズムを感じました。大衆を動かすことに酔いましたよね(笑)。
ひとくちに40万人のスラム街といっても、宗教によって大小さまざまなグループに分かれていて、中には敵対するグループもあるわけです。ヒンドゥ教とイスラム教とか。でも大きな目標のためには宗教のカベを超えてひとつにまとまらなければならない。そういうときはどうするかっていうと、どちらもwinの状態に導くわけですよ。それはひとつの運動のなかで、両方の問題を解決するようにもっていく。共通の目的を見い出してまとめていくわけです。
数10万単位の人間をまとめていくためには、やはりコーディネーター的な役割じゃないとだめ。僕がアジテーションをして手を組むんじゃまとまりませんよ。具体的には各グループ側にリーダーを作っていく。これは小さな組織でもそうでしょ? たとえば僕が日本人として、外国で組織を動かすときにはやはり大きくなればなるほど、僕の言葉を代弁できる、彼らの中のリーダーを作る。だからある意味で系列のチームを作る。
腹心のリーダーをどうやって作るか? これが難しい。自分がその人を好きだからということではなくて、本当に周りの人が認めて力がある人をリーダーとして立てる必要がある。その調整が難しいですよね。周りの人が認めていても僕が嫌いだったらダメだし、そういった人間を僕はなぜ嫌いなのか? と自分に問いかけなければいけない。それは単に相手の能力が僕よりも上回っているから嫌いなのか? とか。そういうときはけっこう自分を抑えますよね。基本的にそういう場合が多くて。なぜかっていうと、僕も若かったから。みんな僕より年上ですからね。で、僕はこう見えても非常に謙虚な人間だから(笑)。
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