タリーズコーヒージャパンを起こした松田氏。友人の結婚式で訪れた米国でたまたま入ったコーヒーショップ。そこで口にした、タリーズコーヒーのまろやかで深い味に魅せられ、「日本でぜひタリーズコーヒーを広めたい」と米国の本部にいきなり電子メールでのアプローチを開始した。
交渉がなかなか進まないなかで、たまたまタリーズUSAの社長が来日中、という朗報を聞きつけた松田氏は、社長の宿泊先に突撃訪問。ようやく会えた社長は、若い起業家の話を興味深げに聞いてくれた。その後も次々に立ちはだかる難関を乗り越え、経営陣の信頼を勝ち得て銀座店をオープンさせたという逸話は有名だ。
「起業だけでなく、ビジネス上で必要なことはすべて営業時代に身につけた」いう松田氏。そこで学んだ最も大きなことは、情熱を持って自分の仕事に打ち込む、ということ。それを教えてくれたのは、もしかしたら、門前払いした、顔も知らない多くの社長たちかもしれない。
営業という職種ならば、断られて落ち込むことも多々ある。その辛い時期を乗り越えられたのは、やはりその先に「食の分野で起業したい」という最終到達地点が見えていたからだ。銀行で営業をやる、成績を上げて年収アップ、それは目標達成の一手段でしかない。営業ならば誰でも体験する辛い局面にぶつかっても立ち直り、起業に向かって踏み出せたのは、ここ数年限定の目標ではなく、人生の目的を持っていたから、と松田氏は語る。
タリーズコーヒーの新卒入社式で、松田氏が開口一番に言うのは「キミたちには5年間で辞めてもらう」というセンセーショナルな一言だ。この厳しい一言に腰が引ける新入社員も少なくない。しかし、続く説明を聞いているうちに、顔つきが徐々に変わってくる、と松田氏。
「人生は無限じゃない。事故なく生きても寿命は70年か80年。仕事ができるのはわずか30年程度。30行しかない年譜をどう埋めていくか、きちんと時間を区切って目標を立てていかないと、漫然と生きてしまうことになります。そのための区切りが5年ということ。新しい目標を見つけるために、ひとまず5年、タリーズで働く間にそれを見つけて欲しい、という意味なんです」
タリーズでの営業は、主に店鋪開発という業務である。ビルオーナーと交渉し、大事な資産の1階をタリーズに提供してもらう。思いが強いほど、断られたときは傷も深い。反面、情熱が通じてOKをもらえたときは恋が実ったときのようにうれしいはずだ。
「感情のアップダウンが激しいのが、営業という仕事の特徴の一つだと思います。しかし、何かに惚れ込む、という感受性を鋭敏に保つには、営業は最適な職種だと思います」
通常セーブしがちな感情を解放しながらの一生は、たくさん笑ってたくさん泣いて、たくさん感動できる、贅沢な一生となる。銀行マン時代、営業のなかで巻き起こるたくさんのドラマに感動し続けた松田氏。米国で始めて口に含んだタリーズの「本日のコーヒー」に体が震えるほど感動できたのは、そしてその情熱を臆することなく社長に伝えられたのは、営業でブラッシュアップし続けた「惚れる力」のなせる技、なのかもしれない。 |
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営業の踏み絵
営業先から賄賂や接待の要求が。あなたならどうしますか?
ブラックな手段で繋いだビジネスは必ず破綻します。最初にそういう態度をこちらが見せると、その程度の相手だと思われて当然。取引は太陽の下で真剣勝負。これが私のビジネス軸です。
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Text :Hana kanai
Photo :Soukichi In
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