さらに、「付き添い支援」というものも推進していこうと考えています。
「安心して悩むことができる社会」の実現のためには、悩み苦しんでいる人と一緒に考えて、行動してあげる人の存在が必要不可欠だと先にも述べましたが、今、問題なのはそういった人があまりにも少ないということです。でも、「一緒に考える」だけなら難しいことではなく、先生でも、サラリーマンでも、主婦でも、学生でも、誰でもできることなんですよ。答えを見つけて与えるのではなく、「一緒に考える」だけでいいんです。
私も電話相談員になるときに、もしかしたら資格コンプレックスがあったのかもしれません。カウンセラーの資格を持ってないし、心理学も勉強してないから難しいかなと思ったけれど、実際にはそんなものは全く関係ないんですよ。一緒にやろうという思いさえあれば誰にだってできる。みなさんが苦しんでいる仲間をなんとかしようと思ってくださったら、それだけでも救われる人はたくさんいるはずなんです。
例えば、いろんな要因が重なって困っている人は、非常に精神的に落ち込んでいるため、自分で相談窓口を探すことはとてもたいへんです。エネルギーが枯渇していますからね。自分でちょっと探して見つからなかったら「もうダメだ。死ぬしかない。」と思ってしまいかねません。そんなとき、周りにいる人が一緒に探してあげたら相談窓口につながる可能性はある。一から十まですべてやってあげなくても、相談窓口を探すくらいなら誰だって一緒にできることじゃないですか。
中にはあるきっかけで生活苦に陥り、うつ病になってしてしまう人がいます。働けなくなって生活苦になり、行政に助けを求めようと生活保護申請をしても、「あなたは頑張れば働けるでしょ。出直しなさい」って言われたら精神的に弱っている状態では太刀打ちできずに、すごすごと帰らざるをえない。そして中には絶望して自殺しようとする人もいる。実際に生活保護の申請に行政に行っても、窓口の職員に邪険にされた(※4)という話だってよく聞きますから。
でも一緒に行って横にいて「ちょっと待ってください、この人、本当に病気で働けないんですよ。申請を受け付けないのはなぜですか?」と口添えをするだけで、そんなに邪険には扱わないはずなんです。だから法律のプロじゃなくても、社会保障の手続きに詳しくなくても、横にいるだけで、そして何かおかしいと思ったら代わりに発言するだけでいいんですよ。
ほかにも、住宅を出なくちゃいけない場合は一緒に住む家を探すとか、弁護士に相談しなきゃいけない事案だったら、法律事務所を探して一緒に付き添って行ってあげるとか、できる範囲で悩んでいる人と一緒に考える、一緒に行動することをやり始めようと思っているところです。
※4 生活保護の申請に行政に行っても、窓口の職員に邪険にされた──2007年7月、北九州市小倉北区で52歳(当時)の男性が孤独死した。死因は貧困による餓死。病気で働くことが困難になったため、同区役所に生活保護を申請したが、「生活保護の辞退届け」の提出を強要され、生活保護は受けられなかった。翌8月、男性が餓死したのは生活保護を認めなかったことによるとして、作家、弁護士、福祉施設職員ら合計364名および4団体が、同区福祉事務所長を公務員職権濫用罪、保護責任者遺棄致死罪で刑事告発した。当連載に登場していただいた宇都宮健児弁護士、作家の雨宮処凛氏も告発人として名を連ねている。
|