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魂の仕事人 第37回 其の五
仕事は遊びであり趣味 結果として社会に還元されるもの 目標は立てず、流されていきたい
現在、古武術介護をメインとした身体運用の講師、講演、取材、執筆と八面六臂の活躍を見せている岡田氏。まともに自宅に帰れないほどに多忙な日々を送っているが、ストレスは全く感じていないという。シリーズ最終回の今回は岡田氏にとって仕事とは何か、何のために働くか、そしてこれからどこへ向かうのかに迫った。  
介護福祉士・理学療法士 岡田慎一郎
 

古武術式介護技術実践塾でのひとコマ(中央が主催者であり、地域住環境研究所代表の福井義幸氏)

人と人とをつなげることがやりがい

 

僕のキーワードって「触媒」だなって思うんです。今の世の中の仕事ってほとんどが再分化されて専門化されてますが、触媒ってのは細分化するんじゃなくて、つなげることだと思うんですよね。だから僕のテーマは、どれだけ異分野の人たちを身体という触媒によって繋げていけるか。そしてそれぞれの展開をサポートする、それぞれの分野に生かすお手伝いができるかってこと。僕を触媒としていろんな分野の人が繋がったと感じられる瞬間が一番うれしいんですよ。基本的におもしろい人におもしろい人を紹介するのが好きなんです。

もちろん、僕の講座で習ったことを介護の現場で実践したらすごく楽にできたっていう参加者の声もうれしいですよ。大きなモチベーションになります。でもそれ以上に、僕がきっかけとなって異分野の人が出会ってそれが形になったときに最大のやりがいを感じるんです。僕の仕事そのものではなく、僕という触媒を通じて、皆さんが繋がってくれる方がうれしいってことです。

また、参加者してくれた皆さんにしても、僕に習ってよかったっていうよりは、僕をきっかけにして、自分なりの身体の使い方の工夫がどんどん進んでったっていう方がうれしいんですよ。僕に依存してるっていうのはあまりうれしくない。僕から離れたところで自立して、僕をきっかけにしてくれて、その人独自の身体の使い方を展開できるようになったという声の方がうれしいです。介護の講師としては、それが最大の喜びですかね。

講習に来てくれる人にいつも「僕の講習を真に受けないでください」って言ってるってのはそこです。あくまでも僕は僕の考え方、僕の身体でやることであって、皆さんとは身体も感じ方も考え方も違うから、どうか皆さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの動きを目指された方がいいんじゃないですか、ということなんです。

この仕事は遊び
 

今の仕事を天職だと思ったことですか? 全くないですね(キッパリ)。まず今の活動が仕事だという感覚が全くない。働いてるって感覚が全くないんですよね。だから毎日全国を飛び回って、休みがなくてたいへんでしょうってよく言われるんですが、全然つらくないんです。元々遊び自体に興味がないので休みがあっても遊びに行かないので。趣味も特にないんですよね。いうなれば、この活動が僕にとっては最大の遊びであり趣味みたいなものですね。

たまたまこの活動でお金をいただいて生活しているのでカテゴリー的には「仕事」かもしれませんが、趣味でやってることでお金をいただけるなんて申し訳ないって感じです(笑)。仕事と遊びがイコールなんですよね。この活動は楽しいですもん。だから当然プライベートと仕事の垣根はないですし、ストレスもたまらないですね。ストレスを感じるのは原稿の締め切り前くらいです(笑)。

誰のためにも働いていない
 

じゃあ僕にとって仕事とは何か……一番難しい質問ですよね。そもそも今の活動が仕事っていう意識がないので、何が仕事かがわかんないんですよね。しいて言えば「自分の行動が結果として社会に還元されている」ってことですかね。社会に還元することが目的じゃなくて、結果としてそうなっている、結果として社会の役に立っているというもの。

だから僕は誰のためにも働いていません。自分が楽しいなと思ってることが結果として人のためになっているってのが現状なので。全部結果論なんですよね。目的になってない。これが目的として人のためにやってやろうとすると、すごくいやらしいものになってしまうと思うんです。

何かこう、「人のためにやるんだ!」っていうと押し付けがましくなりますよね。そうすると、拒絶感、抵抗感が生まれて、今のようなつながりってできなかったと思うんですよ。また、多分、「こんなことをやってやろう」と意気込むと、人って侵略感を感じるんじゃないでしょうか。僕は誰かを侵略しようとか、誰かを蹴落として、批判してのし上がってやろうという気は全くない。「やりたきゃ自由にやったらいいんじゃないすかぁ?」くらいの感じなんですよ(笑)。だから「何のために」もないですね。

お金のためにも……まぁ、確かにお金も大事で、そりゃお金をもらえるに越したことはないですが、必要以上にお金を儲けることにこだわりがないんですよね。昔から金持ちになりたいという欲望がない。そもそもお金をもらっても使いたい対象がないんですよ。子供の頃からお小遣いやお年玉をもらってもファミコンとか買ったことないですし。釣りは好きでしたが、最近やるヒマもないですし。本は好きだけど本代なんてたかが知れてますしね。だからお金よりもいかにおもしろい人と出会えるかという方が重要ですね。

ニートでよかった
 

これまで出会えた皆さんのおかげで毎日充実した日々を送っていますが、これまでの道のりを振り返ると奇跡的ですよね。なんせ元ニートですから(笑)。そういう意味では19か20歳の頃、知的障害者の方が声を掛けてくれたことが大きいです。あれがこれまでの人生の中で一番大きい節目でしょうね。「遊びにおいでよ」って福祉作業所に誘ってくれたおかげで、再び人の中に入れるようになったので。もしあのとき声をかけてもらえなかったら、今でも引きこもりだったかもしれない。そういう恐怖感はありますね。あれがすべての始まりだった。

それまではほんとにキツかった。不安で不安でしょうがなかった。毎日うじうじしてた。でも一方で、あそこまでだらしなく落ち込んだ経験が、今、すごく生きているなあって実感するんですよね。こういう、人と接する仕事をする上で、中途半端な時期が長かったということがかえってよかったのかなと。

というのは、僕、意外とエリートに思われることがあるんですよ。30代半ばでいろいろな講座や講演とかで全国各地を飛び回ったり、本を出したりしているので、いい大学を出ていいキャリアを重ねてきた人なんでしょって。

でも全然違いますからね。「大学も出てないし、若いころはうじうじしてニートという言葉がない頃のニートですから」って言うと、そうなんだって、皆さんに親近感をもってもらえたり、信頼を得られるようなところがあるんですよ。特に最近増えてきた大学での講演で後でこう話すとかなりウケますね(笑)。

だからヘタに順調にキャリアを重ねてこなくて、結果としてよかったかなと。一歩間違ったらほんとに危なかったと思いますけどね(笑)。

ニートから紆余曲折を経て人気講師となった今、次なる夢や目標やビジョンはなんなのか? 岡田氏から返ってきたのは、意外だが、彼らしい答えだった。

目標なんてない
流されていけばいい
 

今後の目標? 一切ないです!(キッパリ) そんなもん、もったらいやらしくなりますよ。古武術介護の学校みたいなものを作るなんてことも絶対にないです! これを制度化とかカリキュラム化とかインストラクター化するなんてのは最悪ですね。もしそんなことをやり始めたら僕は終わったと思ってください。世の中のものがすべて組織化に向かって動いているので、僕はそうはしないようにしようと思ってます。組織化しないことで差別化を図ろうと。それもひとつ戦略かな、なんて(笑)。僕が研究している身体運用理論はいつでも社会のど真ん中に置いて、欲しい人は勝手に持ってってください、って感じにしたいんですよね。

目標ではないのですが、この先のことに関してしいて言うなら「どこまで流されるかな」っていうのはあります。中国大陸由来の淡水魚にソウギョ、レンギョ、ハクギョ、コクレンっていう魚がいるんですけど、こいつらは川魚なのに1mを越えるものもザラというくらいとにかくでかい。でも日本では利根川水系でしか繁殖していないんです。なぜかというと、卵の孵化の仕方が変わっていて、通常のフナやコイなどの魚は水中の水草に卵を産み付けて孵化するんですが、ソウギョとかレンギョは水中を流されながら孵化するんです。それができるのが利根川水系しかないらしいんですね。僕はこのソウギョとかレンギョみたいになれたらいいなと。ひとつ所に留まらず、流されながら、孵化して育っていければいいなあと思っているんです。

川の流れっていうのは人のご縁だと思うんです。そのいいご縁に流されてここまで来たなぁと。仕事のモチベーションも「人に言われたから」。ほんとなんですよ。僕、人から言われないと動かないんですよ。もちろん、やるときは最大限にやるんですが、求められるからやるんであって、求められなければやらないんです。

古武術介護の伝道師? いやいや、そんな意識は全くないですね。知らないうちにみこしに担がれてたみたいな感じですね。やっぱりかつがれる方は軽いのがいいんだなあっていうぬる〜い感じです(笑)。

中途半端な存在に耐えつつ、楽しむ
 

だから甲野師範に会う前に考えていた理学療法士の道も、流される間にそのプランが大きく変化してしまったんですよ。その最大の理由は甲野師範の発想、考え方ですね。このインタビューの冒頭で、僕は何者かと問われたときに、「フリーの触媒」って答えましたが、甲野師範自体がいろんな分野をつなぐ触媒なんですよね。そこに一番影響を受けてます。僕もひとつの組織の一員として働くのではなく、甲野師範のように自由な立場の触媒でありたいと。

どこかに所属したりとか、その組織の利益のために動くようになれば触媒としての役割は終わってしまうので、いつまでも触媒でいたい。触媒でい続けること、中途半端な存在っていうのに耐えつつ、それを楽しむっていうのが僕の役割であり希望ですね。

ですから目標とか夢とかないです。流され続ければそれでいいかなと。流れに逆らうと溺れるので(笑)。だから「自分を駆り立てるものは?」って聞かれても、そんなものはないんですよね。僕の場合、自力じゃなくて他力ですから。うまくいってる人って意外に他力本願だと思うんですよね。もちろん自力で泳ぐ時は泳ぎますよ。例えば講演会とかでフリーズしてしまったら誰も助けてくれる人はいないので、もうそれですべてが終わりです。だからそのときは自力で最大限に動きます。

オートとマニュアルをうまく切り替えてるといった感じですかね。大局的に見れば基本的に流されてるんですけど、自走してるときもある。そのときも、不思議な縁でつながった皆さんのおかげですごく大きな力が出る。自分には才能がないので、自分の力だけでは小っちゃなことしかないできないんですけど、皆さんが作ってくれる流れに乗れてるからいろんなことができるんだなと感じてます。

引きこもりつつ時々動く
 

やっぱり重要なのは「出会い」ですよね。どれだけいい人の出会いの流れの中に身を置けるか。それが今の僕を作ってくれてると思うので、今、やりたいことが見つからないとか、不本意な人生を送っている人には、とにかくよい人の流れに乗ってくださいってことですね。

そのためにはどうすれば……それが難しいんですよね。いい流れに乗るためのコツなんてものはなくて、縁としかいいようがないんですよ。意識的にじゃなくて、勝手につながってくって感じなんですよね。

ある人から「いろいろな仕事で成功している人ってブログとかWebサイトを開設していない人が多いんだよね」って聞いたことがあるんです。どんどん勝手に人の縁でつながっていくのでそうする必要がないと。巷には「人脈のつくり方」なんてビジネス書があふれてますが、ああいうのをまじめに読んで実践しようとする人は本物の人脈なんて作れないよねって思います。

確かに多少は自分で動いてるってのもありますよ。障害者の方に声をかけていただいたときも、家に引きこもってその場所にいなかったら出会えなかったわけだし、甲野先生の講習会にも自分から行ったわけですからね。だから、引きこもりつつも時々動いたときに、いかにいい人と出会えるかっていう……やっぱり縁としかいいようがないんですよね(笑)。

今後も人の縁の流れに流されるままに、フリーの触媒としての人生を楽しみたいと思っています。


 
第1回2009.1.5リリース 人気の古武術介護士も 元ニートだった
第2回2009.1.12リリース やる気ゼロでドロップアウト 障害者のひと声で救われた
第3回 2009.1.19リリース 古武術の達人との出会いで 運命が変わった
第4回 2009.1.26リリース 汎用的な身体運用理論の実践 「常に、今が失敗でありたい」
第5回 2009.2.2リリース 仕事は遊びであり趣味 どこまでも流されていきたい

プロフィール

おかだ・しんいちろう

1972年4月茨城県生まれ。高校卒業後、事実上のニート生活を3年送った後、運命的な出会いがきっかけで障害者福祉施設へ就職。介護士として働き始めてしばらくして、同僚が腰を痛めて次々と辞めていくのを目の当たりにし、レスリング、空手の技術を介護の現場に導入。そのおかげで一度も腰を壊したことがないという。障害者施設、高齢者施設などの現場で10年間働いた後、理学療法士を目指し辞職。介護専門学校の講師を務めながら、理学療法士資格取得のための学校へ通う。そんな折、偶然見たテレビがきっかけで武術研究家の甲野善紀師範と出会い、以降、古武術の技術を介護、育児、一般生活に取り入れた独自の身体運用理論を構築。現在は古武術の技法を取り入れた介護技術の講習、講演、メディア出演などで全国各地を飛び回っている。主な著作・DVDに『古武術介護入門』(医学書院)、『古武術式 カラダにやさしい介護術』(人間考学研究所)などがある。

【関連リンク】
■ブログ風コラム(人間考学研究所)

■講座案内
・講習会情報(医学書院)
・「古武術介護の応用」(人間考学研究所)

 
おすすめ!
 
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