シルクからは、1カ月経っても2カ月経っても返事が来きませんでした。しかし忘れかけていた2002年の10月、パソコンで作業をしていると、メールの到着を知らせるメッセージがモニタに表示されました。送信元が見たこともないような名前だったので、そのまま放置して作業を続けました。その頃多く届いていたスパムメールだと思ったのです。
寝る前にさっきのメールをとりあえずチェックしようと思って開けてみたら、@以下のドメインがcirquedusoleil.comとなっていました。それはびっくりしましたよ。スパムメールじゃないかと思って何度も綴りを確認しました。何せ履歴書を送ってから1年近くも経っていましたからね。
シルク・ドゥ・ソレイユからに間違いないと確認できて、本文を読んでみたら、たったの2、3行で「新しいショーをやります。興味ありますか?」ということだけが書かれていました。ですから、その新しいショーがどういうショーなのか、どこでやるのか、そもそも私はバトンを使ったパフォーマンスができるかということすら分かりませんでした。でも新たなチャンスがうれしくて、すぐに「もちろん興味があります。ぜひぜひお願いします」と返信しました。
しかし、そこからがまた長かったんです。何しろたった2、3行のメールでは実際に自分が新しいショーで何をやるのか、バトンができるのかすらわかりません。契約書が送られてきたのですが、それにも「あなたはキャラクターで、楽器に関する何かをします」としか書かれていないんです。でも私はシルクの「キャラクター」がどういう存在なのかというのが分かっていませんでしたし、バトンを使った演技ができるかできないかで、バトン協会に報告するかしないかも決まってくるので、シルクに詳しいことを教えてほしいと問い合わせました。ところが、「特に持って来るものはない」「私はキャスティングの人間だから分からない」と言われるばかりなんですよ。何をするのか全然わからなかったので不安でしたね。
また、他の出演者は、みなさんオーディションを受けて出演が決まったり、事前にモントリオールでのワークショップに参加して出演が決まっています。でも私のことは送ったビデオだけで、実物の私は見ずに採用しているわけです。シルクでは私が使えないとなったらどうするのかと思い、行く前までは不安でした。
でも、後でわかったことなのですが、シルクでは新しいショーの概要が決まった初期の段階で私を見付けてくれて、「この役は典子にしよう」と決めて下さっていたらしいのです。 |