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魂の仕事人   photo
魂の仕事人 第30回 其の三
一皮向けた仕事で一人前に 作品つくりにとことんこだわる“もの言うナレーター”
声の仕事で生きてゆくと覚悟を決めたのは23歳の頃。当然、不安はあった。だからこそ誠実に頑張った。その積み重ねがやがて窪田氏を売れっ子ナレーターにしていった。シリーズ第3回では国内トップクラスのナレーターになるまでのプロセス、そしてナレーターとしてのこだわりを熱く語ってもらった。  
ナレーター 窪田等
 

新人時代の修行

 

 バイトを辞め、ナレーション1本でやっていくことになった頃は、暇があったら新聞記事を朗読していました。その当時の仕事はCMのナレーションばかりだったので、いつかはドキュメンタリー番組や報道のナレーションをやりたいなと思っていたんですよね。よくカミさんに新聞記事を朗読するから聞いてくれとお願いしていました。たまに「あの頃はうるさかったねえ」って言われます。自分ではあまり記憶がないんだけどね(笑)。

 また、テレビから黒沢良さんのナレーションが流れてくると、すぐ口写しで読んでみたり。「かっこいいなあ、こんなふうに読みたいなあ」「早く黒沢さんのようなしゃべりができるようになりたいなあ」と思ってやっていましたね。これといってすごい鍛錬ってものでもなかったんですけどね。

 こんな感じでひとりで練習したり、来た仕事は断らず全力で取り組んでいくうちに、仕事の件数も順調に伸びていって、27、8歳のころにはかなり忙しくなりました。特に何かの仕事がきっかけになったというわけではないです。本当に一つひとつの仕事の積み重ねだと思います。

スライドナレーションで基礎が築けた
 

 当時の仕事のメインはラジオ・テレビCMのナレーションでした。そのうちに企業が開発した新商品のPRのための、商品説明の仕事が入るようになってきました。100カット近くのスライド(写真)に合わせて、20分間ほど読みっ放しという、CMとは正反対のナレーションです。たとえて言うと、CMが100メートル走ならスライドはマラソンのようなものです。これが大変でした。これまで経験したことがないので、長い文章がなかなか読めない。苦労しました。だから以前に増して、新聞の社説やコラムなどを読むように努め、長い文章に慣れていったわけです。そのうちに聞いている人にわかりやすく、正確に伝えようという意識が強まってきて、ようやくこなせるようになりました。そうなるとまたおもしろくなってきて、どんどんのめりこんでいきました。

 このスライドを使ったプロモーションの仕事は、やがて使用機材がビデオに代わった(VP/ビデオ・プロモーション)ので現在はもうありません。変わりにVPはたくさん作られているので、そのナレーションの仕事は今でもたくさんやっています。

 今思うと、この地味なスライドナレーションが僕のナレーションの基礎を築いてくれたんですね。

可能性を求めて事務所を移籍
 

 30歳の頃、また転機が訪れました。その頃、CMの質が変わりつつあったんですよ。単なる商品の説明・宣伝から出演するキャラクター重視の時代になってきて、声がはっきりしていてわかりやすく視聴者に伝えられる能力とは違う部分が要求されるようになってきた。そうするとCMのナレーションを役者さんやタレントさんが読むようになってきたんです。

 CMナレーションの流れが変わる……果たしてこの事務所にいていいんだろうかと考えるようになったんです。よその芝生は青く見えるわけですよ。営業をやっているわけでもないから仕事は増えないし。ちょうどそんなとき大きめの事務所のマネージャーさんが「ウチの事務所に来ないか」と声をかけてくれたんです。いわゆる引き抜きですね。ちょうどこのままでいいのかと悩んでいたところだったので、「向こうの事務所に行けば新しい仕事があるかもしれないな、仕事の幅がもっと広がるんじゃないかな」と思って移籍することにしたんです。

アニメの声優を初体験
 

 事務所を移った次の年にアニメの声優の仕事をやりました。もちろん初めて。非常に新鮮でした。でも怖かったですよ。初めての仕事だから。セリフだけじゃなくて、ナレーションの部分もあったからそこは自信をもって臨めたのですが、セリフになると「みんなに迷惑かけちゃいけないな」というプレッシャーもありましたしね。

 声優の仕事は単なるナレーションとは全然違います。まず収録するときのスタンスが違う。ナレーションは座って台本を読むのですが、アニメの場合は立ってやります。あとは収録時の人数。通常、ナレーションの場合はひとり、あるいは掛け合いでふたりでやりますが、アニメは登場人物が多いので一度に大勢でやります。

 でも最大の違いは役があるかどうかです。僕らナレーターは説明文を「読む」ことが仕事ですが、アニメの場合は「セリフ」だから感情を入れなきゃいけない。ここが最も難しいところですね。ナレーションの場合は感情を入れすぎたらダメ。主役はあくまでも画面に出ている人ですから。ところがアニメでは声優が主役なわけですよ。そのへんが大いに違うところです。みなさんは「声の仕事だから同じだろう」と思うかもしれませんけどね。

 声優の仕事自体はすごく楽しかったですよ。ひとりでやるCMのナレーションとは全然違いますから。毎週集まってみんなでひとつの作品を作り上げていく。それが楽しかったですね。

 でも、そこから声優の方に行きたいとは思いませんでしたね。やっぱりナレーションがやりたいという気持ちが強かったから。子供の頃に黒沢良さんのナレーションを聞いたことから始まって、ナレーターを志してからもずっと黒沢良さんのようなナレーションをやりたいと思っていましたから。「俺がやりたいのはコレなんだ」という軸はブレませんでしたね。

 あとは事務所を移ってからさらにスライドの仕事が増えました。そもそも新しい事務所のマネージャーが僕に声をかけてくれたのは、前の事務所でスライドの仕事をたくさんやっていたからということでしたから。CMのナレーションの仕事はどんどん減っていきました。

いよいよテレビ番組のナレーションへ
 

 この頃からスライドは徐々にビデオに変わっていき、ますます需要は増え、テレビ番組のナレーションも徐々に入ってくるようになりました。

 でも最初は戸惑いましたね。それまでこなしていたスライドやVP(ビデオ・プロモーション)の仕事と違って、テレビ番組のナレーションにはインパクトなどの個性が求められますからね。ただの説明文ではありませんから。時にはおもしろおかしく読んだり、叫ぶように読むことを要求されたり……。どうも勝手が違う。

 それでいろんなナレーターさんの番組を見る……いえ、「聴く」ようになったんです。すると「ああ、このナレーターさんはこう読むのか、じゃあ自分はこう読んでみようかな」というのが見えてきて、そこからはトライ&エラーの繰り返しですね。すると段々コツのようなものがつかめてきて。僕の声は突出した個性的な声ではなく、それでブレイクするってことはなかったから、ほんと、地道にって感じでしたよ。

ひと皮向けたF1のオープニングナレーション
 

 この世界で「やっていけてるな」と思ったのは40歳を過ぎてからかなあ。不安よりもやりがいのほうが大きくなったっていうかね。そのころから自分の色ができた気がしますね。番組で言うと「F1グランプリ」のオープニングのナレーションをやったあたりからかな。

 F1の仕事は自分で探したり売り込んだわけじゃなくて、フジテレビのプロデューサーから依頼が来たんです。ちょうど前任者の城達也(※1)さんが仕事が続けられなくなって後任者を探していたらしいんですよね。番組のプロデューサーと僕の所属していた事務所も何のつながりもなかった。これも縁・出会いなんですよね。

※1 城達也──テレビ、ラジオ等で絶大な人気を誇った名ナレーター。代表作はラジオ「ジェットストリーム」(初代パーソナリティ)、テレビ「F1グランプリ総集編」、吹き替え「グレゴリー・ペック」「ロバート・ワグナー」。1995年食道がんのため65歳でこの世を去った。2008年3月に発表された「第二回声優アワード」で特別功労賞を受賞。受賞理由は「グレゴリー・ベックやロバート・ワグナー等の外画の吹き替えなどで絶大な人気を集めた。アニメ作品では「忍風カムイ外伝」「妖怪人間ベム」などのナレーションを担当。ラジオ番組「ジェットストリーム」の初代パーソナリティとして、その美しく心安らぐ声で、多くの人を魅了した」

 だけどあの城達也さんの後任ですからね、そりゃあプレッシャーでしたよ。僕にとって城さんは大先輩で本当にあこがれの人だったから。クリスタルボイスといわれるようなとてもきれいな声で、品があって、かっこよくて、二枚目で。その城さんの後にやるんだからどうしようと。とても城さんのマネはできないし。

 だからやっぱり荷が重いなと思いましたが、最後はもう開き直るしかなかった。「一所懸命やってダメならいいじゃないか」「ベストを尽くしたら後はテレビ局が判断してくれればいいよ」って。

 そうやって覚悟を決めて頑張っていたら段々自分の色が出せてきて、格調高い原稿を読みながら「なんて心地いいんだろう。気持ちいいんだろう」って思えるようになりました。そして「俺がやりたかったのはこれだよな」とまで思いました。このF1の仕事が自分に自信がもてるきっかけになったのは確かですね。いわゆる一皮向ける仕事というやつですよ。だからF1のオープニングナレーションは僕にとっては大きかったですね。局のスタッフや視聴者にも好評をいただいて、いまだに年末年始のF1総集編のナレーションを担当させてもらっています。

 それから少し経って、同じフジテレビから「ツール・ド・フランス」のナレーションの依頼が来ました。深夜放送だから視聴者の数は限られるのですが、コアなファンの人が「窪田のナレーション、いいね」と言ってくれて。うれしかったですね。

 そして1998年に「情熱大陸」がスタートするとき、毎日放送からナレーションのオファーが来たんです。そもそもは「情熱大陸」のプロデューサーがF1好きで、僕のナレーションを聞いていた。それで「1年間だけ窪田をナレーターとして使ってみたい」と思ったらしいんですよ。F1やツール・ド・フランスのような緊張感のある世界で仕事ができたことが、「情熱大陸」へとつながっていった、そしてそれが10年経った今も続いているわけです。

窪田氏の代表作のひとつである『情熱大陸』。登場人物をさらに引き立てる窪田氏のナレーションに魅せられる視聴者も多い。ただナレーション原稿を読んでいるだけではなく、間の取り具合、感情の乗せ方が絶妙で、つい画面に引き込まれてしまう。その裏には作り手の一員としてのこだわりがあった。

こだわりの「情熱大陸」
 

「情熱大陸」は30分番組ですが、間にCMを挟んで3つのブロックに分かれています。通常、ナレーションを収録する際は、最初から最後まで通して一気に収録していくのではなく、ナレーション部分だけブロックごとに分けて録る場合が多いのですが、あの番組に関しては最初から最後まで映像を見ながら収録しています。全部通しで見たいんですよ。インタビュー部分も聞きながら。なぜなら少しでも出演者のことを知りたいから。出演者がどんな人で、どんなことを言っているかによってこちらの思いが違ってくるので。じっくり録っていきたいからディレクターさんには迷惑かもしれないけれど「最初から最後までずっと見せてください」とお願いしているんです。その映像を見て「この人って熱い人だな」「なんて素敵な表情をするんだろう」「おもしろい人だなあ」などと思いながら台本を読んでいるんです。時にはおもしろいカットがあると「もう一回そこ見せてください」とかね。楽しみながらやってるんです。

ナレーターの思いが出る番組
 

「情熱大陸」の主役はあくまでも出演者で、ナレーターは脇役です。でもナレーターが出演者のことをどう思うか、その思いがナレーションに現れる。主役である出演者を自分がどう思うかによって、ナレーションが微妙に変わってくるんですよ。出演者によって違う場合もあるし、同じ人でも最初と最後で読み方が微妙に変わってくるときもあります。

 例えば最初に映像と台本を見たときに「この人どうなんだろう?」と疑問に思うときもあります。しかし、読んでいくうちにだんだん引き込まれて「やっぱりこの人っていいよな」と思い始めたら、そういう思いがナレーションに現れてきます。だから始めのリハーサルと収録が終わる頃とでは微妙に違いが出てくる場合もあるんです。

 もちろん何の感情も込めないまま、ただ淡々とナレーションを読むこともできます。それでも視聴者にはある程度伝わると思うんですよ。だけどナレーションは字幕スーパーじゃなくて感情をもつ人間がやるものだから、同じ番組で、同じ台本でも読むナレーターによって印象が全然違ってくる。その番組のその1回は世界にひとつしかないものだから、ナレーターの思いを込めていいんじゃないかなと思いますね。そもそもナレーションに100点満点はありえないと思っていますから。

 台本の中には文章の流れや表現の仕方でちょっとつらいなあとか難しいなあという場合もあります。例えば「この尺(=時間)に対して、この文章は長いよなぁ」と思うときなど。意味上はきれいにつながっている文章でも一息には読めない。本当はどこかでいったん文章を区切ったり、「そして」という言葉を入れたりすればいいんだけど、その尺数ギリギリで変えようがないという場合もあります。それでもプロとしてなんとか80点くらいにはもっていかなきゃいけない。だからちょっとずつブレスを吸いながら意味を変えずに読んでいったりとか、あくせく調整しながらなんとか尺に収めています。だから100点満点はない。もちろん自分の読みもそうだし、作品自体のできという意味でも。何をもって100点と判断するかによっても違ってきますけどね。

台本が難しい
 

「情熱大陸」の難しい点は台本です。とにかく台本にこだわる。だから時にものすごく時間がかかることもあります。通常であれば30分番組だから2時間もあれば録れるはずなんだけど、なかなか2時間じゃ終わらなくて。最初から通して見ながら収録してるということもありますが、台本の直しもけっこう入るんです。台本はほとんどの場合、取材したディレクターさんじゃなくて作家さんが書いているんです。映像に作家さんが書いた台本をあてていくわけですが、それを見ながら「ちょっと違うな、この人を持ち上げすぎているよな」とか「それは視聴者側が感じることであって、こっち側(取材者側)が言うことじゃないよな」とか思うことがあるわけですよ。

 作家さんが力が入り過ぎちゃって出演者を必要以上に持ち上げちゃったような台本は、プロデューサーやディレクターがNGを出しますね。もちろん最初に台本ができた段階でまずチェックが入りますよ。文言の違いとかデータの違いとか表現の仕方など。ところが台本だけではなかなか分からないんですよ。僕たちの仕事は、平面のものを、僕の頭、体、声などの肉体を通して立体的にするわけだから、立体になったときに「ちょっと違うな」という違和感が出てくるわけです。そういうのを一つひとつ修正して完成度を上げていくんです。

もの言うナレーター
 

 僕も台本を読んでいて「これからの人なのにここまで言っちゃうのは言い過ぎなんじゃないか」と思ったときは、ディレクターに「ここは直した方がいいんじゃないか」と言うこともあります。

 ナレーターにもいろいろなタイプがあります。アナウンスブース(収録室)などのガラスの中だけで仕事をするのもナレーターだし、台本に書かれたとおり、ディレクターの言うとおり、うまく表現するのがナレーターだという方もいらっしゃいます。

 ただ僕の場合はそれだとちょっと物足りなくて。ガラスの中から出てきて「こうやったらどうだろうか」「こうやったらもっとよくなるんじゃないか」と言いたいんです。みんなと一緒にひとつの番組を作っていきたい、いちナレーターというよりスタッフの一員という形でやっていきたいというたちなんです。

 もちろんただ読むことだけに徹するのもひとつの立派なやり方なので、どっちがいい・悪いの問題ではありません。僕はそういうやり方でやりたいという、ただそれだけなんですよね。

読みたくない言葉もある
 

 作家が書いた台本で「日本語として変じゃない?」というのもあります。本当は台本に書かれてあるとおりに読まなきゃいけないんだけど……。

 例えば「間髪を入れず」という言葉。「間髪」は本来は「かん、はつ」と読みます。それが台本の読み仮名では「かんぱつ」となっている。そこでディレクター(D)と侃々諤々(かんかんがくがく)が始まります。

僕「“かん、はつ”を入れず、ではどうだろうか?」
D「今の若い人にはわからないかもしれないな」
僕「でもここは“かんはつ”を入れず、でしょ?」
D「うーん、どうしようかなあ……。やっぱそれだと分からないから“かんぱつ”にしようか」
僕「ごめん、それは読みたくない。ここでは“かん、はつ”を入れずと読みたい」

 これはひとつの例ですけれど、「これはどうしても読みたくない」「この表現はどうしても嫌だ」という言葉はあります。まずナレーターとして日本語として正しくないものは読みたくない。日本語を大事にしたいということです。

 それから、僕は上品な人間じゃないけれど、ナレーションに関しては「品」のようなものを崩しちゃいけないかなと思うんですよね。このシーンだと「“かんぱつ”を入れず答えた」では、ちょっと品がなくなるかなと。

表現にもこだわる
 

 また日本語としてはおかしくないんだけど、違う言葉にした方がいいんじゃないかという場合もあります。例えば、危険性を伝えるときの表現でも「〜の可能性がある」という言い方が最近多いと思うんですが、僕は「〜の恐れがある」の方がいいと思うんですよね。例えば「事故になる可能性がある」よりも「事故になる恐れがある」の方がいいんじゃないかと。「可能性」って割と前向き、ポジティブなことで使う言葉だから。「〜の危険性がある」の方がより伝わるんじゃないかと。まあどっちでもいいんでしょうけれどもね。

 最終権限はディレクターにあるわけですが、言葉の読みにしても、使い方にしても、おかしいと思ったらディレクターととことんやりあいます。

 だからよくうるさいナレーターって言われていますけどね(笑)。ディレクターやスタッフもよく分かっていて、収録中にちょっと揉めたりすると「窪田さんブースから出てくるよ、ほら出てきた」って(笑)。そういうこともよくあります。

リズムも大事にしたい
 

 音も大事にしたいですね。例えばある映像に「ある日の午後」というナレーションが入る場合、そこに音楽が「タンタン♪」と入るのですが、リズムを大事にしてその音楽のフレーズの後に「ある日の午後」って言いたいんです。だからディレクターさんからナレーションのキューが出ても、ほんの少し、1秒ほど遅れてしゃべりだす。「ごめんね、あそこのタンタン♪を活かしたいんだ」と。

 同じような感じで、番組の終わりに「〜だったのである」というナレーションと「チャララン〜♪」という音楽が入る場合だと、音楽とちょっとずらして、ほんの少しためて「〜だったのである」と入れた方が聞く方にとっては心地いいんじゃないかと。そんな微妙な作業を毎回しています。ほんの1秒とか半秒の微妙な調整の場合もあります。心地よさ。それを大事にしたいんです。

 また、絵と声の合わさるタイミングにもこだわります。例えば「彼はこの公園にいた」という一文を絵に合わせたいときに、そのまま「彼は公園にいた」と読んでしまうと、「彼はこの公園に」の後に絵が当たるかもしれない。それを「彼は、(僅かな間)この公園にいた」とちょっと間をおくことで、絵にぴったり合うんじゃないかと。その「ちょっとの間」をどれだけ取るのがベストなのか、あれこれ考えるわけです。「彼は」の後で取る間は1秒じゃなく半秒の方がいいのか、それとも半秒までいかないのか、もうちょっと小さい間なのか、とかね。

 自分ではそんなに「1秒を使い分ける」という意識はないんだけど、「ここで間をおきたい」と思うと必然的にそうなっちゃうんですよね。それは単にナレーションを絵や音に合わせたいというだけではなく、やっぱり視聴者に伝えたい「思い」なんですよ。その「思い」を伝えたいために、あれこれ工夫するわけです。その1秒なり半秒なりという間は時計で測っているわけではなく、感覚としてわかっているんです。数字やデータではなく、人になかなか説明できない、僕の中だけでわかっている感覚知なんです。いわば「体内時計」とでも表現したらいいでしょうか。この時間感覚は昔、ラジオCMのナレーションをやっていたときの経験によって身についたんです。

 

常人では感じ取ることのできない1秒以下の世界にこだわり続ける窪田氏。それはまさに匠の領域だ。

次回は神業のような時間感覚をどうやって身につけたのか。そして、これまで1度だけ収録中にしゃべることができなくなったときのことなど、印象に残っている仕事について語っていただきます。乞う、ご期待!


 
第1回 2008年3月31日リリース 1カ月の収録50本超 日本屈指の人気ナレーター
第2回 2008年4月7日リリース 運命を変えた一枚の広告 声の仕事を志す
第3回 2008年4月14日リリース こだわりの情熱大陸 100点満点の仕事は20代
第4回 2008年4月21日リリース 涙が出るほどうれしかった 聴視者からの手紙
第5回 2008年4月28日リリース 辞めようと思ったほど つらかった競合事件
第6回 2008年5月5日リリース ナレーター道を極めたい 人から必要とされていたい

プロフィール

くぼた・ひとし

1951年、山梨県生まれ。57歳。ナレーター(シグマ・セブン所属)。高校卒業後、大手情報通信企業の技術職を経て、ナレーターへ転身。以降、テレビ、ラジオなどの各媒体でドキュメンタリー、情報バラエティ、CMなどあらゆるジャンルのナレーションをこなす。明確でわかりやすい口調、過剰に主張しすぎない語り口、抜群の安定感などのナレーションに定評がある。現在日本で最も仕事の依頼が多いと言われているナレーター。

代表作に「情熱大陸」(毎日放送:毎週日曜日23:00〜23:30)「F1グランプリ総集編」(フジテレビ)などがある。

【関連リンク】
●株式会社シグマ・セブン
●窪田等氏のプロフィール

 
おすすめ!
 

窪田氏のナレーターとしての代表作のひとつ。2008年で10周年を迎えた。長期間に及ぶ密着取材でひとりの人物の核心に迫る上質なドキュメンタリー番組。登場するのはさまざまな業界で情熱をもって仕事に取り組み、挫折を超えて挑戦し続ける人びとなので、「魂の仕事人」とかぶることあり(伊勢崎賢治氏、野田義治氏など)。見終わったあと、働く勇気が沸いてくる番組。登場人物の真摯な生き様が、窪田氏の重厚かつ品格のあるナレーションとマッチして極上の雰囲気をかもし出す。

 
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取材・構成/山下久猛
写真/mikico
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