好きなことを長く続けていくのは、もちろんたいへんですよ。僕がラリーを始めた頃はそれだけでメシが食えなかったわけですから。その当時、ラリーでメシが食えていたら、もし野球みたいにラリーがプロとして成立っていたら、最初からプロドライバーになっていたでしょう。食えなかったからサラリーマンにならざるをえなかったということですよね。でも、サラリーマンになったから今があるわけで、ここまで続けてこられたのもサラリーマンドライバーだったからですよ。
それも、50過ぎてまで現役でできるスポーツなんてモータースポーツだけかもしれないです。普通のスポーツでは無理でしょう。58歳で、いまだに好きなことをやって、それで生活できているというのは、幸せすぎることなんでしょうね。そのうちの30年はサラリーマンとして続けてきたんですが、組織の一員でありながらやりたいことを長く続けるには、会社にも充分なメリットを与えるということが必要です。
僕の場合は、好きなラリーが会社の役に立つということを実績で示してきました。僕がラリーをやることで、車は爆発的に売れて、会社の売り上げも上がりました。でもレース活動が市販車の売り上げに直結することは、あまりないんですよ。世界でも、ラリーをやったことで車が売れて会社がすごく儲かった、あるいはそれで会社が大きくなったのという例は3つしかないと思います。
アウディのクアトロ、プジョーの205、それから、僕が乗っていた三菱パジェロ。この3台はほんとうに大きな効果をもたらしました。もちろん他にもラリーをやって、売れた車はあるんですが、大ヒットして、会社のイメージまでも変えた車はこの3つでしょうね。
アウディだってラリーをやるまでは、メルセデス、BMWに全然かなわなかった。いわば、まあフォルクスワーゲンと似たようなブランドだったわけですよ。それが、WRCでクアトロが勝ちまくって一気にイメージが上がって、グワーっと車が売れ、今やBMWやメルセデスとほとんど変わらないところまできちゃったでしょ。プジョーだって、ラリーで勝ったおかげで205が世界中で爆発的に売れたわけですよ。フランスをはじめヨーロッパで確固たる地位を築いて、シトロエンも吸収するほどの力を持つまでになった。
同じように僕が乗った三菱のパジェロもパリダカでの3位入賞を皮切りに、目指すは優勝!優勝!と期待を集めてどんどん人気が高まり、売れに売れた(注1)わけです。
そういう結果なり実績をちゃんと会社にフィードバックすれば、自分のやりたいことをやりたいようにできるようになるし、長く続けられるようになるんですよね。 |