これまでレスキュー隊として救助活動してきた中で、印象に残ってるというか、なんていうか、さびしさを感じたのは、ある交通事故です。事故現場に駆けつけたときには、すでに運転手は亡くなっていたのですが、車のそばにお弁当箱が落ちてたんです。たぶん運転手の奥さんが作ってくれたものだと思うのですが、今、奥さんはまさか夫がもうこの世にいなくなってるとは夢にも思ってないだろうなって……。そう思うとやりきれないというか、さびしさを感じました。
逆にいい意味で印象に残ってるのは、あるアパートの火災で、窓から1階の部屋へ入っていったら、人はいなかったけど玄関で猫が泡を吹いて倒れてたんですよ。それで自分の呼吸器を外して、猫の顔にかぶせてやって救助したら、見ず知らずの人がそのままその猫を抱えて、動物病院へ走って行ったんです。人であろうと動物であろうと目の前の命を救おうという、周りの人の気持ち、やさしさが人間らしいなって。それを見て気持ちが高ぶったのを覚えてますね。
大規模な災害や事故・事件の方が印象に残ってると思われがちですが、私の場合はそうではないんです。私も地下鉄サリン事件も救助に行きましたし、他にもある程度の規模の災害に行った経験はあるんですが、災害の規模は大きくても、消防職員一人ひとりがやってることは、どの災害でも同じなんですよ。小さいボヤでも、ホテルニュージャパンのような大火災でもね。違いがあるとすれば、出場する消防職員の数だけで。
だから、大きい災害ってのは、大きく報道されて後々まで騒がれますが、現場的には小さいもののほうが印象に残ってるんですね。先ほどの交通事故にしても、その人の人生が一瞬で終わっちゃったとか、お弁当を作って送り出した奥さんはまだ知らないんだなとかって思うとね……。
地下鉄サリン事件なんかは、駆けつけたときははっきりいって何が何だかわからない状況ですから。今配備されているような十分な装備はなかったので、とにかく一刻も早く救助するために、万全でない装備でプラットフォームに入ってますし。中には、入って気分が悪くなった隊員もいます。すごい事件だったんだと分かるのはずっと後ですからね。 |