これまで作った中で一番印象に残っているのは「ニューヨークスペシャル」っていうナイフ。警察官が内ポケットに忍ばせる小さいやつなんだ。そもそもはボブさんがニューヨークの刑事とメシ食ってて、「こういうの作れないかな」という相談を受けた。それでナプキンに描いたらしいんだよ。「こんなんでいいんじゃないの」って。ドットボタン(ホック)がついててパチッとサヤの方に止められて、サッと抜け出せる。内ポケットに入れられるようにね。
ある日本人にそのナイフのレプリカの製作を依頼されて、何回目かのニューヨークナイフショーに展示したときに、まだ若い足の悪いハンディキャッパーが僕のテーブルに立ち止って、こう言ったんだ。「これはニューヨークスペシャルじゃないか! どうして日本人の君が知ってるんだ?」って。で、僕はボブさんの弟子でかくかくしかじかって話したら「僕はボブさんに直接オーダーして作ってもらったオリジナルも持ってるんだよ。でも日本人の君がまさかこれを作ってくれるとは思わなかった。このナイフは僕が買うよ」と言ってくれたんだよ。
そのショーは240〜250人くらいのナイフメーカーが出品してたんだけど、彼は帰りがけにもう一回寄ってくれて「このナイフショーで一番エキサイティングだったのはこのニューヨークスペシャルさ」と言ってくれたんだ。そりゃすごくうれしかったよ。そのとき、「若者は大胆な発想で心の高みを思い描いていれば、必ずなにか見えてくる」ということがよく分かったな。
そういったことがあって、そのナイフとお客さんがこれまでで一番印象に残ってますね。
あとは「ハンドスケルペル」ってナイフ。刃渡り56mmの小さいナイフなんだけど、C・W・ニコルさんが命名してくれたんだ。そもそもは、ニコルさんが皇居の近くを歩いてたときに警備の警官に職務質問されて、そのときナイフを持ってたことを注意された。僕に「どうして注意されるのか分からない。日本ではナイフを持って歩いたらダメなのか?」って聞いてきたから、日本には銃刀法(注1)ってのがあってねという話をしたんだ。そしたら「だったら銃刀法をクリアする小さいナイフを作ればいいじゃないか」と言われた。それももっともだと思って作ったのがそのナイフ。ニコルさんに渡したら「これはすごい! 僕が命名してあげる」ってハンドスケルペルっていう名前をつけてくれたんだ。ニコルさんは雑誌で「僕はこれで熊でも解体できる」と言ったらまた人気が出ちゃってね。
今でこそこういう小さい使えるナイフはひとつのカテゴリーになっちゃったけど、当時はなかったんだ。アメリカのナイフショーに出したときもびっくりされたなあ。
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