さまざまな任務の中でも、DDR(注1)が一番たいへんでした。DDRとは、Disarmament(武装解除)、Demobilization(動員解除)、Reintegration(元兵士の社会復帰、もしくは社会再統合)の略。ゲリラや軍閥と交渉、説得して武器を捨てさせ、部隊を解体し、そして元兵士を社会復帰させる一連のプログラムのことです。要するに紛争や内戦が勃発している国へいって、戦争をやめさせ、平和を取り戻す仕事ですね。
(注1 DDR) 責任者として本格的に指揮を採ることになったのは次のシエラレオネから
やっぱり一番難しいのはDDの部分、武装解除と動員解除ですね。彼らにとって武器は命ですから。
最初のD。武装解除とは文字通り武器を捨てさせること。その際には、自分の携帯している武器の分解・組み立てをさせるなどして、訓練を受けた兵士かどうかをチェックします。その上で自分で自分の武器を壊させます。このとき、何を思うのかほとんどの兵士が涙を流します。
次に2番目のD、動員解除とは軍事組織を完全に解体すること。組織が残っていればまた内戦が勃発してしまいますから。だけど、巨大な武装組織になればなるほど、一気に全体を解体することはできない。
どうするかというと、まず部隊の指揮系統を整備し直すんです。解体とは逆の方向では?と思うかもしれませんがそうじゃない。特に長期化している紛争では、指揮命令系統そのものが疲弊して使い物にならなくなっている場合が多い。すると統率力も弱まり、末端まできちんと命令がいかなくなってしまう。そうすると武装解除の命令なんて誰も聞かない。
だからまず指揮命令系統から立て直して、司令官→隊長→兵士と命令が行き届くようにして、末端の兵士から順々に解体させていくというわけです。
つまり「自分たちで自分たちを解体させる」んです。
でも兵士を丸腰にして、軍事組織から解放しただけではまだ不十分です。銃がなくても社会の中でちゃんと生活できるようにしてやる必要があります。そのために行うのが最後のR。元兵士の社会復帰、もしくは社会再統合作業なのです。
ゲリラ兵は何のために戦っているのかというと、自分の利益のためです。だから、紛争が終わることによって彼らが失うものを補填するとか、デメリットを少なくしてあげるというわけです。たとえば何百人も虐殺したゲリラ兵でも罪に問わない、仕事がなくなる人であれば職を与えたり職業訓練を受けさせる、選挙に出たい人にはそのチャンスを与える、利権が好きな人にはそれにふさわしいポジションを与える、など。そうやって、殺し合いをしなくても社会生活を送っていけるような仕組みを作るわけですね。
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