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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第43回(後編) 西田由理子さん(仮名)30歳/事務
働きながらの転職活動 可能な限り人に会うことで 苦しい状況を突破

大学を卒業して、大手グループの関連企業に入社した西田由理子さん(仮名・30歳)は、入社3年目で、薬品メーカーに転職。収入もまあまあで残業も多くはなかったが、3年が経つ頃にはこのままでいいのかと考えるようになった。経験を積んでいろいろな業務を任されるようになっても、自分の立場はそのまま。なのに、どうして後輩の男性社員が自分を抜いて上へいくのか? ここが唯一の職場というわけではない。もっと自分が輝ける場所がきっとあるはずだ。30歳に手が届く今、次のステップへの挑戦を開始したのだった。

このままでいいわけがない
とりあえず転職活動を開始
 

 OLの友人に言わせれば、西田さんは恵まれている方だという。確かに中途採用で入って3年。ほどほどの残業程度で、ふだんは定時に帰ることができる。女性であること、年齢を考えると、平均的な収入(※1)だ。しかし、明らかに自分より仕事をこなしているとは思えない男性社員がおり、その人たちがいつの間にか自分を追い越して出世している。自分の努力や成果は、これといって認められることはない。

 どうせ、いずれ結婚すればいなくなるんだろう? 子どもができれば、長い産休を取って、業務を停滞させるんだろう? それなら、いっそ、今のままでいてくれたまえよ。そんなことを影で言われているのではないか、とすら思えてしまう。

 確かに自分としては、与えられた職務を全うすることだけを考えて仕事をしている。会社に愛着を持ち、少しでも貢献しよう、会社の発展のために邁進しようとまでは考えていない。しかし、それは男女に関係なく、周囲を見ても同様に思える。

「いいのかなあ。友人の言うように、まだマシなのかなあ…・・・」

 でも、納得していないのは事実だ。このままでいいなんて思っていない。この会社にいたらずっとこのままだ。だからとにかくこの会社から出よう。会社なんて星の数ほどあるのだ。西田さんは、ともかくインターネットで情報収集を開始した。

キャリアシートを公開すると
人材バンクからさまざまな反応が
 

 まずは以前の転職で利用した【人材バンクネット】にアクセスしてみた。

「まず驚いたのは、案件の多さでした。もちろん私のような年齢の女性の求人もかなりありました。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるハズと、まずは安心しましたね。そこで早速、キャリアシートを作り直して公開しました」

 公開した途端、人材バンクから続々とスカウトメールが届いた。こんなにも私に興味をもってくれる会社がある──件数の多さに、まずは安心した。面談をしてみましょうというコンサルタントからのメールも多かった。その中には、求人案件を紹介しているものもあった。また、まずは転職希望者の希望や状況を面談で確かめた上で、求人案件を探し、マッチングするものがあれば、そこで応募しましょうという段取りを考えているものもあった。いずれにしても、直接企業に応募する前段階として、コンサルタントとの面談というステップが加わるというわけだ。

「コンサルタントからいただいたメールを見て、すぐにおうかがいします、と返信しました。とにかく、退職する気持ちははっきり決めていましたので、もう前に進むしかないと思っていましたから」

 気がつけば会いに行ったコンサルタントは10人以上になっていた。

「とにかくできるだけ多くのコンサルタントと会って、可能性を広げたいと思っていました。実際、人材バンクといっても、さまざまなところがありました。何十人もスタッフを抱えている会社からごく少数でやっていらっしゃる会社、ある特定の業種、業界に強い会社、とにかく案件が豊富な会社など。いろいろな特徴があるのだなあと感心してしまいました」

 人材バンクのコンサルタントのパーソナリティもさまざまだった。

「例えば、私の話を丁寧に聞いた上で求人案件を紹介してくださったコンサルタントもいます。また、それまで特に意識もせずに書いていた応募の書類も、細かくチェックしていただき、私としてはあれっ!? と思うような箇所を指摘していただいたりもしました。さすがに経験の豊富なプロは見ているポイントが違うんだなと思ったことも多いですね。しかし、年齢、職歴を確かめただけで、これという話もせずに案件を勧められる場合もありました。ですから、面談の時間もじっくり1時間ほど話をしたこともありますし、ほとんど顔を見合わせただけで、事務的に処理したところもありました」

 西田さんの場合、だれもが納得するという強い転職理由ではないともいえる。人によっては、こらえ性のないただのわがままな人だなどとも取られかねない。その辺のフォローも、人材バンクによってさまざまだった。

「人材バンクのコンサルタントに勧められるままに企業へ面接に行ったのですが、おそらく最初から履歴書だけでイメージされていたのでしょう。仕事へのこだわりを話したつもりが、『あなたは頑固な方なのですね』と言われたことがあります(※2)。せっかくこうして面接まで用意してくれたのだから、最初から決めてかからなくてもいいのではないかと、なんだか寂しいような、しらけた気分になりましたね」

年を越すと急に案件が増え
面接のチャンスも増える
 

 コンサルタントに勧められた中で、これはと思う求人案件には、ともかく応募することにした。しかし、厳しい状況が続いた。

「思ったほど書類選考や面接に通らなかったんです。年末にかかり、仕事も忙しくなって行く中で、なんだか、こんなことをしてもムダなのかなあと、肉体的にも気分的にも落ち込みぎみになりました。こんな私のために尽力してくれているコンサルタントの方にも申し訳ないような気にもなりました」

 しかし、年が明けると、求人件数が増え、面接を受けさせてくれる企業も出てきた(※3)。西田さんが希望する英語を使う案件や、収入の高い案件もあった。

「急な変化に戸惑いましたが、それぞれの企業の方々にもそれぞれの事情があるのでしょう。転職はタイミングだなと感じました。ともかくその中で強く引かれたのが、半導体を扱う外資系の商社。外資系なので、実力本位なのではないかと思ったのです」

 実力も意欲もないのに、ただその椅子に座っているだけで自分を追い抜いていくような、古い日本企業の社風は、そこにはないだろう。実力があれば上に行ける。もちろん、逆に、仕事ができなければすぐにも解雇される厳しい世界でもある。でも、それだからこその仕事だ(※4)。もともと生ぬるい職場に嫌気がさして転職を決意したのだ。そのくらいの環境に飛び込んでこそ自分を試してみる価値がある。

 面接は意外とすんなり進んだ。というより、面接官は転職の理由すら、特に問題にしていないようだった。要するに、その人にどんな能力・スキルがあり、どんな希望があるか。それと会社の希望・条件が合致するか。合理的でクールな対応だった。西田さんとしても、異論はなかった。そしてコンサルタントを通じて内定が告げられた。

 新しい職場が決まり、西田さんは、長いようで短かった転職活動をこう振り返る。

「ここまで来るのに、コンサルタントの方に随分助けられました。そもそも、私一人の力では、これほどの企業を探し出すことすらできなかったでしょう。今回の転職は、少し無謀に、ヘタな鉄砲の数をたくさん撃つことで探り当てたという反省があります。そんな転職活動の中で、私もあれこれ考えたり、混乱したりしましたが、企業の方も、また私たちと企業の間を取り持つ人材バンクの方たちも、ギリギリのところで切磋琢磨しているのだと実感することができたのは、今後にも活かせると思います」。

 同僚に転職先が決まったことを告げると、目を丸くしていた。

「とにもかくにも、途中、年末の繁忙期を挟んだにもかかわらず、2カ月あまりで理想的な転職先を見つけることができたのは、人材バンクの存在が大きかったと思います。ひとりで、働きながらではとても転職なんてできなかった。ですから、仕事のことで悩んでいる友人に転職を勧めるわけではありませんが、もし、彼女がその気になったのなら、私はまず、人材バンクに行きなさいというつもりです」

 
プロフィール
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※写真はイメージです

東京都在住の30歳。大学では英語を専攻。語学力は折り紙付き。大学卒業後、大手メーカーの関連会社に入社、経理事務などを担当。3年後、転職し、薬品メーカーの物流・営業のアシスタントとなる。その間、仕事に対する評価がなされない一方で、能力が高いとは言い難い男性社員が自分の上司になるなど、日本企業の古いシステムに失望し、30歳にして転職を決意。いくつかの人材バンクの協力を経て外資系の企業に入社を果たす。

西田さんの経歴はこちら

平均的な収入(※1)
厚生労働省の平成19年賃金構造基本統計調査によると、大卒女性25〜29歳の平均月収は23万4,200円。西田さんの場合は、それを若干上回っていたそうだ。ただし、同調査によると、同じ条件の大卒男性の場合は25万7,200円。また20〜24歳の収入を100とすると、男性は最大246(50〜54歳)なのに対し、女性は218(55〜59歳)となる。この男女格差は西田さんを始め、多くの働く女性にとって納得のいくものではないかもしれない。

 

『あなたは頑固な方なのですね』と言われたことがあります(※2)
語学を得意とする西田さんだが、そもそも語学の修得は、まめな反復練習なども多くこなさなければマスターはできない。そこで、語学が得意であること、そのための努力を学生の期間ずっと続けていたことにだけは自負があったので、それを面接で告げたのだったが、その返答が「頑固なのですね」というものだった。「おそらくその方は、その時点で私を採用しないと決められて、そうおっしゃったのでしょう。でも、私としては、予期しない正反対の切り返しに、一瞬、価値観が混乱するような不安な気分になってしまったのです」

 

面接を受けさせてくれる企業が出てくるのだった(※3)
結局西田さんの場合、およそ応募書類を提出した企業は35社。そのうち、面接まで進んだのが6社だった。

 

それだからこその仕事だ(※4)
試用期間が過ぎれば、年収も100万円ほどアップする。もちろん、その後も働きによって上乗せされることは決まっていた。

 
取材を終えて

 ご自身で「退職の理由は、会社に〈飽きてしまった〉から」というだけに、その転職はなかなか難しいものがあったのが西田さんのケースでした。話をうかがってみると、それなりの理由もあり、必ずしもいい加減な気持ちではないということはわかるのですが、それを1、2枚の書類、数十分の面接程度で相手企業の面接官に伝えるのはたやすいことではないでしょう。西田さんご自身も語るように、そこには人材バンクという存在が大きかったと思います。「星の数ほどの」企業がありますが、そこに接触するのは、ただの1社でも簡単なことではありません。その情報を広く持ち、企業との仲立ちをしてくれる人材バンクは、今や転職活動にはなくてはならない存在になっているのです。

人材バンクにもさまざまな会社があり、それぞれのセオリー、方法で転職先を紹介していますが、打ち解けることのできた人材バンクのコンサルタントとの面談は、いわば転職のイロハを知る社会勉強の場であり、プレ面接であり、たのもしき理解者との相談の場でもあるのだと、西田さんの話をうかがって、改めて実感しました。

 

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