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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第43回(前編) 西田由理子さん(仮名)30歳/事務
会社は星の数ほどある!こだわらず、流されずで 先だけを見て転職を決意

20代半ばで大手薬品メーカーに入社した西田由理子さん(仮名・30歳)は、入社3年目で転職を決意する。収入もまあまあ。残業や休日出勤もそう多くはない。そんな会社だった。「今どきいい会社じゃないの!」という友人の声を差し引いても転職するには、それなりの理由があった。確かに世の中は思うほど甘くないかもしれない。でも、きっと大丈夫。あくまで前向きに、30歳OLの転職活動はスタートを切った。

「えっ!? 会社辞めちゃうの!?」

 友人のコーヒーカップを持つ手が止まった。目がくりっと見開いて、そのままじっと固まってしまったので、西田由理子さんは、つい口を滑らせた話を、そのまま続けるしかなかった。

「辞めちゃうんじゃなくて、もう辞めちゃったの」
「だけど、そんなヒドい会社じゃないんでしょ? 年収だってフツーっていうか、私たちくらいの年齢だったらOKじゃない? 辞める理由がわかんないよ」

「そうね。……飽きちゃったって、ことかな」

 西田さんは、自分が辞めてしまった理由をわかりやすく伝えようと一瞬頭のなかを巡らせた。しかし、適切な言葉が出てこない。やっと出てきた言葉が「飽きた」だった。

「変よ。あんた、ホント変」友人はコーヒーカップを持ったままを、西田さんに喰い下がった。その友人も、しばしば今の職場がつらいとこぼしていた。しかし、なかなか踏ん切りがつかず、仕事を続けているのだった。

 働く女性も30歳を過ぎれば、職場での立場が微妙になる。会社としては留まってほしいのか、どこかに片付いてほしいのか、中途半端な空気が漂ってくるのだ。そんななか、世のOLたちは、今の職場、慣れた仕事を簡単に投げ捨てて、次の仕事に就くという選択は、かなりの冒険であることを、百も承知の上で生きている。それを「飽きた」の一言で退職なんて……。

「もう、次の仕事は決まっているの? っていうか、この年末のバタバタで、由理子だって大変だったんでしょ? 次も決まってないのに、勢いで辞めちゃったら、後で後悔することに……」

 友人のまくし立てる言葉を遮って、西田さんは話した。

「次はもう決まっているよ。年収だって今より高いのよ。大丈夫。今いる場所がだめだったら、次があるのよ。自分を犠牲にしてまで無理はしない。でも妥協もしない。この広い社会のなかには、自分が思いっきり働ける場所があるって信じて行動しちゃえばいいのよ」

 友人は、自信満々の西田さんのその言葉に圧倒されて、コーヒーを一口、ゴクリと飲みこんだ。

3年が過ぎても同じ評価でしかない理由
それは女性だから?
 

 大学で英語を学んだ西田さんは、最近増えているバイリンガルの一人だった(※1)。その技能を仕事に活かせるのならもちろん活かしたいとは考えていたものの、それだけにこだわるつもりもなかった。もっと広く自由なフィールドで仕事を選んでもいい。そう思って、最終的に決まった就職先は、大手メーカー企業グループの関連会社だった。そこで経理事務から始まり、部署を転々としながら、さまざまな業務をこなしていく。特に英語を使うポジションというわけではもちろんなく、ここで社会生活のイロハを学んでいった。

 そうして3年ほど勤めたところで、スキルアップや収入アップの意欲がわいてきた。英語力を活かせるのならそのほうがいい。社会人3年目といえば、ちょうど学生の薄皮がむけ、社会人として伸び盛りの時期だ。企業のニーズも高く、すぐに化学薬品メーカーの物流や営業のアシスタントの仕事が決まった。

「大手の会社でしたし、年収も悪くありませんでした。とりあえず仕事を覚えて、アシスタントからその上へと、ここで毎日毎日を頑張っていけば、次第に上に行けるという上り坂をイメージしていました。ただ、はっきり言って、仕事は仕事だという割り切りはありました。この仕事に自分の人生を懸けているとか、会社の業績を自分の力で大きく伸ばそうというほどの熱意があったわけではなく、与えられた仕事を完璧にこなすことだけを考えていました」

 経験が積んでいけば、次第にその職務は広がっていく。またその責任も重くなっていく。西田さんの仕事は、日を追うごとにきついものになっていった。

「仕事の量は、どんどん膨らんでいきました。私が重要な判断を下さなければならない場面が多くなったり、後輩の指導なども加わったりして、結果として仕事の質や量が増えていったのです。その一方で、そういう状況になればなるほど、周囲の人たちに頼られるようになります。確かにあの職場のなかで、その仕事をよくわかる人は限られており、私が立たされている立場もわかるのですが、そうこうしているうちに、どうも納得がいかないものに気づいたのです」。

 より重要な仕事をこなし、チームの中でも重要な立場になる。しかし、何年もそういう仕事をしていても、それ以上、上の立場に行くことはないのではないかということが見えてきたのだった。

「より重要な仕事をしても、今のままの立場であることは変わりません。一方で、後から入社した男性社員 (※2)が、いきなり他の部署から配属されて、現場の事情を何も把握しないまま上司になってしまうというのが現実です。女性の先輩社員の中には、もちろん私よりずっと長く働いていらっしゃる方もいるのですが、その人たちも、今の私と全く変わらない条件。これでは働く甲斐がないなあ、と感じだしたのです」

 都合よく仕事をさせるための要員。それが自分なのではないだろうか。他の男性社員が何年かたてば、昇進・昇格していく中、西田さんは、ポジションも社内的な評価も入社当初と変わらないまま。西田さんにひときわ能力や意欲が足りないという理由ではない。女性だから、というそれだけの理由でしかなかった。

会社は他にもいくつもある
敢えて我慢する必要があるだろうか
 

 そうした中で、西田さんは、転職を考えるようになったのだが、しかし、これは、今の日本の社会では、珍しいとはいえない状況だ。上司のパワハラに遭ったとか、理不尽な過剰労働を強いられている、というわけではない(※3)。我慢しようと思えば、できないというわけでもないのだ。それに、3年前に転職したときのような状況でもないかもしれない。今の年収が格別高いとはいえないが、転職した場合は、ここよりも高い収入は望めないかもしれない。

 だが、敢えて我慢する必要があるだろうか。企業は他にもたくさんある。そんな中で、その時の自分を一番輝かせてくれる服に着替えるように、仕事を変えてもいいのではないか。より理想的な環境に入れば、より自分が輝き、もっといい仕事ができるようになるのではないだろうか。

 いずれにしても、今が入社3年。そして、もう30歳になる。少なくとも、その方向に向けて、努力もせずにあきらめる気はない。

「私の転職理由といえば、そんなものでしたから、世の中のもっともっとご苦労しつつ仕事をされている女性たちの前で、立派な理由はちょっと思いつかないな、と思いまして、友人にはつい、『飽きたから』といってしまいました」。

 仕事がいよいよ忙しくなる年末を迎える時期ではあったが、西田さんはパソコンを開き、求人のサイトを開いてみることにした。以前の転職でも利用していた【人材バンクネット】に久しぶりにアクセスしてみたのだった。もちろん、20代半ばのあの頃のように、たくさんの求人案件が見つかるとは思っていなかった。しかし、その中からでも、とにかく見つけ出すしかない。企業の数なら星の数ほどある。その中には自分にぴったりと合う会社があるに違いない。

 30歳OLが、「飽きたから」という理由での転職。スキルといっても3年程度の経験。英語力は上級レベルとはいえ、大学を出てから、特に磨きをかけているというわけでもない。そうした状況下で、西田さんは新しい道を踏み出そうとしていた。

 
プロフィール
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※写真はイメージです

東京都在住の30歳。大学では英語を専攻。語学力は折り紙付き。大学卒業後、大手メーカーの関連会社に入社、経理事務などを担当。3年後、転職し、薬品メーカーの物流・営業のアシスタントとなる。その間、仕事に対する評価がなされない一方で、能力が高いとは言い難い男性社員が自分の上司になるなど、日本企業の古いシステムに失望し、30歳にして転職を決意。いくつかの人材バンクの協力を経て外資系の企業に入社を果たす。

西田さんの経歴はこちら
 

※1 バイリンガルの一人だった
西田さんは英語の教員免許も取得している。ただし、西田さんの卒業当時は、教員の正規採用の口は少なく、免許を取得していても、それを就職先とは考えない学生は多い。西田さんも教員志望というわけではなかった。

 

※2 後から入社した男性社員
入社年度に関わらず、優れた実績ある人の昇進は、西田さんも不満はない。しかし、年功序列の恩恵に乗っているだけ、管理力も判断力も疑わしい人がいきなり他部署から回ってきて、現場の状況も把握していないまま、やみくもに自分たちを指示・監督する立場になるというのは、どうしても納得がいかなかった。

 

※3 理不尽な過剰労働を強いられているわけではない
仕事の処理自体は、それなりの自信があり、定時で終わらせることを信条としていた。しかし、社内の男性社員のなかには、「やっぱり女性だからな」という声がどこそことなく聞こえてもいたという。

 
 
 

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