キャリア&転職研究室|転職する人びと|第41回(後編)コンサルタントの意外な提案で 新たな世界が開け…

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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第41回(後編) 坂本翔太さん(仮名)27歳/購買
なかなか出ない内定 迫り来る結婚と仕事の重圧 コンサルタントの意外な提案で 新たな世界が開けた

電機メーカーの海外営業部で忙しく働いてきた坂本翔太さん(仮名)。得意の英語を生かして、海外出張も頻繁にこなしてきたが、入社5年目あたりから会社の業績が悪化。退職者も出始め、坂本さん自身も今後のキャリアについて考えるようになっていた。そんなとき、結婚が決まり「家族を養っていくためにも転職しよう」と決めたのだった。

「自分が主体者となって仕事をしたい」
あこがれの金融業界にチャレンジ
 

 決意は固まったものの、転職どころか就職活動の経験さえない坂本さんは、どのように行動すればいいのか、皆目わからなかった。そこで、転職経験のある友人に相談を持ちかけると、【人材バンクネット】を紹介され(※1)早速登録。2007年8月のことだった。

【人材バンクネット】で求人情報を見ているうちに、あることに気がついた。そこには、あまり中途採用を行わないというイメージを持っていた銀行の求人が数多くあったのだ。しかも金融業界未経験者も受け入れているという。坂本さんは「これはチャンスかもしれない」と思った。昔から株や投資など、金融に興味があったからだ。それともう一つ、大きな理由があった。

「メーカーで最も核となる仕事をしているのはやはり技術者なんです。営業は機械や素材に関する専門知識を持っているわけではないから、仕事を進める上で技術者に聞かないとわからないことも多かった。そこに多少ジレンマを感じていた部分もあって。金融業界なら自分が主体者となって仕事ができると考えたんです」

 そこで「金融業界の法人営業」を第一希望として、転職活動をスタートすることにした。

【人材バンクネット】でキャリアシートを公開すると、たくさんのスカウトメールが届いた。その中から金融業界の求人を紹介してくれた人材バンク2、3社に登録。すぐに面接の日が決まった。

面接では十分な手ごたえを実感
なのに、どうして内定が出ない!?
 

 坂本さんが目指したのはメガバンク。どうせなら大手で世界を舞台にした仕事ができるようになりたいと思ったからだ。

 採用面接は電機メーカーに入社する際に受けたきりで、ほとんど初めてという状態だったため、模擬面接をしながらコンサルタントから受け答えのコツ(※2)を教えてもらった。本番ではこれまでの仕事で数々の困難や課題を克服してきたことをアピール。今後は金融の専門性を高め、将来は国際的な場で活躍したいという豊富を語った。面接官が熱心に自分の話を聞いてくれる姿を見て、坂本さんは十分な手ごたえを感じた。

「よし、これなら絶対に大丈夫だ」

 トントン拍子で最終面接まで進み、確信が持てるほどうまくいった面接もあった。だが、どういうわけか一向に「内定」の言葉を聞くことができなかった。

「人事担当としては合格らしいのですが、配属予定先の方が『もう少し若いほうがいい』と言っているみたいなんです」

「実力は評価するものの、やはり金融業界未経験では不安があるようです」

 コンサルタントから伝え聞く不採用の理由に坂本さんは首をかしげた。年齢はもちろん、業界未経験であることも応募条件を満たしている。面接も驚くほどスムーズに運んだ。自分の何がいけないのか? いくつもの銀行で不採用となった理由(※3)がさっぱりわからなかった。

 どうしても金融業界へ、という気持ちが強まっていた坂本さんは「メガバンクがだめなら地方銀行でもいい」と思い始めていた。そこで、関西のある銀行への応募を考えたのだが、そのときふと我に帰った。

「地方銀行だと、基本的には活躍の場がその地域に限られてしまう。『国際的な仕事をしたい』という自分の希望とはかけ離れてしまうんじゃないか、と。大切なのは仕事の中身。業界にこだわりすぎるとあとで後悔することになる、と気づいたんです」

 坂本さんは決断した。銀行をスパッとあきらめ、今までの経験を生かす道、すなわちメーカーの営業職に方向転換することを。8月にスタートした転職活動は11月、振り出しに戻った。

無茶な応募をやめて応募条件を絞ったとき
思いがけない求人に出会う
 

 坂本さんにとっては、それからが本当の戦いだった。翌年の4月に結婚が決まり、披露宴の準備、新居探しなど、プライベートでやるべきことが山ほどあった。仕事も忙しく、相変わらず海外出張に飛びまわる日々。その上、転職先も決めなければならない。これほどプレッシャーを感じたことはなかった。

 なるべく早く転職先を決めたいと思った坂本さんは、無理をして同時期に7、8社に応募。1週間に3社もの面接に臨んだこともあった。当然ながら面接の準備が追いつかず、面接官から「当社のこと、あまり調べていないでしょう?」と指摘される始末。当然、結果もともなわなかった。

「もう転職活動なんて辞めてしまおうか……」。

 仕事に加え、結婚準備もピークとなり、あまりの忙しさに転職への気持ちがしぼみそうになった。

 弱気になった坂本さんを救ってくれたのは、転職経験のある友人のアドバイス。「焦ったら、実力の半分も出せないよ」という言葉に、冷静さを取り戻した。これまでの転職活動を見直し、「電機関係のメーカーで、高い技術力、商品力があること」「海外と接点があること」を条件に応募先を絞り込むことにした。

 志望業界をメーカーに絞ったころ、スカウトメールを通じて出会ったのが株式会社日本マンパワーの高田加奈コンサルタントだった。日本マンパワーのオフィスが勤務先から近かったこともあり、坂本さんはたびたび転職の相談に訪れるようになった。

 あるとき、高田コンサルタントから意外な求人を紹介された。それは、大手精密機器メーカーの海外調達部門の仕事。職種こそ営業ではなかったものの、坂本さんの心は動いた。そこは非常に高い技術力を持っている有名な企業だったからだ。

「調達の仕事内容はわかっていました。製品づくりに使う部品などを納期通りにそろえるため、調達部門の担当者とやりとりするのも営業の役目でしたから。希望していた営業職ではないけれど、高い技術力を持つ企業で役に立ちたいと思い、応募を決めました」

 書類選考を通過し、面接へ。人事担当者と海外調達部門の課長が面接官だった。約5年間の仕事の中で直面したさまざまな問題をすべて乗り越えてきたことをアピールし、世界的な技術を持つ企業でぜひその経験を生かし、力になりたいと志望動機を語った。他社の応募状況を質問されたときは、少し迷ったがすべて正直に話した。

 2週間後、人事担当者と海外調達部門の本部長の面接の後、別室に呼ばれた。

「ぜひ、一緒に仕事をしたいと思っています。いつ返事をいただけますか」

 待ちに待った内定がようやく出た、と思った。だが、坂本さんは即決することができなかった。

「返事は来週まで待ってください」そう言って、会社を後にした。

 坂本さんが返事を保留したのは、大手素材メーカーの子会社である建設機械販売会社から営業職の内定をもらっていたからだ。その会社も高い技術力があり、やりがいのある仕事ができそうだと思っていた。大いに悩んだ坂本さんは高田コンサルタントや友人に相談した結果(※4)、精密機械メーカーに入社することを決めた。

 最終的な決め手となったのは残業への考え方だった。坂本さんは面接で「残業はどのくらいありますか」と質問したときの両社の答えを思い出した。建設機械販売会社は「残業に対する考え方は社員それぞれの解釈があるので、個人に任せています」と答え、暗に残業が多いことを示していた。一方、精密機械メーカーは「当社はオンとオフの切り替えをはっきりさせるため、残業をよしとしない社風。多い人でも月に20〜30時間くらいです」と明確に返事をしてくれた。

「勤務時間外でも顧客に対応しなければならない場合がある、なんてことはわかってるんです。私は知りたかったのは、残業の多い少ないではなく、社員たちの仕事の取り組み姿勢とか職場の環境です。メリハリをつけて働いている会社は効率よく仕事ができると思いました。長年お世話になることを考えると、精密機械メーカーの方がいいと判断したんです」

世界で勝負する企業の仕事は驚きの連続
将来はマネジメントや海外勤務を経験したい
 

 2008年3月に前の会社を退職。4月には結婚式を終え、5月に転職先へ、と内定後も忙しい日々が続いたが、入社したときはすべてを無事にやり遂げた達成感と新しい仕事に取り組む意欲でいっぱいだった。

「いざ入社してみると、驚くことばかり。精密機器の部品を世界の部品メーカーから調達するのが私の仕事なんですが、前職のときとは比べものにならないくらい部品の種類が多く、強度や精度などの条件も考えられないくらい厳しい。やっぱり、世界で勝負する企業は違うなと感心しつつ、早く仕事を覚えなければと必死です」

 坂本さんは「まずは一人前になることが大前提」としながらも、将来的はマネジメントも経験したい、海外勤務も経験したいと早くも希望が膨らんでいる。

 改めて、どのような経験、スキルが評価されて採用に至ったと思うかを尋ねると、坂本さんはこう答えた。

「自分ではよくわかりませんが、おそらく海外の工場や取引先との間での問題解決の経験が、新たな職場で生かせそうだと判断されたのではないでしょうか。それに加えて英語でのビジネス経験も評価されたのだと思います」

 そして、今回の転職活動を振り返っての感想をこう述べている。

「銀行の採用に落ち続けたときはどうなることかと思いましたが、転職活動はあきらめずにやり続けることが大事だとつくづく思いました。動かないと何も始まりませんから。困ったときはコンサルタントだけではなく、経験豊富な友人・知人に相談してみるのもいいと思います。それから、転職活動と結婚準備を並行して行うのはお勧めできせん。絶対にやめたほうがいいですよ(笑)」

 前職より収入も増え(※5)、安心して家庭を持つ基盤ができたとホッと胸をなでおろす坂本さん。充実した表情で新妻の待つ新居へと帰って行った。

コンサルタントより
株式会社日本マンパワー
 高田加奈氏
コンサルタント
   営業で培った交渉力や英語力の他
人柄、意欲などが採用のポイントに
 

 坂本さんのキャリアシートには、就職してから5年間しっかりと実務経験を積んだことと、今後は商品の流通だけではなくより深い仕事にかかわりたいという希望が書かれてありました。その向上心あふれる人柄に興味を持ち、スカウトメールをお送りしました。

 実際にお会いしてみると、人当たりもよく、好奇心旺盛で人とのつながりを大切にされる方という印象を受けました。

 前職と同じ営業職の求人も紹介していたのですが、自社の利益最大化を目指してさまざまな取引先との関係を調整していく調達業務にも適性があるのではないかと考え、今回入社された精密機器メーカーをご紹介しました。ただ、ここは門戸の狭い人気企業でしたし、調達の実務経験がないという点で、100%の自信があったわけではなく、坂本さんの採用が決まったときは本当にうれしく思いました。

 先方が坂本さんを採用された理由は、人柄や意欲を重視した結果だと聞いています。20代であれば、募集職種とぴったり一致する経験がなかったとしてもポテンシャルの部分が重視される場合もあります。調達業務は高度な交渉力が必要な仕事ですが、坂本さんはこれまでの営業経験でそうした力を磨いてきており、さらに企業側が必要とするビジネス英会話の実力も兼ね備えていたことが採用のポイントになったようです。

 坂本さんはほかに内定の出た会社とどちらに入社するか迷っていらっしゃったので、こちらとしては両方の会社に関して選考の状況から入社後の待遇まで、過不足なく情報提供を行い、後悔のない選択ができるようバックアップしました。

 人材バンクを利用されるときは、お薦めする企業の良い面だけではなく、できるだけ多くの情報を提供してもらい、気になる点があったらきちんと確認するといいですね。そのほうが安心して冷静な判断ができると思います。

 
プロフィール
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※写真はイメージです

大阪府在住の28歳。大学卒業後、電機メーカーに就職し、海外営業部に配属。液晶テレビやAV機器のOEM(相手先ブランドで販売される製品)担当となり、頻繁に海外出張に飛ぶ多忙な日々を送った。2007年、担当する顧客が変わり仕事が楽になったころ、会社の業績が傾き始め、「この先ずっとこの会社でやっていけるのか?」との不安を感じ、転職を考えるようになった。

坂本さんの経歴はこちら

【人材バンクネット】を紹介され(※1)
その友人も【人材バンクネット】を通じて転職を成功させており「多忙な仕事をこなしながら転職活動する人には便利」だと聞いて登録を決めた。

 

受け答えのコツ(※2)
「最初に、忙しい中、時間を取ってくれたことへのお礼を述べる。話すときはハキハキと元気よく、相手の顔を見ながら笑顔で。これまでの仕事内容を説明するときはアピールになるように話を持っていく。ネガティブなこともプラスに変えた言い方で。などなど、基本的なことをいろいろと教わりました。最初はぎこちなかったと思いますが、その後面接の回数を重ねていくうちに自分でもうまくなったな、と思うようになりました」

 

いくつもの銀行で不採用となった理由(※3)
のちにコンサルタントから「米国のサブプライムローン問題の影響で日本の大手銀行も巨額の損失を出したことから、中途採用、特に業界未経験者の採用を縮小せざるをえなかったようだ」との説明を受けた。

 

相談した結果(※4)
「ある大手企業の子会社で働く友人から『子会社では親会社からの出向者がやってきて上役に就くことが多いから、社内での目標を見つけにくい。長年働いていると仕事のモチベーションが下がるよ』と言われました。仕事をするからには上を目指したいと思っていたので、決断の決め手になりましたね」

 

前職より月収も増え(※5)
内定後に提示された年収は前職よりも50〜100万円は増える予定だという。

取材を終えて

 坂本さんの大学時代の留学経験や電機メーカーでの仕事ぶりを聞いていると、いったん「やる」と決めたら、一生懸命に突き進むことができる方なんだな、と感じました。そうやってまじめに取り組み、自分を高める努力をしてきたからこそ、今回の納得できる転職につながったのだとつくづく思いました。

 最初に志望した銀行への転職が叶わなかった不運もあり、結婚準備と転職活動が重なってしまったという苦労もあったわけですが、取材中全く愚痴めいた言葉を口にしなかったのも印象的でした。

 人にはいろいろな立場や事情があって、いざ転職しようと思っても、転職活動だけに専念できる人は少ないような気がします。わずらわしいことや自分の力ではどうにもならないことを抱えながらの転職活動だからこそ、信頼できるコンサルタントや友人・知人のサポートが必要なのだと思います。

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