「私が開発した商品は、たしかに売れてはいましたが、会社にものすごく大きな利益をもたらすほどじゃなかった。結局、この仕事は数字でしか評価されない。だから、あまり強気になれなかったところがあったのは事実です」
決まったことは仕方がないとしても、腹立たしいのはその後の会社の対応だった。
ある取引先とは、ギフト商品としての取り扱い契約が済んでおり、カタログの印刷も終わっている。契約がある以上、こちらの都合で簡単にはやめることはできない。重い気持ちで先方に事情を話すと、血相を変えて「今からそちらに行きます!」と電話を切られた。その様子を伝えたとき、社長はのんきにもこう言い放った。
「忙しいから、あさってにしてもらって」
「社長!何を言ってるんですか!? 遠方のお客さまが今から飛んでくると言っているんです! それほど大きなことなんですよ!ウチだけの問題じゃないって、わかってるんですか!?」
ついに、高木さんはキレた。
「自分たちの都合だけで物事を決定し、取引先にはそれを一方的に通達するだけ。取引先のことを考えないやり方には、本当に腹が立ちました。お客さまあっての商売だという意識が足りない。ものすごく、不信感がわきました」
転職の二文字が頭をよぎったのは、このときだ。
高木さんを一層悲しませたのは、インターネットショップの閉鎖を告知したときの顧客の反応だ。
「やめないで!」
「これからはどこで買ったらいいの?」
どの声も閉店を惜しむ声ばかり。涙があふれて仕方がなかった。
結局、インターネットショップは閉店するが、今後は個別に注文を受け付けることで落ち着いた。取引先に対しても、契約済みのものに関しては、期間が終了するまで、商品を提供することになった。それが、顧客に対する高木さんの精一杯の誠意だった。
そんな状況の中、自分自身の今後のことも気になり始めていた。
製造ラインが縮小すれば、新しい商品開発はほとんどできなくなるだろう。社長は残っているラーメン店に関する仕事をしてほしいと言っていたが、激務が続いたため、高木さんの体は悲鳴を上げていた。ちょっと休んで、また新しい仕事を探そう。心は決まった。
「私の企画力を生かせる会社がほかにあると思います」(※5)
引き止める社長に高木さんはそう告げ、2005年12月、会社を辞めた。
「後編」に続く
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