|
オリジナルのものさしに徹底的にこだわった人がいた。
「私の取り柄は、おしゃべりなこと、明るいこと、英語が話せること。それだけ」と言い切る南かおるさん(仮名・32歳)は、今回の転職で、実は初めて「正社員」になった。
世の中のものさしで測れば、「32歳で正社員経験がないのはキツイねぇ……」と言われてしまう経歴の持ち主である。でも、そんなこと気にしない。
自分のこれまで歩んできた道に、徹底してこだわった。そこに迷いは、ない。
外国語大学を卒業し、「一度は海外生活したい」と、オーストラリアのボランティアプログラムに10カ月参加。帰国した後、アルバイトをしながら医療事務の勉強をし、職を得た。「でも、やっぱり英語を使った仕事がしたいなあ」と、英会話スクールの講師になって5年が過ぎた。
英会話講師の仕事は時給制。生徒が減ったら働く時間も同じく減る。年末年始、GWなど長期休暇があると、その月の収入は激減する。一人暮らしをするには少々手が届かないくらいの年収だったから、「自分を養っていける程度は稼げるようにならないと」と30代に入り考え始めた。
友人から、「英語を生かせる仕事は、東京の方があるんじゃないかな」との話を耳にした。「確かにそうかも」と、資金を1年かけて貯め上京、転職活動に乗り出した。
南さんの型にはまらないオリジナルな経歴を、サラリーマン標準のものさしで眺めると、こんなふうになる。
「英語はね、コミュニケーションツールだからねぇ。話せるだけじゃあ、通用しないんだよ」
「30歳過ぎて、正社員の経験がないのは……。どうして新卒で就職しなかったの?」
「英会話スクールで、正社員になるのは考えなかったの?」
安定がほしいとか、年収アップしたいとか、長く勤められる会社に入りたいとか、そういう視点で仕事を探すなら、「英語力を生かして、まずはオフィスワークの経験を積む。例えば外資系企業で」ということになっただろう。32歳という年齢を考えると、いわゆる「まっとうなサラリーマン道」に入り込むには、そろそろ最後のチャンスの時期かもしれない。
しかし、彼女が手に入れたかったのは、正社員という立場やサラリーマンとして職務経歴書に書ける経験、ましてや転職市場の中で自分の価値を高めることでは、なかった。
「英語力を、もっともっと伸ばしたい」という一途な思いだけが、あった。
|