キャリア&転職研究室|キャリレボ|「流されて、転職」するよりは……自分オリジナルなものさしにこだわる…

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キャリレボ

第23回 「流されて、転職」するよりは……自分オリジナルなものさしにこだわる選択

「世の中って、こんなに広かったんだ。」

転職活動を始めて、あんな仕事もこんな仕事もあったのか~と、さまざまな情報を取り入れることで、突然、視野がぐぐーんと広がったかのような感覚を覚えるときがある。

私には、あれもできる可能性、これもできる可能性、あんなこともできる可能性があるかもしれない……。

もしくは、こんなふうに思うこともある。

世の中の流れに乗らないと、生き残れないんじゃないか。あれをやった方がいいんじゃないか、いやいや、こっちの方が将来性はありそうだ……。

身の回りの友人知人やインターネット、雑誌、新聞、テレビ……で目にする凄い人たちが手に入れているものを、私も手に入れなきゃと、そんな思いも入り乱れ、もうこうなると「あれもよさそう、これもよさそう……」と、際限のない欲望の渦に巻き込まれてしまったりする。

しかし、自分の体はひとつしかない。時間だって、有限だ。

ふと、我に返る。あれ? 私って、何がしたいんだっけ?

ステップアップとか、キャリアアップとか、年収アップとか、将来性とか……世の中基準のものさしは、案外当てにならない代物だ。なにしろものさし自体がどんどん、変わる。流行に合わせて、ものさしを変えなきゃいけない……なんて、ハメに陥ることもある。合わせることは、けっこう、疲れる。

自分の道を自分で選ぶためには、オリジナルのものさし=自分の内側から出てくる譲れないことをしっかり言葉にすることが、実は一番大切なことなのかもしれない。

キャリアビジョン!? そんなのないかも
英語力をもっともっと伸ばしたい。それだけ

オリジナルのものさしに徹底的にこだわった人がいた。

「私の取り柄は、おしゃべりなこと、明るいこと、英語が話せること。それだけ」と言い切る南かおるさん(仮名・32歳)は、今回の転職で、実は初めて「正社員」になった。
世の中のものさしで測れば、「32歳で正社員経験がないのはキツイねぇ……」と言われてしまう経歴の持ち主である。でも、そんなこと気にしない。

自分のこれまで歩んできた道に、徹底してこだわった。そこに迷いは、ない。

外国語大学を卒業し、「一度は海外生活したい」と、オーストラリアのボランティアプログラムに10カ月参加。帰国した後、アルバイトをしながら医療事務の勉強をし、職を得た。「でも、やっぱり英語を使った仕事がしたいなあ」と、英会話スクールの講師になって5年が過ぎた。

英会話講師の仕事は時給制。生徒が減ったら働く時間も同じく減る。年末年始、GWなど長期休暇があると、その月の収入は激減する。一人暮らしをするには少々手が届かないくらいの年収だったから、「自分を養っていける程度は稼げるようにならないと」と30代に入り考え始めた。

友人から、「英語を生かせる仕事は、東京の方があるんじゃないかな」との話を耳にした。「確かにそうかも」と、資金を1年かけて貯め上京、転職活動に乗り出した。

南さんの型にはまらないオリジナルな経歴を、サラリーマン標準のものさしで眺めると、こんなふうになる。

「英語はね、コミュニケーションツールだからねぇ。話せるだけじゃあ、通用しないんだよ」
「30歳過ぎて、正社員の経験がないのは……。どうして新卒で就職しなかったの?」
「英会話スクールで、正社員になるのは考えなかったの?」

安定がほしいとか、年収アップしたいとか、長く勤められる会社に入りたいとか、そういう視点で仕事を探すなら、「英語力を生かして、まずはオフィスワークの経験を積む。例えば外資系企業で」ということになっただろう。32歳という年齢を考えると、いわゆる「まっとうなサラリーマン道」に入り込むには、そろそろ最後のチャンスの時期かもしれない。

しかし、彼女が手に入れたかったのは、正社員という立場やサラリーマンとして職務経歴書に書ける経験、ましてや転職市場の中で自分の価値を高めることでは、なかった。

「英語力を、もっともっと伸ばしたい」という一途な思いだけが、あった。

私から英語を取ったら、何も残らないですから

なぜそこまで、英語にこだわるのですか? と何度も訊ねたそのたびに、こう言った。
「私から英語を取ったら、何も残らないですから」

英語が好きだから、オーストラリアで生活してみた。やっと話せるようになったから、「どうせなら英語を使って仕事がしたい」と、軽い気持ちで英会話講師になった。なってみて、「私は、おしゃべりするのが好きなんだ」とわかった。だから5年もの間、続けられたんだと思う。もちろん努力もした。講師になったからには、しっかりと教えられるだけの力を身に付けなくてはならない。語彙、表現を増やすために、毎日の努力をコツコツ積み上げてきた。

教えている生徒たちから「私も南先生みたいに話せるようになりたい」と言われるたびに、「私の英語力なんて、まだまだ。もっと磨かなきゃ」と思った。生徒たちの励み、お手本であり続けるために。

英会話講師を辞めるとき、「通訳になる」といって出てきた。「おしゃべりが好き、明るい、英語が話せる」の3つの取り柄が役立つ仕事だと思ったからだ。宣言して上京してきたからには、こだわり続けたかった。少なくとも、英語力を錆びつかせてはならない。それがお手本たる私の使命――。

「英語力を伸ばせること」が、一番大事
オリジナルなものさしがあるから、迷わない

しかし、すぐに通訳の仕事に就くのは難しそうだった。
「やっぱり、甘くはないな」と思ったが、諦めちゃ、ダメだ。
自分が歩みを止めてしまっているというのに、誰かが欲しいものを与えてくれるなんてこと、ありえない。欲しいものがあるなら、動かなきゃ。自分の状況を変えられるのは、自分しか、いない。

働きながら、通訳になるためのトレーニングをしたうえで、次のステップとして狙おうと決めた。

まずは、働き口を探さねば。
正社員経験がない南さんの転職活動は、決して平坦なものではなかったが、人材バンクから紹介された求人に20社応募したなかで、「ここなら」と思った会社が見つかった。通訳学校だ。仕事内容は、企業への研修プランの営業、企画、教務。最大の魅力は、その学校の通訳講座を割引料金で受講できること。今後、通訳として仕事をしていくための人脈もできそうだし……。

もう一つ、別の会社の翻訳事務の仕事でも、順調に面接が進んでいた。

心は、通訳学校に固まっていた。2社から同時にほぼ内定というとき、重大なことを知る。少なくとも、南さんにとっては大問題だったのだ。

それは……割引料金で受講できる通訳講座は、レベルが高く、ついていけずに途中で辞めてしまう人が少なくないという情報だった。「仕事と両立しながら勉強するのは、難しいかもしれない!」

この人、TOIECスコア935、英検1級の持ち主である。それだけの土台があれば、大丈夫なのでは?

「通訳学校に転職しても、仕事をするなかで英語力を高めていく機会はない。企画職ですから。英語は、使わないと錆びるんです。仕事で英語を使えない分、通訳講座に通って勉強しようと思っていたけれど、忙しさで時間が十分には取れないかもしれないと考えると、ここでは英語力を伸ばせないと思ったんです」

すごいこだわりよう。徹底している。

専門的な用語が頻出する翻訳事務なら、その業界独特の単語、言い回し、知識を覚えることができる。仕事でも蓄積しながら、さらにスクールに通ってトレーニングすれば、吸収量は2倍になる。

そう考えて、翻訳事務の仕事を選んだ。

オリジナルの作り方、育て方

オリジナルの芽は、自分の中にきっとある。
自分だからできること、得意なこと、面白い!と思えることって、何だっけ? とシンプルに、問い直してみればいい。ひょっとすると、「世の中のものさしに染まって、大事なものを失くすとこだった」と気付くことも、あるかもしれない。

人生は一度きりだし、体は一つしかないし、1日は24時間しかない。
だからこそ、選ぶのだ。「これ、やってみよう」と決めるのだ。
決めたからには、やるしかない。「ここまでやったぞ」と自信を持って言えるくらいにやり抜いたその時、オリジナルなものさしは、ようやくできあがる。
一夜にして作られるものではないけれど、とりわけ困難なわけでもない。

南さんは最後にこう言った。
「やってみよう、でここまで来た。ちょっとずつ登ってきた道だけれど、自分が止まってしまったら、そこでおしまい。今できることを伸ばしていくのが、成功の一番の近道なんじゃないのかな」
シンプルなのである。

取材・文/中村陽子(編集部)
デザイン/東 聖子(編集部)

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