出世よりも大切な、ベストを尽くし続ける人生
きっと会社が潰れることはないだろう。同期の中でも人事の評価は高い方だったと思う。この10年で身に付けてきた知識、スキル、経験に自信もある。社内人脈も豊富だ。しかし——。会社の5年後、10年後を予測してみたとき、大きな変革が、個人が築いてきたキャリアなどいとも簡単に吹き飛ばしてしまう気がした。3年後にはグループ内の都市銀行、信託銀行、証券会社が個人向け銀行として一つに合併されることになるだろう。そのときこの会社で、自分が望むようなキャリアを積んでいけるのだろうか。
グループ内の力関係では、主導権は都市銀行が握っている。一般的に考えれば、信託銀行より都市銀行の方が序列が上。合併後、自分たちの処遇に響くことになるかもしれない。しかし、「それが気になったわけではなかった」と藤原さんは否定する。
合併することで、社風が変わってしまうことが嫌だった。グループ内の都市銀行には、年功や学歴などで序列が決まるカルチャーがあるような気がした。仮に合併後も順調に昇進できたとしても、それが自分の出した成果以外のもので決まっていく序列だとしたら……自分の望むキャリアではない。
一円でも報酬をもらうからには、プロにならなくては。仕事で成果を出せるようにならなくては。自分がその時点でできる最良のアウトプットを出さなくてはと思いながら、これまで個人向け商品の開発などを手掛けてきた。「あなたは何ができるんですか?」と問われたとき、「これができます。こんな成果が上げられます」といえるようにベストを尽くす——その積み重ねが、自分にとってのキャリアなのだ。
内定が出てから、悩んだことがあった。転職をすることで、「この会社を、自分が支えるんだ」との思いや、10年かけて築いてきた人と人とのつながりを、ある意味、会社という中での家族的な関係を捨ててしまうことになるのではないかとの思いもあった。
転職することにも、もちろんリスクはある。それでも自分が築きたいキャリアのために、残るリスクではなく出るリスクを選んだ。
後悔は、ない。
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