キャリア&転職研究室|キャリレボ|第12回このままでは自分がダメになると思ったとき

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キャリレボ
自分のキャリアで迷ったり、煮詰まったり、悩んだりと壁にぶつかっているなと感じたときは、もしかしたら自分の判断基準や価値観を、一度、疑ってみることが必要かもしれない。壁を乗り越えるとは、それまでの自分を乗り越えるということだから。日々の小さな自分レボリューションで明日をつくろう

このままでは自分がダメになると思ったとき
 「安定の中に身を置いていたら、自分がダメになる」
ふつふつと湧き上がってきた焦燥感に突き動かされて、転職を決意した上尾道之さん(仮名・31歳)は、ちょっと前までベンチャー企業の管理本部長だった。「山あり谷ありの経験でした」と、この4年半を振り返る。

 若手経営者が率いるベンチャー企業が次々に上場し世間の注目を集めていた2000年、「えいっ」と飛び込んだその会社は、同年代の20代社長が率いるIT通信系ベンチャーだった。税理士として会計事務所に勤務していた上尾さんは「事業会社で株式公開の経験を積んでみたい」と、いち経理マンとして入社したのだが、株式公開を経験することはなかった。代わりに、まさかこれほど激動の日々を送るとは——。

 「ワンマンなんて言葉では収まらないほど独走するタイプの社長でした。アイデアマンで、次々にいろんなことをぶち上げるんですね。だからこそ会社も拡大成長していったんですが、『それはさすがに、まずいです。問題が生じるかもしれません』と提言しても、ちっとも言うことをきいてくれなかった。気付くといち経理マンだった私の仕事は、無茶する人が突っ走っていくときに生じるリスクを低減させるもろもろのことに変わっていました」

 社長は独走し、果敢に市場に攻めていく。しかし、事業はなかなか安定しない。もう、ついていけないと多くの人が辞めていった。上尾さんも「こんな場所にいるのはリスクが高すぎる」と、何度か転職活動をした。内定ももらった。でも、蹴ってしまった。

 「辞める理由なら、いくらでもあった。だけどやっぱり、魅力があったんです、社長に。一緒に夢を見ることができたんだと思います」

 そんな社長の下では、「私の仕事は経理ですから」なんていってはいられない。経理、財務、人事、事業計画の立案やシミュレーション、法務……といろんな仕事が降ってくる。経験のあるなしにかかわらず必死でやるしかなかったが、やってもやっても終わらない日々。気付くと、管理本部全体を統括できるだけの経験を積んでいた。

まだ31歳。必死になれる環境に身を置くことで、成長し続けたい

 入社して4年、会社はある上場企業の子会社となり、社長が交代。資金繰りも収益も安定したが、会社が拡大成長していくのに必要な攻め社風は消えてしまった。

 「新体制になってからもコアメンバーとして、管理本部を率いる役割を担っていました。落ち着いた分、突発的な仕事はなくなり、精神的なストレスも減った。でも、社長が交代して半年の間、自分の中で何かが失われていくような、それまで必死に走ってきた4年間で得たものがたった半年でチャラになってしまうような感覚があったんです」。

 このままでは、自分の甘さを許す自分になってしまう。まずい——。

 31歳で管理本部全体を統括できるようになったのは、そうならざるをえない環境の中で自分を必死に伸ばしてきたからだった。しかし、必死にならなくて済むようになってまで、しんどい努力を続けられるほど、人は強くない。だから、再び必死になれる環境を求めた。

 「次も事業会社で働こうと思っていました。でも、惹かれる何かを感じる社長に出会えなかった。そのため外資系コンサルティング会社に転職を決めました。年収も下がったし、31歳でまた下っ端からのスタートです。でも、すごいと思える人たちに早く追いつき追い越せと思える環境でなら、必死になって自分を磨いていけそうだと思って決めました」。

 5年後のビジョンは何ですか?
「ステップアップしていくために、このスキルを身に付け、この経験を積まなくちゃというプランは、ないんです。自分を鍛えられる環境に飛び込んで、必死に背伸びしながら目の前に起こることに全力でトライしていけば、力は付くんだと学びましたから。自分という器を広げられる限り、広げ続けたい。今は、それだけです」。


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文/中村 陽子(編集部)
デザイン/東 聖子(編集部)

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