あの本を書いたあの人が教えるキャリアの極意
なりたてマネジャー入門
講師:木村政雄氏
自分で判断して失敗したら、責任どう取るの?上司なんてポジション、やっぱり無理!?
上司になることは、成長のために必要な試練だとは思う。でも、自分の下した判断が間違っていたらと思うと足がすくむ。全責任を負っての決断なんて、やっぱり自信ない。ジャッジされる側からする側へ。たった一枚の辞令ですんなり移行できるのか?
上司の決め手は「判断力」と「決断力」
どうやったらそれが手に入るのか?
―― マネジャーになることが、だんだん楽しみになってきました。だけど、やっぱり最後の最後で躊躇してしまうのが、部署や会社、部下の運命をある意味で決めるような分析力や判断力が自分にはないという点。昨日までは上司の判断に従っていたのに、明日からいきなりジャッジする側に回れといわれても……。そういう訓練をした後にマネジメント職に昇格させるのがスジじゃないのかと叫びたくなります。私が失敗して売り上げががた落ちになったら、会社だって困るはずなのに。
そんなに気をもむ必要はないと思いますよ。だいたい30代のマネジャーに、会社を揺るがすような一大判断を任せるわけがないでしょう。オサムさんの上には、まだ、部長や取締役がいますよね。
私が東京事務所を設立したときは、自分がほぼ個人事業主のような存在で、判断をゆだねるられる人なんて私の上にはいなかったんです。だけど逆に「自分がルールを作ればいい、自分がやりたいようにやればいい」とやりがいを感じましたね。
冒険しなきゃ成長しないのはわかるけど
どう責任取ればいいのか誰か教えて!
―― 僕のように中間管理職だと、さらに上の上司のご意見やご機嫌も気にしなくてはならないし、やっぱり思うようには動けないですよ。100%自分のやりたいようにはやれず、しくじったときの責任は自分がとるっていうのも怖いし。
失敗するのを恐れていたら、何もできません。一番安全なのは、何も冒険しないこと。だけど成長も、一切できない。同じ失敗でも意味のある失敗と意味のない失敗があって、意味のある失敗なら後で必ず生きてくるはずです。
―― と、みんないうんですけど、いざ失敗したらどうなるかっていうことが見えていないとやっぱり身動きは鈍ります。
失敗したら謝って挽回すればいいんです。私が、ある関西中心に活躍していたタレントさんのマネジャー時代に、東京のテレビ局から出演依頼が来たことがあったんです。タレントさんの成長に役立ついい仕事というのは、スケジュールが空いてるときには来ないもので、そのときも関西のレギュラー番組とバッティングしてしまったそこで関西のテレビ局のプロデューサーに何度も頼みに行ったのですが、「絶対レギュラーは休ませない」の一点張り。1カ月ぐらいお願いに通ったけどとうとう最後までOKが出なかったから、私は関西の撮影所から東京へ、そのタレントさんを逃がしちゃったんです。
―― ええっ!? ダブルブッキングして逃げちゃったんですか!!!
そう(笑)。関西のプロデューサーがよそ見している間に車に載せて空港へ連れてっちゃった。プロデューサーはそりゃカンカンに怒っていたけど、1カ月前からずっとこちらもお願いしていましたから。それに、「彼らの代わりにこのタレントを用意しておきましたんで」と代替案も準備していたので、番組自体がオジャンになる心配もありませんでした。これが私のいう、前向きな意味のある失敗例。
―― どうして!? そのタレントさん、レギュラー下ろされたりしなかったんですか? ていうか、そのプロデューサーの仕事を、後からできなくなるじゃないですか。仕事をひとつ棒に振ってしまうかもしれないのに。
一番穏やかなのは、東京の仕事を断ること。でも、スケジュールが一杯だと断ってしまっていたら、3年後、4年後のそのタレントさんの関東進出はなかったでしょう。関西ローカルの人気者で終わっていたかもしれません。危険を冒してでもあの時やるべき仕事だったと思っています。その時点では番組に穴を開けて迷惑をかけることになる。だから必死で謝った。でも、東京の仕事をすることでそのタレントさんに付加価値がついたら、絶対のちのち違う形で還元できるはずだと思ったんです。そのままだと3年後にも100人しかお客様を呼べないけど、仕事の枠や認知度を広げることで、3年後、1000人呼べるかもしれない。そうしたら必ずお礼とお詫びができますから。
自分の糧になる失敗ができるのは
30代の特権だ。失敗で筋力をつけろ
―― その判断、結果的にOKだったから笑って話せるけど、本当に出入り禁止になったらどう責任取るつもりだったんですか?
責任を取らされたとしても、そのタレントの担当を外されるくらいでしょう。30代のマネジャーがやらかした失態の責任なんて、そんなにたいそうなもんじゃないんですよ。 40-50代でやらかす失敗は、もう会社を辞めなきゃいけないとか、会社をつぶすかもしれないというほどの大事だけど、30代はまだまだ挽回できる。その間に精一杯失敗をしておかないと、成功体験も失敗体験も自分の中に溜められない。
―― そ……そうか。私の上にまだ上司がたくさんいるんですよね。ホントにダメな判断だったら上司が止めてくれるはずだし。上司の反対がありがたく思えるなんて初めてだ(笑)
そうそう。30代って、満遍なく筋力をつけていかなければならない時期なんです。このチャンスを逃したら、この先部長になったときに、課長の判断を止めたりOKしたりする筋力もつかない。
きっとオサムさんを抜擢した上司も、今のオサムさんの実力をそのまま評価して抜擢したわけじゃないと思いますよ。「こいつならここまでできるようになるはず」という伸びしろに期待して、やらせてみようかなと思ったのではないでしょうか。意気に感じないと。ここで「いや、いいです」と遠慮するなら、この先ずっと、誰かの後ろに回って過ごすことになる。だいたい5年先に同じチャンスが来るとは限らない。5年後にはオサムさんの後輩が力をつけて、抜擢されるかもしれないんです。
―― そうか。実力と肩書きのギャップは承知の上で選んでくれたんですね。実力不足を後ろめたく感じるんじゃなくて、一刻も早く追いつく努力をすればいいのか。そのタイムラグは多分、猶予を見てくれるはずですよね。
上司のキャラと本来の自分キャラ
複数のキャラを自分自身でマネジメント
上司とは、演じるものなんだと思えば気が楽になりますよ。自分自身と「課長」というキャラクターを二つ持ったと思えばいい。どっちがお金を稼いでくるかといえば、家でビール飲んでる自分じゃなくて、ネクタイ締めて部下を盛り上げてる「課長」の自分。部下に反発されたとしても「この課長のキャラはいまいちウケが悪かったな」と思ってキャラを退場させればいい。「"かっこいい課長"はイマイチだったけど、"愉快な課長"ならイケるはず」とかね(笑)。
―― あははは! そうか。「新米マネジャー」というキャラがもうひとつ割り振られたと思えばいいんですね。成長しているマネジャーとか、悩むマネジャーとか、いろんなキャラが出没しそうですね、今後。
そうそう。自分自身も、デキない部下も、敵役のクライアントも、会社劇場に出てくるキャスト。自分の仕事上のキャラをタレントと思って、本当の自分がマネジャーとしてプロデュースしてやると考えればいいと思いますよ。
そう考えると、自分がその時々のステージで、どういう役柄を割り振られているかも冷静に判断できるから、責任の重圧に押しつぶされずに判断を重ねていけるんじゃないかな。自分が主演するドラマは、最後ハッピーエンドで幕を下ろしたいですよね。
木村政雄氏から学んだ、胸に刻んでおきたい3つのこと
1.意味のある失敗は貴重な経験値になる
2.30代のうちに仕事筋力を満遍なくつけておこう
3.仕事上の自分キャラの演出を楽しもう