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2.転職市場動向
エンジニアの転職市場動向と今後の予測 2008-2009

2008年年末から、トヨタ、ホンダ、ソニー、キャノンなど、日本を代表する世界的な大企業の大幅な減収減益、大量の人員削減が連日報道されている。12月に発表された企業の景気に対する見方を示す業況判断指数(DI)のうち、大企業製造業のDIは5四半期でダウン、過去2番目の下げ幅となった。暗いニュースばかりが飛び交うが、製造業の根幹をなすエンジニアの転職市場の現状はどうなっているのか、そして今後どうなるのかについて、エンジニアの転職に特化している人材紹介会社のコンサルタントに解説してもらった。


大手を中心に採用ストップ
中堅・中小企業ではニーズあり

エンジニアの求人件数は、2004年ごろから増加し始め、2006、7年には売り手市場になり、2008年上半期まではその状況を維持していました。ところが、アメリカのサブプライム問題の影響で北米の市況感が厳しくなり始めた8月前後から、求人をストップするわけではないけれど少し採用のハードルを上げて行くという傾向が徐々に大手企業を中心に現れました。

それが9月のリーマンショックを引き金にして、10月以降の下半期採用の求人をストップするという具体的なアクションをとる企業が自動車関連を中心に増えました。全般的な流れでいうと10月がターニングポイントだったと言えるでしょう。

基本的にエンジニアの求人というのは4〜5年先の開発に向けた潜在ニーズなので、業績が悪化したからといって、一気に止まったりはしないものです。また、メーカーはバブル崩壊後に新卒や若手中途エンジニアの採用を抑制したことにより、2000年前後から人手不足に陥り、プロジェクトが回らないという事態に陥った苦い経験がありました。よって直近の不況感でエンジニアの採用を止めないという風潮はあったのですが、さすがにここまで業績が落ち込むと止めざるを得ないという状況なのでしょう。

さらに大手には来期の4月に新卒が大量に入社してくるという事情があり、これも秋に一気に採用にブレーキをかけたひとつの理由です。ただし、売り手市場だったここ4〜5年、ほしくてもなかなか人材を採用できなかった中堅・中小の企業はいまだに採用ニーズはあります。

医療、電力需要、エネルギー分野は堅調

今日のような厳しい景況感でも、医療業界や電力などのエネルギー関連の企業などでは引き続き採用ニーズがあります。また自動車の開発サイクルよりも長く、市場の好不調の波に左右されないよりロングレンジでの開発を行っている分野も強いです。例えば火力・原子力発電などは景況感とは関係なく、国家プロジェクトとして動いているので継続して求人を行っています。また、それに付随して、そのような機関や企業に必要な部品や排水浄化システムを納品している会社も引き続き求人ニーズはあります。

また、電子デバイス関連の企業、携帯電話やデジタル家電に紐づく半導体やそれらの基盤実装製品群の開発エンジニアのニーズは減少傾向にありますが、ソーラー発電や二次電池関連の開発ならびにプロセスの求人は継続してあります。

どんなマーケットニーズに紐づいている
求人なのかが重要

開発に必要なエンジニアの採用を止めてしまったらその先の10年はないという分野は、採用にブレーキをかけられない。一口に求人ニーズが激減して、転職が厳しくなっているというわけではなく、これから伸びていく分野やなくてはならない分野のエンジニアの求人は止まりません。つまり、その求人職種がどんなマーケットニーズに紐づいているかによって求人ニーズの傾向が違ってくるということです。

我々キャリアアドバイザーは、この求人のそもそものマーケットニーズは何なのか、この企業はどんなニーズに基づいてモノを作っているのかという情報を共有し、そこを押さえた上で転職希望者に紹介するようにしています。単純に求人のある・なしではなく、もうすぐ止まる求人なのか、景況感によらず十分な人材が採用できるまで続く求人なのか、そこの見極めが重要なのです。

【機械・電子】
省力化のための設備開発

業界・業種別にもう少し詳しく見ていくと、機械・電子関連は今後、減産に伴い、国内外の生産工場は縮小し、期間従業員をはじめとした人員整理は進むでしょう。しかし、この状況が4〜5年も続くはずはなく、必ず戻ります。そのときに企業は解雇した派遣社員をまた増やすのではなく、省力化をどう進めるのかを考えていると思います。現状の製造設備をどのようにコストダウンしていくか、例えば3人を必要とする行程を自動化のラインを入れることによってゼロにできるのであれば、人件費との兼ね合いでペイできれば導入するでしょう。ですから、増設に伴う求人ニーズは減少しましたが、省力化に向けた設備開発という求人はあるんです。

【自動車】
電子・電気系エンジニアのニーズはあり

自動車業界ではマーケットが冷え込み、新車を作ったところでコストばかりかかって販売にはつながりません。そうなれば販売戦略上、車種は一気に絞られます。だからただ単に3D CADを使って設計できるという機械設計エンジニアのニーズはどんどん減っているわけです。しかし、今後の環境対策を含めて、電気自動車の開発は止めるわけにはいかないので、電気モーター制御、インバーター制御、電力制御、それらに紐づく電子・電気系エンジニアのニーズはあります。

そういう人材を求めているのは無名の企業である場合が多いです。しかし、この不況下で機械設計エンジニアを採用するのは、普通じゃない。何かがあるはずです。それは中長期的なエネルギー需要といったものに紐づいているか、もしくはその分野でトップシェアを握るような強烈な技術力をもっているか、とにかく他の企業にはない底力があるはずなんです。そのような求人は特にまだ経験の浅い若手や転職歴が多い人や高年齢の人など、転職市場において厳しい判断をされてきた人たちにとっては、実は今までめぐり合うことができなかった「本命求人」かもしれないんです。そこを見抜く目が必要です。

【鉄鋼・造船】
大量消費にともなうニーズは減少

鉄鋼石や原油を原料とする巨大なプラントを動かし、基本素材として世の中に大量に提供するような会社の求人は少なくなっています。ただし、同じ金属でも非鉄領域で携帯電話からイリジウムを抽出するとか、対環境ならびに国内における貴金属のリサイクルモデルを展開して市場情勢、世界情勢、ならびにテロリスクによらない貴金属の生産ルートを確保するための求人ニーズはまだ止まっていません。

造船は中国でここ数年、大型の造船プラントが数多く立ち上がり、それらが稼動して中国から北米、欧州から南アフリカなど、世界中の海でたくさんの船が物資を輸送していたわけですが、一気に市場が冷え込めば運ぶ物資がなくなります。よって造船の求人も激減しています。

【航空機】
小型ジェットのニーズはある

この不況下では大きな利益を上げている大量旅客輸送型の航空機会社はないので、求人もストップしています。ただ、乗客の少ない路線には優れた省エネの航空機が必要とされます。三菱重工が開発している小型航空機はまさにそれで、環境対策と省エネ対策に紐づくニーズが確実にあり、まだ求人は止めていません。

【半導体】
音楽、映像系のデバイス開発のニーズは高し

全体的には非常に厳しい状態にあります。ただ、開発を止めるわけにはいかない分野もあります。折からのデジタル化の流れで、カセットテープが消え、ビデオテープもなくなり、唯一のアナログ情報源だったテレビも2011年7月の地デジへの移行で、家庭からアナログが消えていきます。音や映像という極めて感覚的な情報量の多いものを0と1の信号に変換することで、通常であれば大きなロスを生みます。それをスムーズに再現性の高いデジタル処理をしていく、しかも高速通信でやり取りをするという技術開発には限界がありません。だから音楽、映像系のデバイス開発においては優れたコアを作れる開発設計エンジニアの採用ニーズは高く、大手半導体メーカーには求人を継続している所もあります。

【建設機械・工作機械】
求人ニーズはいったん収束

アメリカのサブプライム問題で住宅着工件数がほとんどなくなり、建築で使うような工作機械は売れなくなったことで、昨年の春あたりから求人は一気にストップしました。大型のショベルカーなどもエネルギー需要やレアメタルの掘削等で使われたり、中国の巨大ビル建築に使われるようなニーズもかなりトーンダウンしているので、求人ニーズはいったん収束といった状況です。

通信デバイスは健在的なニーズあり

ソフト系のエンジニアは電気系においては通信の組み込み系と画像・音声のデバイスを動かすファームウェアで、ハード系は通信デバイスに関してはまだまだ健在的なニーズはあります。今後は携帯電話のみならずBluetoothなど電波を飛ばして動かす製品開発はまだまだ増えていくはず。あとはデジタルシグナルプロセッサの領域のロジックを構築できるエンジニアのニーズは絶対なくなりません。

エアコンなどの家電のコンプレッサを動かすのはモーターだし、自動車を動かすのもモーターです。そのモーターを動かす際にインバーターで制御するという技術が省電力化に向けて一般化しています。よって、電力制御の電源回路、DC/DC、AC/DCの電力変換モジュールを設計する求人も堅調なニーズがあるはずです。

外資系のセールス・フィールドエンジニア

こんな不況下においてもグローバルな産業界という視点で見れば日本はまだまだ堅調。そこに向けて、省エネニーズや特殊な開発を支えるような計測器など、日本の産業界に対して有効な機能をもつユニットやデバイス等を売り込んでいきたいと目論んでいる外資系企業のセールスエンジニアとかフィールドエンジアの求人は止まらないと思います。

例えばドイツの某メーカー製の制御ボックスは、日本国内ですでに普及している制御ボックスでは考えられないほどの機能をもっています。それをベースにしてもっと日本国内で拡販していきたいと思っているので、英語が堪能なセールスエンジニアやフィールドエンジアが必要になってくるというわけです。

一方、国内マーケットは消費ニーズが冷え込んできているので、コピー機など消費者ニーズに応えるような製品のフィールドエンジニアは厳しいと思います。ただし、医療機器はまた別の世界です。早期に不具合を見つけるために、どこの健康保険組合も人間ドッグを積極的に受けさせようとしているように、今後は予防医学の分野はますます盛んになることが予想されます。したがってどの病院でも検診ニーズに応えていくためにはMRIなどの医療機器を導入していかざるをえないので、当然そのフィールドエンジニアの求人はなくなることはないでしょう。

付加価値のあるエンジニアを目指すべし

これから求められるのは、基本能力プラスアルファの能力をもったエンジニアです。例えば機械設計のエンジニアは、ただ単に3D CADによるボディ設計やハンドル設計などの造形的な設計能力にとどまらず、動的な機構設計ができるとか、部品においても解析を伴いながら製造性とコスト性を考えつつ設計してきたとか、設計エンジニアも付加価値がついている人はどの業界からもニーズはあります。ただし、CADオペレーターから派生し、レイアウト設計などの空間デザインや造形というイメージの機械設計のエンジニアは、現在の求人マーケットでは非常に厳しい状態です。派生車種を展開していこうとかデザインを変えて売ろうといった時代ではないので、ここ数年は厳しい時代を迎えるんじゃないかなと思います。

自立型の人材が絶対条件

現在、採用ハードルは確実に上がっています。以前なら受かっていた会社でも今受けると落ちてしまうといった状況です。どの時代でもいい人材を採りたいというのが企業の本音。今までは猫の手も借りたい現状の中、言われるがまま忠実に仕事をこなすオペレータータイプの人でも転職できていました。しかし、こういう不況下においては自立型の人材じゃないと非常に厳しいでしょう。面接でも重視されるのは、なぜその会社を志望したのかという志望動機です。「今までの経験を生かして何をしたいんだ」と聞かれたときに、すぐに言葉が出てこなかったらNG。入社してから何を実現し、自分と会社の成長をどういうふうにリンクさせていくのかをイメージすることが重要です。新しい環境の中で新たな価値を生み出していくことができそうな人物像じゃないと内定を取るのは厳しいでしょう。

客観的に見つめ直すことが重要

こういう厳しい雇用環境だからこそ、社内における自分のポジショニングだけを考えるのではなく、客観的に自分自身を見つめ直してみてはいかがでしょうか。漠然とした不安を抱える前に客観的な指標をいれて、整理しておくタイミングだと思います。

実際に転職活動に踏み出す手前の段階で、今自分にはどんな求人が該当するんだろうか、この不況下で求人を出している企業はどんな企業なのかということを考えてみる。それから第三者に現状の仕事や会社の方向性を話してみて、中長期に渡って本当に自分を満たすものなのかどうか、今このタイミングで照らし合わせて整理をしておけば、現状の仕事に力も入るでしょうし、このままではまずいと思うならば転職活動を始めればいい。中途半端な状況で外的なノイズに振り回されることなく、しっかり考えることをお勧めします。

「失敗しない転職」のために

我々のコンセプトは「失敗しない転職」です。自社で「機械設計」というキーワードで検索すれば、膨大な数の求人がヒットします。単にそれを転職希望者に提供するだけなら我々キャリアアドバイザーの存在意義はありません。「失敗しない転職」のために、転職の意義を明確にして、ある程度抽象的なモデルに落とすことによって該当求人をいくつか抽出し、最終的に意図する併願の中から最適な意思決定をしていただくというプロセスを踏んでいます。

例えばデバイスメーカーに勤務しているエンジニアがセットメーカーに移ることが、今回の転職による課題解決のための最終結論だとすると、数あるセットメーカーの中から数社に絞り込んで応募し、複数内定が取れたらその中からどの会社を最終的に選ぶかをロジカルに進めていく。それが我々のコンセプト。短絡的な巡り合わせをつくるために大量の情報と大量の要望を受け付けて出会い頭の衝突を生み出すというイメージではなく、意図した紹介をしていくことが、失敗しない転職に繋がると思っています。自分にどんな求人が該当するのかわからない方、また今後のキャリアパスに悩んでいる方は、ぜひ一度相談にお越しください。

 

■2009年の転職活動では

2006年〜2008年前半までの空前の売り手市場から一変。大手を中心に中途採用凍結が相次ぐ。一方、優秀な人材を獲得するチャンスだと捉え、意欲的な中小企業もあり。ただ、募集を続けている企業でも採用のバーは確実に上昇しており、転職の際には綿密な戦略が必要。

■堅調なエンジニア求人ニーズのキーワード

景気に左右されにくい医療・エネルギー関連、時代の潮流である環境・エコ・省力化関連の求人ニーズは堅調に推移。また、冷え込みの激しい業界でも特定分野では健在なニーズあり。例えば自動車業界の電気・回路・制御系エンジニア、航空業界では小型航空機の開発エンジニア、半導体業界の映像・音楽系デバイス開発など。また、技術力を誇る外資系半導体メーカーや国内医薬機器メーカーのセールスエンジニア、通信デバイスの組込系のソフト・ハード開発技術者、デジタルシングルプロセッサ領域のロジックを構築できるエンジニアの求人は好調だ。

■低迷が予想されるエンジニア求人は?

機械・プラントや電気・電子業界の増設に関する開発エンジニア、自動車業界の機械設計エンジニアの求人は激減。鉄鋼・造船、建設機械・工作機械といった業界の求人はストップしている。いずれも2009年中の回復は難しいだろう。

■優秀なエンジニアは不況の逆境下でも売り手市場

2009年の求人市況は低迷が予測されるが、悲観することはない。優秀なエンジニアはどんな時代でも常に売り手市場であるし、ミクロへ視点を移せば、採用意欲の高い優良企業は数多く存在する。慌てることなく、自分のキャリアの棚卸や市場価値の確認を行い、骨太な計画を立てよう。エンジニアはまた、不況下の厳選採用では、入社後大切にされるといった嬉しい副作用もあるのだ。

アドバイスをくれたコンサルタント
河辺真典氏
株式会社メイテックネクスト
CA統括マネージャー
河辺真典氏

繊維メーカーの生産技術職を経て、大手人材紹介会社へ転職。コンサルタント歴10年。転職希望者と企業の採用担当者双方との面談実績は2000〜3000名を誇る。ほかにも人事における採用マネージャー、コンサルタントのグループマネージャー、営業マネージャーなどを歴任。特に中部地区のエンジニアの転職事情に詳しい。コンセプトは「失敗しない転職」。



取材・構成/山下久猛
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