長期的な夢としては、ゴスペルを日本でもっと身近なものにしたいですね。日本でゴスペルをやっている教室やスクール、サークルはたくさんありますが、何に重点を置いているかというのはそれぞれです。現状を見ていると、大きくふたつのグループがあるように思います。
ひとつは、コーラスを特徴とする音楽ジャンルのひとつとしてゴスペルを捉え、ポップス曲のゴスペル風アレンジなども取り上げながら、ハーモニーやリズムを楽しもうという方針。確かにゴスペルは音楽的にとてもかっこよく、それだけで充分に魅力的です。でも個人的には、それだけではちょっともったいないという気がしますね。
もうひとつは、キリスト教の伝道を目的としたもの。そう言うと驚く方もいますが、現にたくさんありますよ。良い悪いは別として、キリスト教会が主宰しているものやクリスチャンの方々が率いているものの多くは、ゴスペル=伝道手段と位置づけられています。少なくとも、本場アメリカではゴスペルとはそういうものですから。ゴスペルを通じてたくさんの人が教会に足を運ぶようになり、クリスチャンになる。同じことが日本でも各地で行われています。
でも日本の多くのゴスペルファンはクリスチャンではないですし、クリスチャンになろうとして歌っているわけではありません。そこのギャップをとても感じますね。実際に「クリスチャンじゃないのにゴスペルを歌っていいのだろうかと悩むときがある」という声を頻繁に聞くんですよ。
私も正直その気持ちはすごくわかるんです。私にも、ゴスペルはクリスチャンのものか否かと悩んでいたときがあります。でも、実際に本場の黒人教会に入って思いました。私たちは日本で生まれ育った日本人であるという時点で、彼らとは決定的に違う。リズム感や歌唱力もさることながら、宗教観、文化、人種差別といった彼らの歴史、すべてが違う。
彼らと一緒に活動していて気付いたのは、日本人がゴスペルに感じている魅力は、本場である彼ら自身の見方とはまた違ったものなんだなということです。ちょうど西欧で日本のお寿司などの和食やマンガ、武道などが彼らなりの感覚で受け入れられ、発展しているのと似ているでしょうか。私たちにとってのゴスペルも、無理して黒人教会の人たちの物真似をするのではなく、私たちの中でひとつの文化として発展させていけばよいのでは、と思うようになりました。
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