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魂の仕事人 第34回 其の三
終身刑の設立ではまだ半分「犯罪者を生み出さない社会」にすることが究極の目標
3年以上にもわたり、終身刑設立のために私財を投げ打ち、文字通り東奔西走してきたストッキ氏。ここにきてその活動が少しずつ実を結び始めているものの、まだまだ道のりは遠い。シリーズ最終回の今回は、取り組んでいる活動の真の目的と今後の目標を語っていただいた。  
終身刑設立を目指し全国行脚 ストッキ・アルベルト
 

3つの活動目標

 

 私が今後取り組んでいきたいことは3つあります。ひとつは2004年から続けている終身刑設立に向けての署名活動です。皆さんにもぜひご協力していただきたいです。メールでもできます。今も全国から送られてきています。

 死刑制度については、私は賛成でも反対でもありません。しいていうならば、賛成の方が近い。死刑反対の人の気持ちもわかるよ。でも我々の気持ちもわかってほしい。確かに人の命は大切。でも殺された人の命も大切でしょう?

 もしくは犯した罪の数に応じてどんどん罰を追加していくシステムをつくってほしいです。私のケースなら、放火とふたりの命を奪った罪で無期懲役。さらに娘の将来4年間を奪った罪でプラス4年、10年後だったらその3分の1で3年、仕事を奪った罪であと3年、合計追加10年。無期懲役が終わったら、次の償いでさらに10年服役。それは賛成。そうすれば終身刑はいりません。でもその制度は日本にはありません。つまり現状の日本では、車を100台盗んでも、そのうちの一番高い車だけで判断されて、あとの99台は罪に問われない。

 私の場合は2人殺されてるから、それだけで判決を言い渡される。じゃあそれ以外の10人の殺人未遂は? 10軒の全焼を含む焼けた25軒以上の家はどうなるの? 彼らだって苦しんでいるんですよ。日本の法律を調べても、放火は10年以下の刑罰です。5年だとしても、25軒が焼けたらどうなる? 計算しやすいでしょ? そこだけでも無期懲役を上回ります。

 だから終身刑じゃなければ、犯した罪、一つひとつすべてに罰を与えてすべてを加算して最終的に量刑を決めるという制度が成立してほしいと思っています。目的はあくまで犯人の命を奪うことではなくて、人の命を奪った犯人を社会に出させないためですから。

 2つめは講演会です。頼まれれば全国どこでもいきます。もちろん講演料などは望みません。ただ、交通費と宿泊費などの経費だけ出してほしい。それさえ出してもらえればOK。関西圏内だったら日帰りだから無料でもいいです。

 私の講演会では、まず無期懲役と終身刑の違いを説明します。被害者の心、痛みと悲しみ、苦しみ、反省させる制度の必要性。最後にスイスと日本の教育の違い。ジョークを入れつつ話します。硬い話だけだとダメですからね。

 学校にも行きます。18歳未満は署名できないけど、若い人たちに、我々の痛み、犯罪に遭うとどういうことになるのか、話したいです。ひとりでも多くの人に知ってもらいたいから。それが犯罪の抑止につながる可能性もあるので。

悪魔として生まれてくる子はいない
 

 3つめは家庭教育をやり直すこと。私にとって一番重要な問題で、これができないと終身刑を成立させたとしても、半分の成功でしかありません。再犯罪者の手による犯罪がなくなるだけですよ。刑罰よりも、もう一回心を直すべきではないか。もっと大元から犯罪者をなくすような活動が求められていると思います。中には死刑になりたかったから凶悪犯罪を犯したという者もいます。

 しかし、どんな悪魔のような凶悪犯でも、お母さんのおなかから出てくるときは、天使として生まれてきます。劣悪な家庭環境や家庭内での間違った教育で悪魔になるのです。子供は親や教師などの大人を見て育ちます。だから子供だけが悪いわけじゃない。私の家を放火した犯人も親の方にも責任があると感じました。

 だから原点に戻って教育を何とかしなければなりません。人や物に対する感謝の心、ありがとうの言葉を心から言えるように。他人を尊敬する気持ちの大切さ、そして人の命の大切さを感じられるように。他者を敬い、命の大切さが感じられれば、他人を虐げ、命を奪うようなことができるはずがありません。

 その家庭教育を変えるためにまずは講演会をどんどんやらなければと思ってます。それも親子で教える必要がある。まず子供を教える親。親の教育ができなければ、子供の教育はできません。毎日子供と一緒に生活するのは親ですから。そのためにやっぱり講演会が必要なんです。

2003年3月2日、東京で行われた「第2回死刑制度についての討論会」にパネラーのひとりとして参加し、終身刑の必要性を訴えた。会場までの移動手段はもちろんバイク

被害者があまりにも冷遇されている
 

 今の日本は犯罪被害者に対してあまりにも冷たすぎます。事件の被害者になったために支払わざるを得なくなった総額はけっこうな額になります。殺された人の葬儀費用はじめ、火事になった証明書の発行、死亡証明書、燃えてなくなったさまざまな証明書、免許証、クレジットカード、印鑑証明書、銀行通帳などの再発行などにはすべてお金がかかる。

 私は被害者なのに、なぜ払わなければならない。冗談じゃないですよ。こういう費用は国から出してほしい。犯人も刑務所で懸命に働いてお金を払ってほしい。加害者の責任として。そういう制度も作ってくれるように全国を回りながらお願いしています。

 民事裁判で犯人を訴えて、その結果、犯人に損害賠償1億5000万円の支払命令が下されたけど、犯人は払えないから私は1円ももらえない。でも犯人の父親は土地持ち。でも土地を売ろうとしない。犯人の両親は法廷にも一度も来ませんでした。ひどいです。

日本を変えるため、政治家に
 

 こういうおかしい状況を変えるために、ただ陳情して回るだけではなくて、私自身が政治家になろうと思っています。3年後に参院選に出馬を考えています。

 政治家になってまずは終身刑の設立を目指したい。そして、服役囚が刑務所で稼ぐお金を、ちゃんと3分割して支払わせるようにする。3分の1は国に返す(刑務所での経費)。3分の1は被害者の損害賠償として払う。3分の1は自分がいつか出所して社会復帰したときの生活資金とする。ドイツでは銀行マンが刑務所に貯金を集めに行くんですよ。たとえ服役囚が1万円もらっても3000円は国に返す、3000円は被害者に支払う、4000円は自分のために貯金するんですよ。社会勉強も刑務所の中にあるんです。

 もうひとつ変えたいのは、殺された被害者の葬式代はとりあえず犯人が捕まってる場合は、犯人が払う。捕まってなかったら国側が払う。被害によって失ったさまざまな証明書の再発行手数料もすべて無料にする。そういったことを政治家になって実現したいと思っています。

バイクで全国各地を回るのは莫大な経費がかかる。しかしわずかしかもらえなかった犯罪被害者給付金は1年目で使い果たし、仕事もしたくてもできない。貯金も底を尽き、活動の継続に赤信号が点灯しかかっている危機的状況の中、ストッキ氏はある重大な決断を下した。

2000万円、すべて自費
 

 これまでの終身刑創設のための活動に2000万円使いました。もちろんすべて自費です。たまに教会に行ったときに寄付してもらうことがありますが、それらをすべて合わせても10万いくかいかないかです。

 活動資金は、家内と娘が殺される直前にできた法律で、国から被害者に最大3500万円の保証金が出る予定だったけど、でも国はお金がないから私は851万しかもらえなかった。そのお金は元々私のお金じゃない。死んだ人のお金ですからね。もちろん自分の生活のために使ってもよかったけど、亡くなった家内と娘のために何かできないのかと思って、この活動に回してしまいました。でも全然足りません。

 だからこれまでの活動費や生活費は22年間の貯金から捻出したんですよ。でももう少しでなくなるんです。あと半年以内に仕事が見つからないとたいへんなことになります。

 だから、終身刑創設のために全国を回る活動は私が勝手にやってることですが、資金的な協力が得られると非常に助かります。これ、今回初めて言います。これまで寄付を募ったことはありません。500円でも1000円でもいいです。みなさん、少しでも協力してくれると、私、うれしいです。(募金の送り先は右のプロフィール下を参照)

すぐには変わらなくても、いつかは変わる

 もうひとつ、大きな願いは、犯罪被害者に対して。被害者はもっと勇気を出して表に出てきてくださいと言いたいです。自分の権利、人権をもっと大切に、生かしてください。

 事件のことを思い出すのもつらいなんて思わないでほしい。どうせ動いてもなにも変わらないなんて思わないでください。亡くなってしまった被害者もそうは望んでいないと思います。すぐには変わらなくてもいつか、何かは変わる。事実、変わってきています。ある国会議員から連絡がありまして、議員の間で終身刑の新設について議論をしているということでした。新聞にも5月と6月に報道されました。今年の衆議院選挙終わったあと、終身刑導入について話し合うみたいですね。だから私の活動の影響はすごくあると思います。少しずつ、変わってきているのです。

終身刑の新設について議論をしている──2008年5月には超党派による新たな議員連盟「裁判員制度の導入の中で量刑制度(死刑と無期懲役のギャップ)を考える会」(仮称)が発足。仮釈放のない終身刑として「重無期刑」を導入しようとする動きが始まった。

 ノウハウがわからなければいつでも連絡ください。何も怖くないですよ。確かに最初は怖いと思いました。こんなことやってどうなるんだろうと。でもやってみてわかったけど、全然怖くない。平気です。私の場合は「外人のくせに日本の法律に口出すな」という声はある。でもたいしたことない。その何倍もの、9万人分の署名や支持の声が届いているから。私にはたくさんの味方がいますから。

妻と娘が力をくれる

 イタリア、スイスには帰るつもりはありません。私の国は家族がいるこの日本です。たったひとつの心残りはスイスにいる75歳のお母さん。心が痛いですね。常々日本に来てくれと頼んでいるけど、なかなか頑固で首を縦に振ってくれません。

 今、この活動をやめてしまったらすべて中途半端に終わってしまいます。だからどのくらいかかるかわかりませんが、頑張り続けるつもりです。当面の目標は終身刑創設のためのプロジェクトチームの発足です。

 とにかく無期懲役と死刑の大きすぎるギャップをなんとかしたい。死刑はいつかなくなると思う。それまでになんとかしないといけない。人の命を奪ったら自分の人生をかけてそれ相応の責任は取らなきゃいけない。

 私はあの事件でPTSDになりました。何度も自殺未遂しています。でも死ねなかった。この活動があるから生きていられる。夜になると涙が出てきます。でも朝になると元気が沸いてきて別の人間になります。その力は天から来る。亡くなった家内、娘が天から支えてくれていると感じます。

 彼女たちの死を無駄にしたくない。殺された妻と娘のため、私自身の正義を取り戻すため、今も苦しんでる多くの犯罪被害者のため、そして今の異常な日本を少しでもよくするため、命ある限り走り続けます。それが私がやらなければならない仕事だと思っています。

ストッキさんの部屋の壁には、亡くなった妻・公子さんと次女・友理恵さんの写真が貼られている


 
第1回 2008.9.15リリース ある日突然妻と娘を奪われた 地獄の毎日の始まり
第2回 2008.9.22リリース 終身刑設立を求め バイクで全国行脚開始
第3回 2008.9.29リリース 「犯罪者を生み出さない社会」の実現が究極の目標

プロフィール

すとっき・あるべると
Stucki Alberto

1955年イタリア生まれ。1975年、剣道の修業のため来日。1年で帰国するつもりが剣道の魅力に取り付かれ、語学教師、建築資材の輸入業などを営みながら日本に定住。1983年、日本人女性と結婚。ふたりの娘をもうけ、幸せな日々を送っていたが、2004年5月、引越しの前日、連続放火魔により自宅を放火され、妻と次女の命を奪われる。犯人の竹山裕二(当時37歳)に下された判決は無期懲役。以降、終身刑の創設を目標に2005年からバイクで日本全国を回っている。これまで全国3周、約16万5000キロを走破。約9万5000名分の署名を集めた。活動費はすべて自費で、これまでにかかった総費用は2000万円。現在も講演のために全国を走り回っている。署名はメールでも受け付けている。

■署名・講演の問い合わせ
minervai@rhythm.ocn.ne.jp
携帯TEL:090-2505-1210
電話:072-762-3702
Fax:072-762-3703
住所:〒563-0036
大阪府池田市豊島1-5-27
シャーメゾン豊島106号

■募金口座
郵便振込口座
口座名義:ストッキ・アルベルト終身刑設立活動募金
口座番号:00990-7-107238

■署名協力
署名を希望する方は、こちらより署名用紙をダウンロードして、住所、氏名、サインもしくは捺印の上、〒563-0036 大阪府池田市豊島1-5-27 シャーメゾン豊島106号 ストッキアルベルト署名係まで送付してください。

 
お知らせ
 
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