今はほとんど仕事はしていません。したくてもできないんです。放火される前は、高校で英語を教えていました。仕事をしなければ生きていけないから、学校に教師として復帰させてほしいとお願いに行きました。でも受け入れられなかった。学校の理事長には、「教壇に立ってかわいい子供たちを見ると、亡くなった子供のことを思い出して、教えることができないのではないか。もう少し時間が経ってからの方がいいのではないか」と何度も言われました。とりあえず連絡先だけ教えてくださいと言われ、それっきり。事件のことを伏せて応募した教師の採用試験も結果はいつも同じ。不採用。雇ってもらえない。
あの当時は理事長のいうとおり、確かにすぐに復帰するのは無理だったかもしれない。ひどいPTSDだったから。でも1年後、再びお願いにいったけど、無理だった。
まるで犯罪者みたいになってしまいましたね。被害者なのに。長女も精神的にひどいショックを受けて大学進学どころではなくなりました。そういう夢が一晩でバン!……なくなってしまいました。
だから仕事もできない。どうやって生活する? 銀行強盗でもしましょうか。だって犯罪者は許されるでしょう? むしゃくしゃしてたからやった、でも許される。おかしいですよね。
私はもうひとつ仕事をもっています。建築材、主にタイルの輸入の仕事で、15年前、平成5年8月15日に会社を設立しました。設立してしばらくは景気もよかったので、順調でした。
将来はこの建築材の輸入業だけをやろうと思っていましたが、心の中に不安もありました。収入源がひとつだけだったら、それがダメになったらどうやって家族を養う? だから学校の教師をキープしながら、両方やっていました。ところが、家内と話し合い、両方はできないからとりあえず輸入業を優先しよう、それだったら仕事が多い関東に引っ越そうということになり、その準備をしていよいよ翌日に引越しというときに放火されたんです。そして全部、失ってしまった。
事件後はPTSDになってしまったので、まともに仕事に取り組めなくなりました。さらに、昨今はユーロが高すぎるから仕事そのものができなくなっています。ユーロが安ければまだ少しは仕事ある。去年は売り上げゼロ。今年もまだゼロです。
それから姉歯事件(※2)のおかげで、設計の審査の許可が降りるまでかなり時間がかかるようになっているのも大きな痛手です。待ち時間が長すぎるから、地方の小さい会社はそれまでもたない。いろんな設計事務所が潰れて、多くの人が仕事を失ってる。私も3つのプロジェクトを失ってしまいました。だから今、とても困っているんです。半年以内に仕事が見つからなければたいへんなことになります。
※2 姉歯事件──元一級建築士の姉歯秀次やヒューザーなどの建設会社が耐震強度を偽装していた事件。人命よりも儲けを優先して偽装を行った姉歯被告には懲役5年、罰金180万円の実刑判決が下された。 |