一人前になったと思ったこと? 17のころからラーメンを作り始めて引退するまで、ついぞ一人前になったと思ったことはなかったね。
ラーメンつくりにおいて、「これでいい」なんてのはないんだよ。そういう信念でずっとやってたから。
俺の中に理想のスープ像があるんだよ。味がしっかりしてるんだけど、濁ってなくて透明度があるスープ。おいしくて色があっても澄んでいるってのが理想。
だからずーっと自分の味を追求してた。理想のスープに近づけるために、よりおいしいものをつくるにはどうすればいいか、常に試行錯誤してた。自分で食べて満足できない味では嫌なんだよ。でもやっぱり気に入らない部分が出てくるわけ。たえず自分で味を見てるから。だから釜前は絶対離れなかった。結局全部自分でやらなきゃ気が済まなかったんだな。
スープは、基本的には豚ガラ、鶏ガラ、野菜、魚をいかにバランスよく組み合わせるかなんだけど、途中からスープを作るのに豚の挽き肉を入れたりしてたね。味をしっかりさせるにはやっぱり肉系が必要だから。短い時間で最高の味が出るのは挽き肉しかないんだよ。
でも挽き肉は他の素材に比べて高かった。かといってラーメンの値段を上げるわけにもいかないしね。でもウチは子供ができなかったから、学費とか養育費がいらなかった。だからいくら自分の好みのスープを作るためにお金を費やしても苦にならなかったわけ。試せるものはすべて試した。たとえ使えそうもないと思ってもね。
豚も鶏も生き物だからね。すべてそうでしょ? 野菜にしたって肉にしたってガラにしたってみんな生き物だから。我々はそれを使わせてもらって、おいしく食べて生きていられるんだから。一つひとつの素材すべてを徹底的に使いこなせるっていうことが大事なんだ。多少金がかかってもいろんな味のものを使い切ってみせるぞという気持ちが自分にはあったから。
具材や麺にもこだわったよ。チャーシューはひげたの薄口しょうゆできちっと1時間半煮る。そして肉汁の入ったしょうゆに濃い口と薄口を混ぜて、3つのブレンドでひとつのチャーシューを作るわけ。そのしょうゆだけでも肉汁がたっぷり入ってうまい。チャーシューもしょうゆのうまさを吸い込んで、さらに薄口で煮るから肉本来の美しさが出るんだよ。
麺は伸びてもうまいものにしようと考えながら打ってきた。実際、お客さんからは伸びてもうまいってよく言われたね。うまいスープを吸った麺をごはんといっしょに食べるのは応えられないってね(笑)。 |