ボブさんの下で修行する過程において、運良く決定的な挫折っていうのはなかったんだけど、とてもつらい時期ももちろんあった。自分の作りたいものはあくまで「ボブさんの」コンテンポラリーなアメリカンカスタムナイフだったから、ボブさんのナイフを懸命に、ただ闇雲に踏襲・真似しようとしていたわけです。でもいくら高精度に真似をしてみても、ボブさんの作品の横に並べておくと違いは歴然なわけ。「どうして同じテイストにならないんだろう?」ってものすごく悩んだよ。ある意味、失意のどん底だよね。そういう時期が長く続いた。
でもあるきっかけでふっきれた。ボブさんの下で修行するようになって数年経った頃には、僕もアメリカン・ナイフショーに作品を出品するようになった。その頃は日本からナイフショーに出品する人なんてあまりいなかった時代でね。そのナイフショーで、ある高名なコレクターが僕の作ったナイフを取って「これは君のオリジナルかい?」って聞いてきた。僕は「N0,Sir それはボブさんのコピーです」と答えた。コレクターは笑って「このナイフはもう十分に"アイダ・ナイフ"だよ」って言った。そのときは嫌だったんですよ。自分ではボブさん・ナイフを作っているつもりだから。「"アイダ・ナイフ"はねぇだろ。それは全然褒めてねぇよ」って(笑)。
ムっとしてると、その後に「君はちゃんとボブさんの道統を継いで君の形を作り出しているんだ」って言われた。そのときに目からうろこが落ちた気がしたんだ。「あ、そうか。継承できるのはボブさんの道統の一部分だけなんだ」と、そのとき初めて理解したんだな。つまり、ボブさんと同じものを作ろうとしたって、それは最初から無理だということに気づいた。だって、ボブさんだって常に進化してて、「今」に「自分自身」に納得していないわけだし。それを追いかけていく自分がボブさんになれるわけがない。今考えれば当然の話ですよね。ましてや一子相伝なんていう考え方がこの世界には全くないから。だからそのとき、「あぁ、いいんだコレで」って思えた。
やっぱり自分のやっていることってのは、自分ではよくわからないんだよね。自分ではラブレス・ナイフを作っていると思っていても、他人から見るとどこかに僕のアイディンティティとかオリジナリティが出てきちゃうらしいんだな。表現の仕方とかにね。つまりキッチリとラブレス・ナイフは作れないということ。あれはラブレスが作ってこそのラブレス・ナイフなんだから。
そういうことに気づいてから楽になったし、本当に僕自身のナイフが作れるようになったと言えるかもしれないね。俺は俺のナイフを作ればいいんだって。ようやく思えた。
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