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魂の仕事人 魂の仕事人 第4回 其の三 photo
やっぱり死ぬまで「ジャーナリスト」 世のため人のため自由のために働きたい
これまで雑誌編集長、放送作家、映画、演劇のプロデューサーと同時に畑の異なる複数の仕事をこなしてきた矢崎さん。でもつらいと感じたことは一度もないという。なぜなら矢崎さんにとって、仕事=遊びだからだ。その仕事観に迫った。
『話の特集』元編集長、ジャーナリスト 矢崎泰久
 
いろいろ経験したけど、僕はジャーナリスト
 

 仕事を4つも5つも同時に進行するのはすごく大変なことのようにいう人がいるけど、私にはそれぞれをリンクさせていたので不可能とは思わなかった。例えば映画をプロデュースして中平 康を監督('76年作品『変奏曲』)にフランスでロケしたときも、映画の仕事をしながら浅井愼平とその作品の写真集を作る仕事も同時にしていました。

 いろんな仕事を経験しましたが、「あなたは何者ですか?」と聞かれたら、「私はジャーナリストです」って答えますね。なぜなら小説を書くにしても、映画を撮るにしても、雑誌を作るにしても、すべてジャーナリスティックな視点から物事を見ようとするからです。僕にとっての「ジャーナリスティックな視点」とは、「反権力、反権威、反体制」。つまり権力に対するチェック機能がないと、ジャーナリストとは呼べないんです。だから現在の体制や権力におもねることしかできないテレビ、新聞の中にはひとりもジャーナリストは存在しないと思っています。

 
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 世の中のメディア、ジャーナリズム自体がおかしくなっていると強く感じます。それは先日の総選挙を見ても明らかです。すべてのジャーナリズムは小泉総理に乗せられていると感じました。まさにジャーナリズム全体が、小泉の言いなり。そもそもあんな選挙は人びとのためにならない。小泉は郵政民営化をバカのひとつおぼえのように繰り返すだけ。でも郵政民営化なんて国民にとって関心があるテーマだとは思えない。人びとが気になっているのは年金がどうなるのかとか、暮らしがどうなるのかとか、そういうことでしょ? 郵政民営化は単に分かりやすいお題目にすぎなかった。その証拠に自民圧勝なんていわれてるけど、郵政民営化反対の候補者の方が、賛成の候補者よりも得票総数では上回っているんですよ。ジャーナリズムはそういうことも報道しない。「自民圧勝」。ただそれを繰り返すだけ。つまり、ジャーナリズムは小泉に乗っかって騒いでいただけなんですね。本質を見極め、真実を伝えようとしていない。

 

 そんな今だからこそ、現在のジャーナリズムに真正面から立ち向かい、社会に悪影響を及ぼす間違った情報を流したときには、糾弾すべきだと思っています。先日は、古くからの友人である田原総一郎が、自分の番組でとんでもないことをやらかしたので、本人に書面で抗議しました。まともな回答が得られなかったので「通知書」として再度送りました(注1)。

(注1)2005年7月3日に放送されたテレビ朝日の『サンデープロジェクト』「開戦時の内閣総理大臣 祖父東條英機を語る 東條由布子さん生出演」で、東條英機の孫娘・東條由布子さんが生出演して、祖父の思い出を語った。これに対して矢崎さんは「東條の孫娘から日本人が体験した最も悲惨にして思い歴史上の事実について、真っ赤な虚偽の発言を引き出し、数10分に渡ってそれを垂れ流した」「田原氏が東條の孫娘・由布子へのインタビューで果たした役割は、孫娘の発言を通して、ヒトラーに匹敵する戦争犯罪者というべき東条英機の復権であり、日中戦争、太平洋戦争が自衛戦争であったとしてこれを正当化する以外の何ものでもない」と激怒。抗議文を送りつけるとともに、自身と東條由布子さんとの番組内での公開討論を要求したが、拒否された。しかし矢崎さんは弁護士の山根二郎さんとともに、今後ともこの問題を追求していくつもりだという。

最近のマスコミ、ジャーナリズムはおかしい──。矢崎さんはメディアに対する危機感を抱いている。間違った情報に踊らされず、本質を見抜く目をもつ人を育てたい。それが仕事の大きなモチベーションになっている。しかしもうひとつ、大きなモチベーションの源泉があった。それは人びとをあっと驚かせたいという遊び心。「世のため人のため、生きる糧になるエンターテインメント」これが究極の目的だった。
世のため、人のために仕事がしたい
 

 私はジャーナリストとして、常にリベラル(=自由主義)でいたいと思っています。でも最近では、リベラルという人達は活動の場が限定されるんです。リベラリストにはフリーで活動している人が多いのですが、何かに所属していないと、世間、特に大きな組織はまともに相手にすらしてくれない。個人で動こうとすればかえって目障りな人間として圧力がかかる。テレビというメディアがその象徴で、あの世界においては安全な言葉のみ発言が許されるんです。

 例えばNEWS23から取材依頼が来る。僕は生放送で筑紫哲也さんと対談するという形ならいいですよと答える。なぜなら、VTRだと番組の都合のいいように編集されてしまうからです。僕としてはそれはイヤなわけ。だって真意が伝わらないから。でもTBSの担当ディレクターは生出演を許してくれない。僕が何を言うか分からないから(笑)。でもね、本当のところは、面倒なことになるのが嫌だからなんですよ。分かりやすく言うと、僕の歯に衣着せぬ発言で視聴者から大量のクレームが来ることが怖い。そしてそんな矢崎をなぜ出演させたんだと上司に怒られ、悪くすると左遷させられる可能性もある。要するに覚悟がない。報道という職に就きながら、このサラリーマン体質。実に情けないですよね。自主規制こそが諸悪の根源なんです。

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 同時に少しでも多くの市井の人たちに「本質はこうだ」と、ひとりのジャーナリストとして、正しい情報や、違ったものの見方、考え方を伝えたいという気持ちが仕事に対する非常に強いモチベーションになっています。基本的に世のため、人のために仕事をしたいと思っていますから。

 中山千夏、小室等、永六輔といっしょにやっている『学校ごっこ』もその一環です。「国家権力の視点ではなく、人権すなわち個々人の視点を大切に歴史を学ぼう」というコンセプトで運営しています。以前から世の中に哲学がなくなってしまったと感じていたから、それを知るフリーな場所になったらいいと思ったんです。

 哲学といっても実存主義や根本原理をテキストに沿って学ぶのではなく、生きていくのに大切な感情や情緒、信念って何なんだろうと過去の歴史をひも解いて考えることなんですよ。人々を支配したり人々から搾取しようとする人は昔からいるけれど、そういった動きを監視するジャーナリズムがあれば多くの人が国の動き、ひいては自分の人生を真剣に考えるキッカケにもなるでしょ。

 僕は「歴史から考えるジャーナリズム」講座の中で、本当のジャーナリズムとは何か、その歴史を学び、語り継ぎ、その上に自分達で歴史を作っていく、ということを教えています。これは、マスコミが垂れ流すウソに騙されない正しい判断力、思考力を養う上でも有効だと思っています。

 
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 ジャーナリズムが機能しないと政府は暴走する危険がある。今は個人主義が認められてるから世の中の動きに鈍くても危機感がない人が多い。だから真実を見るより目に楽しく耳ざわりのいい言葉だけを聞くようになる。先日の自民党圧勝は多くの人が哲学を持たずメディアに乗せられ、「なんとなく」投票した結果だよね。簡単に言えば「自分で考えて自分で判断する。判断するためにある程度は世の中の動きに敏感になっておく」ことが必要だと思うんです。サルトルやボーボワールたちのように、ナチスに抵抗したレジスタンスの人々が書いたものを読めば、鈍感なことがいかに自分を苦しめるかわかる。歴史を学ぶというのは年号暗記ではなくて、そのとき誰が何を考えたかを知る……ということです。一度は読んでみることをお薦めしますよ。

仕事とはおもしろいものでなくてはならない
 
 僕が仕事をする上で、もうひとつ大きな目的というか、楽しみがあります。それは、世の人びとをあっと驚かせてやりたいという気持ちです。驚かせるためには、その辺にある普通なものではダメで、今までにない新しいもの、現実不可能と思われるもの、とっぴなものでなければならない。それを形にするのはとてもしんどいですが、形になるまでの過程、その行為そのものが、僕にはおもしろいんですね。

 『話の特集』も赤字を出しながらも限界まで踏ん張れたのは、いろんな才能あふれるクリエイターとああでもないこうでもないといいながら雑誌を作ることがたまらなくおもしろかったからです。逆に言えば、自分が興味をもてないもの、おもしろいと思えないもの、やりたくないものはどうしたったってできない。

 

 だから雑誌を作るにしても、テレビや舞台をプロデュースするにしても、「仕事」という感覚は薄いかもしれない。むしろ「遊び」感覚が強いですね。今回はどうやってお客さんをびっくりさせてやろう、楽しませてやろうって思いながら作っているので。いたずらを考える子供のようなものですよ。だから仕事とプライベートの区別なんて全然ありません。というか区別することなんてできない。仕事=遊びですから(笑)。僕のほとんどの人脈は遊びがきっかけで広がりましたしね。

 それと同時に純粋に「遊ぶこと」は大事です。今と違って日本人だって遊びに精力を使っていた時代もあったと思いますよ。それが崩れたのは明治時代に「富国強兵」という思想が生まれたからです。明治維新後、悪いやつが政治を握るようになって「仕事第一」とか「勤勉」とかを普及させた。つまり世の中は明治からおかしくなったんです。それが帝国主義に発展し、あの忌まわしき戦争へとつながっていった。みんなが本当に遊びが好きだったら戦争なんて絶対に起こりませんよ。

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もっとおもしろいことを──来年、新雑誌を創刊
 

 最近はテレビだけでなく世の中におもしろい雑誌がないな、と感じるんです。そんな多くのダメな雑誌にひと泡吹かせたいと思っていたら、奥本大三郎さんというファーブル研究家から「来年、雑誌を作らないか」というオファーをもらいました。NPO団体の『虫の詩人の館』という資料博物館から発行する虫の雑誌なんですが、カテゴリーに縛られない企画を色々と考えているところです。

 とにかく、おもしろいことをやりながら、それが世の中のためになったら最高ですね。金なんて後からついてくるもので、別になきゃないでなんとかなりますから。現に、僕は今でも億単位の借金を抱えたりしてて、(でもこれでもずいぶん減らしたんだよね 笑)、貧乏だけど、結構楽しく生きてますからね。とにかく金が目的になってはダメなんですよ。

 今後も世の中を変えたい、少しでも自由で平和な世界を実現したいという気持ちがあるかぎりは、頑張れるだろうと思います。

 
権力や暴力に屈せず、自分の表現や考え方を変えずに働いてきた矢崎さん。能天気とも思える不屈さの源は、少年期の特殊な(戦争の)体験のためと簡単にかたずけられない。なぜなら常に真実を知っていたい、弱きをくじく強者を見つめ、告発していきたいという情熱がいまだに沸き上がるから不屈なのだ。御歳72の矢崎さん。まだまだ現役である。
 
2005.10.3 軍国少年からジャーナリストへ
2005.10.10リリース ヤクザに殺されかけても辞めなかった
NEW! 2005.10.17リリース 「仕事」とは「遊び」なり

プロフィール
 

矢崎 泰久
(やざき・やすひさ)
'33年(昭和8年)東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科に学び、日本経済新聞社に入社。その後内外タイムスに移り社会部記者としてキャリアを積む。'65年に父が経営する出版社、日本社から「話の特集」を創刊。以来、'95年の休刊まで編集長を務める。また映画、テレビ、舞台などのプロデューサーとしても数多く手腕をふるった。現在はフリーのジャーナリスト。『月刊現代』『週刊金曜日』などで連載企画をもつ。正しい歴史を学び、現在おこっている世の中の真実を見据える「学校ごっこ」講師でもある。

学校ごっこ
今年で4年目(8期/'05年9月〜'06年1月)の本当の歴史を学習する講座。「学校ごっこ」の特徴は"国家権力の視点ではなく、人権すなわち個々人の視点を大切に歴史を学ぶ"ということ。4つの講座のうち、矢崎さんは「歴史から考えるジャーナリズム」を担当。本当のジャーナリズムとは何か、その歴史を学び、語り継ぎ、その上に自分達で歴史を作っていく、という信条で開催。もちろん"遊びの精神を忘れない"ことも大切にしている。

 
 
おすすめ!
 

『話の特集 2005 話の特集 創刊40周年記念 』(WAVE出版)
『話の特集 2005
話の特集
創刊40周年記念 』

(WAVE出版)

創刊から矢崎さんが編集長を務める月刊総合誌の40周年記念号にして10年ぶりの「話の特集」になる。最近の商業主義偏重な世間の雑誌に憂いを感じた矢崎さんが一念発起して復刊させた。デザイン面で協力した和田誠氏をはじめ、創刊当時から関わっている執筆陣、カメラマン、イラストレーターを中心にそれぞれのテーマで様々な作品を寄せ、濃度の高い一冊になっている。篠山紀信、立木義浩が名を列ねる写真のページ、黒田征太郎のイラストレーション「PIKADON」、そして女優・冨士眞奈美の小説や指揮者・岩城宏之によるエッセイなど執筆者選びと意外性のある執筆テーマという"「話の特集」らしさ"は変わらない。立川談志、椎名誠、岸田今日子他、計14名が寄稿したジョーク・フェスティバルもバラエティ豊かで楽しく読める。


『「話の特集」と仲間たち 』(矢崎泰久/新潮社)
『「話の特集」と仲間たち 』
(矢崎泰久/新潮社)

'65年(昭和40年)に創刊した日本初のカルチャー総合誌「話の特集」。リベラルな思考を根底にエンターテイメントの本質を追求した。矢崎さんの下には、和田誠、横尾忠則、寺山修二、五木寛之など、今見返せばきら星のごとき才能が終結。面子の豪華さだけでなく、当時の雑誌的セオリーをひっくり返す斬新な誌面が人気となり、雑誌文化に大きな影響を与えた。そんな「話の特集」の黎明期に関わった人々とのエピソードに加え、新聞記者から雑誌編集長、さらに出版社社長まで兼任していく矢崎さんの雑誌人生的自伝でもある。

 
 
お知らせ
 
魂の仕事人 書籍化決!2008.7.14発売 河出書房新社 定価1,470円(本体1,400円)

業界の常識を覆し、自分の信念を曲げることなく逆境から這い上がってきた者たち。「どんな苦難も、自らの力に変えることができる」。彼らの猛烈な仕事ぶりが、そのことを教えてくれる。突破口を見つけたい、全ての仕事人必読。
●河出書房新社

 
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