「自分もその時28歳。友人の多くは職に就き、なかには結婚している人もいます。そんな中で、私は、仕事の経験といえば学部・院の6年間でやったアルバイトくらい(※3)。新卒でもなければ中途採用の人に求められる職務経験もない。高学歴がかえってマイナスになり、これといった仕事を見つけることができませんでした」
上原さんは、ともかく何かしなければと重い腰を上げ、ハローワークに出向くことにした。家に閉じこもって漫然としていても始まらない。少しでも前に進もうと考えたのである。
「ロシア語をキーワードに検索しても出てくる仕事はほとんどありません。幅を広げて外国語、英語と入力してもこれだと思う仕事にはヒットしませんでした。次第にレベルを下げ、業種はもちろん、企業の規模や待遇なども考えずに、とにかく語学力を生かせそうな仕事を見つけては、履歴書を出してみました。しかし、ほぼ書類選考でNGでしたね」
そんな中、とりあえず仕切り直しにと出掛けた京都・大阪の小旅行をつかの間楽しんでいる最中に、ハローワーク経由で企業から履歴書が見たいという話が来た。不合格の痛手と入れ替わるように、今ここにある現実が色濃くなっていく。
「まあ、落ち着いて考えてみれば、私は何が何でも外務省で働きたかったわけではなく、語学を発揮できる仕事、海外に出て活躍する仕事を望んでいたのです。外務省にこだわったのは、私の、いわば意地に過ぎなかったのではないか。それなら、そんなちっぽけなプライドなど持っていても意味がないのではないかと思えてきたのです」
旅行の最後は、ほとんど宿で履歴書を書いて企業に送るというあわただしいものになってしまった。 |