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一年間に転職する人の数、300万人以上。
その一つひとつにドラマがある。
なぜ彼らは転職を決意したのか。そこに生じた心の葛藤は。
どう決断し、どう動いたのか。
そして彼らにとって「働く」とは—。
スーパーマンではなく、我々の隣にいるような普通の人に話を聞いた。
第12回 後編 大川由佳子さん(仮名) 25歳/システムエンジニア
悪循環プロジェクトで体はボロボロ ここにいても成長できない──3年目で決意した初めての転職
激務で自律神経失調症を患ってしまったことと、SEとして目指す将来像への不安から、転職を考え始めた大川さん。しかし、すぐには動かなかった。これまで即断即決してきた彼女に「待った」をかけたものとは──。
手探りで始めた転職活動
スカウトメールに自信
 

 2005年春、転職を考え始めた大川さんだが、なにしろ初めての転職。いったい何から手をつければいいのか、皆目見当がつかなかった。

 「『転職活動』のイメージが湧かなかったんですね。そんなとき、実際に利用して転職した友人から【人材バンクネット】の存在を教えてもらったんです」

 人材バンクを使うことのメリットを読んだ大川さんは、これは使わないテはないと、早速【人材バンクネット】に登録。キャリアシートを公開してみた。

 すると公開したその日に複数の人材バンクからスカウトメールが届いた。その後も続々と届き続け、その数は30通をゆうに超えた。現時点の自分の客観的な市場価値については不安も抱いていたが、数多くのスカウトメールが届いたことで、一応の自信にはなった。

 人材バンクとはどういところなのか、どんな話をしてくれるのか、とりあえず行ってみようと思った大川さんは30通を超えるスカウトメールから5つの人材バンクを選んだ。基準はちゃんとキャリアシートを読んで、自分だけに送っていると思えるかどうか。その上でやりたいと思える求人を紹介しているかどうか。単に「一度登録に来ませんか?」といった機械的なスカウトメールはゴミ箱に入れた。

 人材バンクに行った大川さんはまず、今、自分は本当に転職していいのか、というところからコンサルタントに相談した。するとほとんどのコンサルタントが「今がチャンス」と肯定した。

 「5人のうち4人のコンサルタントは、今なら若くて多少、経験不足でもやる気だけでとってくれるいい会社がいくらでもある。まして目標がしっかりしていればなおさらだ。逆にあと一年経ったらスキル、経験が厳しく問われるから難しくなるかもしれない、と言ったんです」

本当に今転職していいのだろうか──
なかなか一歩が踏み出せない
 

 しかし、だからといって即活動開始、というわけにはいかなかった。それまで進学、就職と自分で自分の道を考え、選び、歩いてきた彼女がめずらしく悩んで動きを止めた。

 「コンサルタントの話を聞いてもなお、自分の中に迷いがあったんです。プログラマの仕事に就いて2年しか経っていない私が、果たして他の会社でやっていけるんだろうかと。いくらやる気だけで採用してくれるとはいっても、それって本当なのかな?と。そういう迷いや疑いが大きくてなかなか踏み出せなかったんです。同時にこんな気持ちで活動を開始してもうまくいくわけがないと思っていたんです」

 大川さんはコンサルタントとの面談を終えた段階でいったん転職活動を休止、コンサルタントからのアドバイスや紹介された求人案件などをもう一度整理、分析、比較検討しつつ、本当に今、転職をするべきなのか、考えた。

再始動は3カ月後
信頼できるコンサルタントを再訪
 

 次に大川さんが動いたのはそれから3カ月後の2005年6月だった。

 「3カ月の間にプロジェクトに進展が見られて、それが自信になったんです。あんなひどいプロジェクトでもどうにかすることができたじゃないかって」

 その自信が、他の会社でやっていけるのかという不安を打ち消した。また、進展したことで切れ目が見えたことも好材料だった。やはりプロジェクトが火を吹いている真っ最中に抜けるのは心苦しかったからだ。

 よし。今なら本気で転職に取り組めそうだ。そう思った大川さんは再びイムカ株式会社の本原伸二コンサルタントを訪ねた。

 「3カ月前にお会いしたとき、一番私の話をじっくり聞いてくれて、悩みや疑問にも丁寧に、でもハッキリと答えてくれたのが本原さんだったんです。最初に会ったときは、転職しようかどうか悩んでいること、これまでのキャリア、スキル、現状の仕事、興味をもっていること、将来どうなりたいかなどを聞かれた後、じゃあこうすればいいんじゃないかなとアドバイスをいただきました。面談に行ったとき、求人案件を紹介されなかった唯一のコンサルタントで、かえってそれで安心感をもてました。私の話をちゃんと話を聞いてくれるって」

 本原氏はひととおりのヒアリングとアドバイスをした後、焦らなくて大丈夫だからじっくり考えて、本気で転職する気になったら、またおいでといった。この人なら信頼できる。そう思った。

 中には休止中の3カ月の間に催促してくるコンサルタントもいた。そうされればされるほど、大川さんの気持ちは引いた。

心が決まればとんとん拍子
緊張の初面接も開き直りでクリア
 

 2度目に会ってからはスピーディーにことは運んだ。大川さんの希望する会社はある程度規模が大きく、実力主義で、上流工程への道のりがはっきりと見える会社。

 本原氏は大川さんにマッチしそうな求人案件をいくつかピックアップ。会社説明と職務経歴書の添削など本格的に転職活動がスタートした。

 「当時の会社はフレックスだったので、出社前などの時間を使って働きながら転職を始めました。本原さんと仕事の内容や条件などを調べつつ会社を選んで、面接の段取りを整えてもらいました。企業の場所やプロフィールなどを細かくまとめて渡してくれたのですごく安心でしたね。最悪の場合、他のモノをすべて忘れても本原さんのメモを持っていれば大丈夫でしたから」

 そんな気配りをしてくれる本原氏の紹介でエントリーしたのは2社。どちらも業界では有名な大手システム会社だった。書類選考、面接ととんとん拍子に進んだ。

 「やはり初めての面接なので緊張しました。転職の面接の場合、ハナから即戦力として見られるので、新卒の面接とはまた違った緊張感がありしたね。特に今の会社の2次面接は社長が面接官だったので手が震えるほど緊張しました(笑)。でも途中から、普段から考えていることを話せばいいんだと思って、今自分ができることや、今後のキャリア目標などを本音で話すようにしたら、緊張も解けました」

 本原氏は面接が終わるたびに、面接官の印象など細かくフィードバック。2次面接の後は、面接官の反応から結果が出る前に大川さんの内定を確信。退職指導まで行っている。その本原氏の予想どおり、2005年7月、2社から内定が出た。スタートしてから1カ月ちょっとのスピード内定。大川さんが選んだのは外資系コンサルタント会社系列のシステム会社だった。決め手になったのは社長の人柄。

 「面接の中で、社長は自分の目指している会社像について話した後で『話が違うってならないように今から言っておくけど、ウチの会社はツラいですよ』とハードな仕事の内容を本音で説明してくれたんです。それを聞いてこの社長の経営する会社で働きたいと思ったんです」

 年収は実質的にはダウンしたが、全く気にならなかった。

 「当時はひどいプロジェクトのおかげで残業代がかなりついていたので、同年齢のプログラマに比べ、かなり高い年収になっていました。だから年収はダウンとなりましたが、今の私のレベルでは適正額だと思っています。そもそも今回の転職ではあくまで将来のキャリアパスの実現が目的だったので、年収ダウンは全く気にならないです」

いい会社に巡り会えた
転職して本当に良かった
 

 2005年12月、大川さんが転職して5カ月が経った。

 「結論から言えば、今の会社には満足しています。本当に転職して良かった。次々と新しい技術を身につけられるし、規模が大きく分業制が徹底しているので自分の仕事に集中できます。技術者の中には日本に数人しかいないようなレベルの高い人がいるので触発されますね。前の会社では"名ばかりの"に実力主義でしたけど、今は本当の実力主義ですから緊張感があります。20代のリーダーもごろごろいますしね。私も頑張って早くリーダー、マネジャーとマネジメントの仕事、そして設計から関われるようなポジションに行きたいですね」

 目をきらきら輝かせながら将来の目標を語る大川さん。今はシステム全体を把握できる上流行程に向けて頑張れることそのものが幸せだと語る。

 転職の2文字が頭の中にちらつき始めたころは、どう動いていいのか皆目検討がつかなかった。同時に今の自分に自信が持てずなかなか一歩が踏み出せなかった。でも人材バンクのコンサルタントに不安や悩みを相談して助言を得たり、そのときの仕事に懸命に取り組み、結果を出すことで少しずつ自信をつけていった。

 そして転職の決意を固めた後の動きはすばやかった。この決断までの熟考と決断後の迅速な動きが成功の大きな要因となったのは間違いないだろう。そして今、大川さんはそのままのスピードで、目標に向かって突っ走っている。

 システムコンサルタントの肩書きが名刺に刷り込まれる日は、予想以上に早く来るかもしれない。

 転職活動データ
  応募:3社
面接:3社
内定:3社
コンサルタントより
イムカ株式会社
 コンサルタント 本原 伸二氏
  しっかりとした人柄に加え
志望動機と今後の目標を
伝えられたのがよかった
 
片山八十彦氏
 大川さんはまず年齢が24歳と若かった。今、IT業界では若手のSEが絶対的に不足していますから、
若さは大きなアドバンテージとなります。少々経験不足でもポテンシャルを見てもらえますから。ただ、企業によっては「経験3年以上」というところもあるので「絶対的に有利」とはいえませんが。

スキル面ではJAVAとC#が使えたこと。今はJAVAができないと紹介できる求人は半分くらいに減るほど、需要が高いですからね。

大川さんの第一印象は礼節をわきまえた誠実なお嬢さんという感じで非常に好感をもてました。ほんとに24歳かと思うくらいしっかりしてますよね。これなら面接まで行けば絶対に内定を取れると思いました。事実、内定が出た3社の面接官すべてから人柄面で高評価をいただきました。いまどきめずらしいしっかりしたコだ、ぜひウチにほしいってね。

コミュニケーション能力が非常に高い人です。こちらの話をちゃんと聞けて、質問には的確に答えることができる。意外にちゃんとできる人、少ないんですよ。企業側も最近は特にコミュニケーション能力を重要視しているので、ちゃんとコミュニケーションできない人はいくらスキルが優れていても採用にはなりません。

最初に面談にこられたときはまだ転職するかどうか迷っていたので、迷っているときはこのまま一気に突き進むか、いったん転職活動は止めてしまうか、どっちかにしなさいとアドバイスしました。中途半端が一番よくないですからね。転職は必ずしもいいことじゃありませんからね。リスクが伴いますし。覚悟が決まらないんだったら、動かないほうがいいと思います。その分じっくりと考える時間をもつ。その方が結果的にうまくいくことが多い。だから大川さんにも「心が決まってから、もう一度いらっしゃい」と言ったんです。

大川さんが第一志望の企業から内定をもらえた最大の理由は志望動機、今後のキャリア目標、入社してからどういう貢献ができるかということをはっきりと言えたからだと思います。どれも当たり前のことですが、面接時に明確に言える人、少ないんですよ。この辺も面接前にじっくり指導して、これだけしっかり答えられれば絶対内定が獲れるからと送り出しました。

現在、IT業界は間違いなく売り手市場です。求人数は伸び続けています。特にリクエストが多いのが組み込み系のソフト。メーカー、製造業が多いですね。アナログ回路の設計の経験がある人なら選び放題です。あとはハードウェアの設計も需要は高いです。

特に中小企業は受注できても作り手がいないという深刻な人手不足に悩まされてます。中小企業に入社してリーダーやマネジャーを経験して、自分といっしょに会社を大きくしてやる! といった意気込みのある人はひっぱりだこでしょう。年齢的に一番熱いのが30代前後ですが、大川さんの例もあるように、20代前半でもチャンスは大いにあります。

 
プロフィール
photo
埼玉県在住の25歳。大学卒業と同時に情報システム系企業にSEとして就職。同社にてシステム開発等いくつかの現場を担当するが、入社2年目には激務がたたって体調を崩す。将来の目標をマネジメント等上流行程と決め、そのためのスキルアップを果たすため転職を決意する。9月に転職。現在は同じく情報システム系企業でSEとして活躍中。某人材紹介会社に出向してシステム開発に従事している。
大川さんの経歴はこちら
 
取材を終えて

高校時代には将来の仕事や進む道を決めていたという大川さんは、年齢に対して精神年齢の高い落ち着いた大人という印象でした。

転職すべきかどうかで3カ月悩んでいますが「悩んだ時にむやみに動かない」といったことは、言うほど簡単にはできません。「今がチャンス」というコンサルタントの言葉を鵜呑みにし、そのまま勢いで動くのではなく、いったん冷静になり、集めた情報を整理、分析、比較検討して、自分の気持ちをじっくり確かめる。この、一見遠回りに見える行動こそ、転職というプロジェクトを成功させるためのもっとも効果的なやり方だといえるでしょう。

自分が同年齢だった頃をかえりみて、その落ち着きぶりは感心するというより驚きに近いものでした。

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