強い組織つくりの基本は「元気な挨拶」から始まる
株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役社長 小笹 芳央氏
[profile] 1961年大阪府出身。86年早稲田大学政治経済学部卒業、同年株式会社リクルート入社。本社人事部人材開発課長、大手町営業所長、組織人事コンサルティング室長、ワークス研究所主幹研究員など一貫して組織人事領域を歴任。2000年株式会社リンクアンドモチベーション設立。主な著書に、『「アイ・カンパニー」の時代』(2003年/中央公論新社)、『モチベーションカンパニー』(2002年/日本能率協会マネジメントセンター)、『モチベーション・マネジメント』(2002年/PHP研究所)、 『部下の「やる気」は上司で決まる』(2001年/実業之日本社)
私たちが日常的に交わし合う「挨拶」ですが、「たかが挨拶、されど挨拶」と言えるぐらい実は大変に奥が深いものがあります。
ある会社の営業所長から次のような相談を受けました。「うちの職場には全く活気がなくて、出社した際に誰も元気に挨拶をしないのです。営業所ができた頃はもっと明るい雰囲気があったのですが…。まったく最近の若手は困ったものです」と。
「営業所は何人いるんですか」と聞いたところ「私を含めて20人です」という答えでした。これを聞いた私はさっそく他の19人に面談をしました。すると面白いことが分かりました。全員が全員「うちの職場に活気を取り戻したい」「ただ誰も挨拶をしないので朝から気持ちが沈んでしまう」と口をそろえて同じように答えたのです。そこで私は営業所長に助言しました。「まずはあなたが元気な声を出して挨拶しなさい。月曜日から始めて少なくとも1週間は、私に騙されたと思って続けてみなさい」と。すると次のような変化が起こりました。月曜日の朝、私に指示された営業所長が大きな声で挨拶を始めたので職場の皆は戸惑っていました。しかし火曜日には19人のうち2人が少しはにかみながらも声を出して挨拶をするようになりました。
そして水曜日は営業所長を含む6人が元気に挨拶を交わし合う職場になったのです。ここまでくると「職場の変革」はあと一歩です。木曜日は20人中12人が挨拶をするようになり、金曜日は残りの8人も加わり、20人全員が挨拶を交わし合う職場に生まれ変わったのです。このことは私たちに何を教えてくれるのでしょうか。
当初は、20人全員が「挨拶をしない自分以外の19人に対して不満を抱き、自分を棚に上げて他の人が変わることを期待していた」状態だった職場が、わずか1週間で大きな変化を遂げたのです。しかも「たった一人の意識の変化=自分から挨拶する」が引き金となったのです。
挨拶は「気持ちのキャッチボール」です。誰かが気持ちよくボールを投げなければ何も始まりません。これは仕事にも当てはまることでしょう。職場で上に立つ者ほど「先に相手が変わることを期待しない」「自分からまず変わる」「そして本気で続ける」ことが大切なのです。