環境変化と対応能力
経営コンサルタント 佐藤 修一
戦後の高度経済成長がバブルと共に弾け、日本の社会環境は著しく変化しました。次々と起こる企業不祥事や事業の失敗は、その社会環境の変化に気づいていない、または見て見ぬふりをしていた企業に当然のごとく起こった事件と言っても過言ではありません。米国においても同様にエンロンやワールドコムのような大不祥事があり、企業は事件・事故を起こすことにより、社会的信用を失墜するばかりか、会社そのものが消滅する時代となりました。今回は、環境変化と対応能力についてお伝えしたいと思います。
さて、現在の経済危機は、働く側にとって大きな転換期になるかもしれません。以前のような成長が望めない中、正社員の賃金を市場と無関係に決める方式には限界があります。
日本型の賃金は、これまで、「人に対して払う」という考え方が基本でした。社員を人材として価値づけし、生活保障分も含めた額を支給する。労使交渉も、残業手当やボーナスも含めて「生活給」という前提でした。しかし、現状、個人の価値を企業内で明確に決めることは難しく、経営側の自由度が高いこの時代には逆に、いくらでも賃下げできる危うさもはらんでいると思われます。公務員の月給とボーナスの引き下げも決定された昨今、「公務員は安定している」という神話も過去のものとなりました。
関東地方のパート勤務の40代女性からは、「残業がなくなって夫の賃金が激減する一方、人員削減で職場の人数が減った分をカバーしなければならず、残業は減っても、仕事自体は逆に増えた」、他に「私も7割カットを迫られた」、「ポストがない。残っても年収は7割カットだ」、「自分達とは関係のないうねりの中で、管理職が狙い撃ちされた。私達が何か悪いことをしたのか」等の声を多く聞きます。
経済情勢悪化への人事面の対応
(全国2,734社の複数回答)
過剰である | 適正である | 不足している | |
---|---|---|---|
60代 | 39.4% | 49.8% | 1.2% |
50代 | 52.7% | 36.2% | 7.1% |
40代 | 19.1% | 46.8% | 30.5% |
30代 | 7.9% | 31.4% | 57.9% |
20代 | 3.0% | 19.4% | 75.4% |
(※共に労働政策研究・研修機構の調査から)
上記データからも現状の厳しさがうかがい知れます。
この状況を変えるには、個人に対してではなく、その人がしている仕事に対して賃金を払う「職務給」の要素を、もっと正社員の賃金にも取り入れる必要があります。同時に非正規を正規にきちんと登用する道をつくり、移動の壁を低くする。それにより、もともと職務給の非正規と正規が歩み寄る形で、適正な賃金に平準化されていくのではないかと思います。
さらにリスクマネジメント(身のまわりに潜むリスクに目を向け、それらに係わるリスクを全て洗い出し、分析、そしてその対策を立て、損害を回避すること)の観点から社員(働く人々)、企業、政府の対応をとらえると
今後も経済状況が完全に元に戻ることは考えにくいことから、社員(働く人々)の賃金は上がらない前提で備えることが肝要になります。
ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、企業戦略とは何かという問いに対して、「戦略とは何をしないかを決めることだ」と述べています。換言すれば、「この事業には手をつけない」ということを、明確にすることが経営戦略というわけです。資本や人材などの経営資源は有限であるため、手をつけない事業領域を決めることで、はじめて得意分野の事業に経営資源を集中することができるようになります。
現在、収益力の低下に苦しんでいる日本企業の多くは、「何をしないか」という明確な戦略を欠いていることがその原因であると考えます。これがないままに、同業他社が始めた事業を「それでは我が社も」と横並びにおこなおうとしたり、将来性のない事業を延々と引きずって赤字を出し続けていては、収益力、ひいては企業競争力が向上するはずはありません。競争力を有する「なくてはならない企業」となるためには、より良い機能を掛け合わせて、利益を出すダイナミックなアライアンス、そして、ゆるやかな企業連携を活用するバランス感覚、すなわち「共創」の関係こそが、いま求められる企業の姿なのではないでしょうか。
これからは、女性の活躍が求められる時代にもなります。すなわち、夫の稼ぎだけで家族を養うモデルは崩れることから、政府は、都会と地方それぞれの実情に合った子育て支援策などに戦略的に取り組む必要があります。
社会的な公平性や公正性も失われてる現在、社員、企業、政府とも半世紀続いた価値観のを直す時期が今、来ていると思われます。