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団塊退職その後

経営コンサルタント 佐藤 修一

以前、このお役立ち情報でも紹介しましたが、ご承知のように、戦後の1947年から49年のベビーブームに生まれ、日本の高度経済成長を支えた団塊の世代は今年から、定年の60歳を迎えます。2007年問題は日本経済や企業にとってチャンスなのかピンチなのか。団塊の大量退職がもたらすさまざまな現象を、今一度探りたいと思います。
今回は、“団塊退職その後”についてお伝えしたいと思います。

民間調査機関の多くは、団塊世代が今後3年間に受け取る退職金を50兆円前後と見込んでいます。資金獲得競争では、団塊世代との接点をいかに作るかがポイントとなります。入社、結婚、住宅購入と、サラリーマンのライフサイクルに合わせて顧客獲得を狙う銀行にとって、定年退職は最後のビックチャンスになるからです。電通が昨年12月実施した退職金に関する意識調査によると、団塊世代が退職金を最初に預けるつもりなのは普通預金(50%)や定期預金(42%)であり、回答者の77%はいずれ別の金融機関や金融商品に移すと答えています。

金利優遇などで資金を集めても、団塊マネーは移ろいやすい傾向があります。すなわち、優れた商品を出して、顧客を本当に大切にするというイメージをいち早く確立できたところが団塊マーケットを制すると思われるからです。団塊世代が、ゆとりある第二の人生を過ごすために、どのような資金プランを提案するか。金融機関にとって知恵の見せ所となるでしょう。

一方、定年退職からのセカンドライフについて考えると、この時間は約7万時間と言われていますが、一日のうち家事や睡眠などに費やす「日常生活時間」14時間を除いて、団塊世代が定年から80歳までに、自由に使える時間の合計となります。

豊富な「自由時間」を得る団塊世代に、企業は熱い視線を送っています。本命と見られるのが旅行です。団塊退職は消費を7.8兆円押し上げる効果があり、旅行だけで1.1兆円と推測されます。

また、豊かな老後には、健康面の安心も欠かせません。ある商社は、全国でも珍しい総合病院併設の分譲マンションを開発しており、介護や医療関係の資格を持つ管理人も24時間常駐させています。

しかし、企業が期待するほど、団塊世代の消費は盛り上がらないとの見方もあります。大手証券会社は、今後3年で約50兆円と見込まれる団塊退職金のほとんどは住宅ローンなどの返済や金融資産に回り、退職後1年で消費に使われるのは1割にとどまると予測しています。56〜60歳の世帯で1年前より消費が増えた世帯は18%と、全世帯平均の31%を大きく下回ります。団塊世代の消費について、退職記念で一点豪華主義に走る人はいると思われますが、普段は堅実で、財布のヒモは意外に固いだろうと推測されます。

さらに、消費に占める60歳以上の高齢者世帯の割合は07年から急上昇を始め、06年の34%台から12年には39%超になると推測されます。高齢者世帯の割合が高くなりすぎると、消費全体にマイナスとなります。団塊世代の大量退職は、10年初めまでは追い風になりますが、その後は一転して景気を押し下げる方向に作用する公算が大きくなるでしょう。シニア向け商品の開発など目先の需要への対応だけでなく、海外市場の開拓など「2007年問題」の後を見据えた企業戦略が求められています。

先を見ると労働力の減少にも注視が必要となります。あるシンクタンクは、「高齢者の再雇用が進まないと、日本の労働力人口の減少数は07年の33万人から拡大を続け、12年と13年に46万人のピークを迎える」さらに、内閣府は、「労働力の減少が10年度から10年間の経済成長率を、毎年0.7〜0.9ポイント押し下げる」としており、これらのことから人手不足による経済成長の鈍化を防ぐには、高齢者や女性を働き手として活用する必要が不可欠であると思われます。

もとより、団塊世代の大量退職は、日本人の働き方を大きく変えようとしています。
ある電気メーカーは、定年延長制度を導入しましたが、実際に定年を延長した社員は04年度まで毎年2〜5%とごくわずかでした。原因は、社員アンケートにより60歳以降の給与が定額制で差が付かないなど、硬直的な処遇への不満が強く現れていたことにありました。その結果、「人員は確保したいが人件費は抑える、そのような、会社の都合だけを考えた制度はうまくいかない」との反省から、昨年6月に60歳以降も成果に応じて給与に差を付ける制度に改めました。

技術の伝承に目を向けると、技術を持つ職人がいなくなることには不安がありますが、技術の伝承が必要なのは「モノ」作りだけではありません。「システムをゼロから作った経験者がいなくなることが、IT(情報技術)の2007年問題だ」とIT分野での確実な技術伝承の重要性を強調する声もあります。大量退職が本格化し、団塊の技能を伝える時間が残り少なくなることから技術やノウハウを確実に伝えられるかどうかが、将来の企業の浮き沈みを左右することになると思われます。

団塊退職は消費拡大の起爆剤になるのか、労働市場の活性化になるのか。期待と不安が交錯する中、いよいよ本番が始まります。

佐藤 修一(さとう しゅういち)/経営コンサルタント・シニアカウンセラー

住友ビジネスコンサルティング(現 日本総合研究所)にて人事戦略コンサルティングに従事。経営人事に注視し組織欲求と個人欲求の統合を目指す。
※組織変革、人事労務管理、トータル人事システムの構築、能力開発等。
[ アウトプレースメント会社 ]人事コンサルティング事業の構築、求職へのキャリアマッチング、社内カウンセラーの能力開発、スーパーバイザーを担当/
[ 行政機関・大学 ]キャリアカウンセリング、キャリアデザイン、キャリアディベロップメントの講義

[ 資格 ]経営士、経営情報診断士、帳票管理士、監督士、シニアカウンセラー、販売士養成講師、 余暇生活開発士、余暇生活相談員、心理相談員、東京都中高年齢者福祉推進員、東京都アドバイザリースタッフ等
[ 大学/学会等 ]中小企業大学校、千葉工業大学、千葉商科大学、上武大学各講師 国際TA (交流分析)協会名誉会員、日本産業精神保健学会 認定専門職
  • 探究心旺盛なことから、日本でただ一人いる、フロイトの孫弟子に師事し臨床経験からカウンセリング、カルテ、薬等様々に学ぶ
  • 官公庁及び電力会社など公的企業、大手企業を中心にコンサルテーションを実施する
2007.4.27 update

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